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だから彼女を好いていた(8)
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「寄付金だって、兄上が直接孤児院へ手渡しているわけではないですよね」
「それは、そうだ。人に命じて、やってもらっている。金額は私が決めているが」
「その者は信用に値する人物ですか?」
「何が言いたい?」
「いえ、とても単純なことですよ。兄上は寄付をしている。だけど、孤児院は寄付を受け取っていない。兄上の帳簿は、僕も確認しているから兄上が嘘をついていないのはわかります。では孤児院は? あれは、嘘をつけるような状態ではなかった」
そこでサディアスは腕を組んだ。
「神殿へ行き、あの神官長と顔を合わせた時は『よほどいいものを食べているんだろうな』というのが第一印象です。ですが、マザー長からはそんな様子が感じ取れません。今日をやり過ごしたら、明日はどうしようか。そんな気持ちが漂ってくるような、そんな感じです」
「だったら、その寄付金はどこに消えたんだ?」
「だからです。その間で消えたと考えるのが妥当ですよね」
「……チャド・シェパード」
キンバリーは苦し気に一人の男の名を口にした。
「私が、孤児院への寄付金を任せている男は、チャド・シェパードだ。シェパード侯爵の嫡男だから、信用していた」
「孤児院へは、いろいろと確認するために、もう一度足を運ぶつもりです。次は、帳簿を見せてもらおうと思っています。兄上はそのチャド殿を……」
「ああ」
キンバリーは深く頷く。
「兄上。まずは、チャド殿に話を聞いてみてはいかがでしょうか。本当のことを言うかどうかはわかりませんが……」
「そうだな。まずは彼に話を聞いてみることにするよ」
そう言ったキンバリーは悄然とした面持ちであった。気持ちを落ち着かせるかのようにカップに伸ばす指の先が、微かに震えている。その一連の仕草を、サディアスは黙って見ていた。
音を立てて、カップが戻される。
「……だが、そうだったとしたら。チャドは私の寄付金をどうしたのだろうか? 彼が私的に何かに使った?」
「そう考えるのが無難ではあるのですが、シェパード侯爵は特にお金に困っていないのですよ」
それでも金はないよりはあったほうがいい。
「今回は……私の落ち度だな……」
「不正な金を作るのに、帳簿の改ざんなんてはよくわることですから。そんなに落ち込まないでください」
とは言ってみたものの、それを見抜けたなかったのだから、こちらの落ち度で間違いはない。
サディアスは唇を噛みしめる。
奪われた金は、誰が、どこで、何に使ったのか。もしくは、使っているのか。
少なくとも、孤児院の子どもたちのために使われていないことだけは確かである。せっかくラティアーナが大事に育てた子供たちの能力が、枯れてしまう。
「ラティアーナは今、どこにいるのだろうか……」
思い出したようなキンバリーの呟きが、胸にグサリと突き刺さった。それでもなんとか笑みを浮かべ、話題を変える。
「それで兄上。その孤児院の件なのですが。ラティアーナ様は子どもたちに食料や衣類などを寄付していたそうなのです。それに、子どもたちが作ったレース編みとか、そういったものをバザーで売って資金にしていたようなのですが……」
キンバリーがサディアスの言葉の先を奪った。
「お前の言いたいことはわかった。ラティアーナがいなくなった今、それらが期待できないということだろう? すぐに、食料と衣類は手配する。バザーの件は、協力してくれそうな夫人を探しておこう」
「ありがとうございます」
サディアスは礼を口にしたが、それでもキンバリーの顔は晴れないままだった。眉をひそめ、きつく唇を閉じている。
ラティアーナが姿を消してから、問題ばかりだ。
神殿に行きたがらない聖女。腐敗臭漂う竜。
資金が不足している孤児院。指導者を失った孤児院の子どもたち。
そして、消えた金。
すべて解決しなければ問題であるが、どこから解決すべきなのかわからない。一つ一つの問題は独立しているように見えるが、それでも微妙に何かに絡まっているようにも見える。
ラティアーナは今、どこにいるのだろう。そして、何をして、何を想っているのだろうか――。
「それは、そうだ。人に命じて、やってもらっている。金額は私が決めているが」
「その者は信用に値する人物ですか?」
「何が言いたい?」
「いえ、とても単純なことですよ。兄上は寄付をしている。だけど、孤児院は寄付を受け取っていない。兄上の帳簿は、僕も確認しているから兄上が嘘をついていないのはわかります。では孤児院は? あれは、嘘をつけるような状態ではなかった」
そこでサディアスは腕を組んだ。
「神殿へ行き、あの神官長と顔を合わせた時は『よほどいいものを食べているんだろうな』というのが第一印象です。ですが、マザー長からはそんな様子が感じ取れません。今日をやり過ごしたら、明日はどうしようか。そんな気持ちが漂ってくるような、そんな感じです」
「だったら、その寄付金はどこに消えたんだ?」
「だからです。その間で消えたと考えるのが妥当ですよね」
「……チャド・シェパード」
キンバリーは苦し気に一人の男の名を口にした。
「私が、孤児院への寄付金を任せている男は、チャド・シェパードだ。シェパード侯爵の嫡男だから、信用していた」
「孤児院へは、いろいろと確認するために、もう一度足を運ぶつもりです。次は、帳簿を見せてもらおうと思っています。兄上はそのチャド殿を……」
「ああ」
キンバリーは深く頷く。
「兄上。まずは、チャド殿に話を聞いてみてはいかがでしょうか。本当のことを言うかどうかはわかりませんが……」
「そうだな。まずは彼に話を聞いてみることにするよ」
そう言ったキンバリーは悄然とした面持ちであった。気持ちを落ち着かせるかのようにカップに伸ばす指の先が、微かに震えている。その一連の仕草を、サディアスは黙って見ていた。
音を立てて、カップが戻される。
「……だが、そうだったとしたら。チャドは私の寄付金をどうしたのだろうか? 彼が私的に何かに使った?」
「そう考えるのが無難ではあるのですが、シェパード侯爵は特にお金に困っていないのですよ」
それでも金はないよりはあったほうがいい。
「今回は……私の落ち度だな……」
「不正な金を作るのに、帳簿の改ざんなんてはよくわることですから。そんなに落ち込まないでください」
とは言ってみたものの、それを見抜けたなかったのだから、こちらの落ち度で間違いはない。
サディアスは唇を噛みしめる。
奪われた金は、誰が、どこで、何に使ったのか。もしくは、使っているのか。
少なくとも、孤児院の子どもたちのために使われていないことだけは確かである。せっかくラティアーナが大事に育てた子供たちの能力が、枯れてしまう。
「ラティアーナは今、どこにいるのだろうか……」
思い出したようなキンバリーの呟きが、胸にグサリと突き刺さった。それでもなんとか笑みを浮かべ、話題を変える。
「それで兄上。その孤児院の件なのですが。ラティアーナ様は子どもたちに食料や衣類などを寄付していたそうなのです。それに、子どもたちが作ったレース編みとか、そういったものをバザーで売って資金にしていたようなのですが……」
キンバリーがサディアスの言葉の先を奪った。
「お前の言いたいことはわかった。ラティアーナがいなくなった今、それらが期待できないということだろう? すぐに、食料と衣類は手配する。バザーの件は、協力してくれそうな夫人を探しておこう」
「ありがとうございます」
サディアスは礼を口にしたが、それでもキンバリーの顔は晴れないままだった。眉をひそめ、きつく唇を閉じている。
ラティアーナが姿を消してから、問題ばかりだ。
神殿に行きたがらない聖女。腐敗臭漂う竜。
資金が不足している孤児院。指導者を失った孤児院の子どもたち。
そして、消えた金。
すべて解決しなければ問題であるが、どこから解決すべきなのかわからない。一つ一つの問題は独立しているように見えるが、それでも微妙に何かに絡まっているようにも見える。
ラティアーナは今、どこにいるのだろう。そして、何をして、何を想っているのだろうか――。
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