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抱きしめてもらってもいいですか?(4)
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◇◇◇◇
シャーリーがランスロットと同じ寝台で寝始めてから、十日が経った。
初めはなんとなく照れ臭かったが、十日も経てば慣れてくる。
同じ馬車に乗って王城にまで行き、同じ場所で仕事をして、また同じ場所で帰宅する。いつもどこでもランスロットが側にいる。
普段のシャーリーであれば、こんなに他人と行動を共にしていたら息が詰まる思いがするのに、なぜか気にならなかった。
そう、彼は気にならないのだ。悪く言えば空気のような存在かもしれない。いなくてはならないけれど、その存在のありがたみになかなか気づかない存在だ。
ランスロットにそのことを伝えるつもりはないが、恐らく口にしたとしても彼は怒らないだろう。むしろ、喜ぶに違いない。
そんな彼に、ちらりと視線を向ける。
ランスロットの専属事務官として、彼の執務室に常駐しているシャーリーだが、彼女の席は執務室の入り口の側にあり、ランスロットの執務席からは充分に離れている。
だから、たまにちらっと彼を見つめても、彼には気づかれないことの方が多い。
だが、今、シャーリーはランスロットに相談するか否かで悩んでいた。
基本的に、ランスロットは常シャーリーの側にいる。十日前からそれは突然始まった。
理由を尋ねても『シャーリーの側にいたいだけだ』と言って誤魔化される。その言葉が彼の本心なのは、彼の動作からなんとなく感じ取ったが、真の意味が隠されていることくらい、シャーリーだってわかっている。
その真の意味を教えてくれない。
ランスロットは、ふと立ち上がった。じっと彼を見つめていたシャーリーは、驚いて身体をピクリと震わせてしまった。
「ああ、すまない。驚かせたか?」
「いいえ。大丈夫です」
彼を見つめていたことは、知られていないようだ。ほっと、胸を撫でおろす。
「そろそろ会議の時間だから。俺が部屋から出たら、きちんと鍵を閉めておけ。俺以外の者を部屋に入れてはいけない」
「はい」
ランスロットは部屋にシャーリーを残していくたびに、同じことを口にする。
「あの。ランスロット様……」
「なんだ?」
シャーリーが名前を呼ぶたびに、彼の顔や盛大に綻ぶ。彼自身は無意識なのだろう。それが、最近では可愛いとさえ思ってしまう。
「お戻りになりましたら、少し相談したいことが」
「わかった。面倒くさい会議は、さっさと終わらせて、君の話を聞こう」
まるでうきうきという表現が似合うかのような身体の軽さで、ランスロットは部屋を出て行った。
シャーリーは彼から言われた通り、扉にしっかりと鍵をかける。
ランスロットが常に側にいる。一人になるときは必ず部屋に鍵をかけるようにしつこく言われる。
それが十日前から始まったとしたら、十日前に何かが起こったと考えるのが自然の流れだろう。
シャーリーは小さくため息をついた。
すっかりと抜け落ちている二年間の記憶。そして、ランスロットに守られているこの状況。
失った記憶を取り戻さなければならないような気がする。いや、絶対に取り戻さなければならない。今では、そう思えるようにまでなっていた。
シャーリーは机の一番下の引き出しを開ける。この一番奥に入っている帳面を手にする。
引き出しに入っている帳面は、シャーリーが仕事をする上での大事なことをまとめているものだった。特に、事務室で仕事をしていたときは、さまざまな部門の書類を目にすることが多かったため、それぞれの注意事項をまとめるようになったのが、始まりだ。
そして、二年間の記憶を失ったと聞いたとき、ランスロットはシャーリーがいろいろと帳面にまとめていたことを口にした。だから、机の中を確認したのだ。
シャーリーがランスロットと同じ寝台で寝始めてから、十日が経った。
初めはなんとなく照れ臭かったが、十日も経てば慣れてくる。
同じ馬車に乗って王城にまで行き、同じ場所で仕事をして、また同じ場所で帰宅する。いつもどこでもランスロットが側にいる。
普段のシャーリーであれば、こんなに他人と行動を共にしていたら息が詰まる思いがするのに、なぜか気にならなかった。
そう、彼は気にならないのだ。悪く言えば空気のような存在かもしれない。いなくてはならないけれど、その存在のありがたみになかなか気づかない存在だ。
ランスロットにそのことを伝えるつもりはないが、恐らく口にしたとしても彼は怒らないだろう。むしろ、喜ぶに違いない。
そんな彼に、ちらりと視線を向ける。
ランスロットの専属事務官として、彼の執務室に常駐しているシャーリーだが、彼女の席は執務室の入り口の側にあり、ランスロットの執務席からは充分に離れている。
だから、たまにちらっと彼を見つめても、彼には気づかれないことの方が多い。
だが、今、シャーリーはランスロットに相談するか否かで悩んでいた。
基本的に、ランスロットは常シャーリーの側にいる。十日前からそれは突然始まった。
理由を尋ねても『シャーリーの側にいたいだけだ』と言って誤魔化される。その言葉が彼の本心なのは、彼の動作からなんとなく感じ取ったが、真の意味が隠されていることくらい、シャーリーだってわかっている。
その真の意味を教えてくれない。
ランスロットは、ふと立ち上がった。じっと彼を見つめていたシャーリーは、驚いて身体をピクリと震わせてしまった。
「ああ、すまない。驚かせたか?」
「いいえ。大丈夫です」
彼を見つめていたことは、知られていないようだ。ほっと、胸を撫でおろす。
「そろそろ会議の時間だから。俺が部屋から出たら、きちんと鍵を閉めておけ。俺以外の者を部屋に入れてはいけない」
「はい」
ランスロットは部屋にシャーリーを残していくたびに、同じことを口にする。
「あの。ランスロット様……」
「なんだ?」
シャーリーが名前を呼ぶたびに、彼の顔や盛大に綻ぶ。彼自身は無意識なのだろう。それが、最近では可愛いとさえ思ってしまう。
「お戻りになりましたら、少し相談したいことが」
「わかった。面倒くさい会議は、さっさと終わらせて、君の話を聞こう」
まるでうきうきという表現が似合うかのような身体の軽さで、ランスロットは部屋を出て行った。
シャーリーは彼から言われた通り、扉にしっかりと鍵をかける。
ランスロットが常に側にいる。一人になるときは必ず部屋に鍵をかけるようにしつこく言われる。
それが十日前から始まったとしたら、十日前に何かが起こったと考えるのが自然の流れだろう。
シャーリーは小さくため息をついた。
すっかりと抜け落ちている二年間の記憶。そして、ランスロットに守られているこの状況。
失った記憶を取り戻さなければならないような気がする。いや、絶対に取り戻さなければならない。今では、そう思えるようにまでなっていた。
シャーリーは机の一番下の引き出しを開ける。この一番奥に入っている帳面を手にする。
引き出しに入っている帳面は、シャーリーが仕事をする上での大事なことをまとめているものだった。特に、事務室で仕事をしていたときは、さまざまな部門の書類を目にすることが多かったため、それぞれの注意事項をまとめるようになったのが、始まりだ。
そして、二年間の記憶を失ったと聞いたとき、ランスロットはシャーリーがいろいろと帳面にまとめていたことを口にした。だから、机の中を確認したのだ。
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