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あなたの妻にしてください
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「嬉しいわ」
マイリスはもう一度子竜に頬を寄せた。
「ねぇ、あなたに名前をつけてもいい?」
「キゥキゥ」
子竜が二回鳴くときは、いいよと言っているとき。
「どんな名前がいいかしら……。ランちゃん、でもいい?」
「キゥキゥ」
「うふふ。ランちゃん。あなた、かわいいわね」
ランちゃん。それはもちろんランバルトからとったもの。ランバルトに向かって「ランちゃん」なんて呼んだら、恐らくあの目を吊り上げて「やめろ」と言ってくるだろう。だから、子竜に向かって「ランちゃん」と呼ぶのだ。
「ランちゃんは、私のことを知っているの?」
「キゥキゥ」
「私ね。バルコニーから、夕焼けを見るのが好きなの。たまに飛竜が飛んでいるのよ。それを見ているだけで、なんか、ここに来て良かったなって思えるの。でも、いつもね。私の夫がね、早く部屋に入るようにって言ってきて、邪魔をするのよ」
「キゥ」
「一緒に夕焼けを見ましょう、と言っても、彼は一人で部屋に戻ってしまうの」
そこでマイリスは飛竜をぐっと抱きしめる。
「きっと、ランバルト様は、私のことが嫌いなのでしょうね。あの方の妻に相応しくないのよ、私。だから、仮婚の間も、子作りに励もうとなさらないの。だから、あと一年でランバルト様とはお別れ。だから、あなたともお別れね」
こつん、とマイリスは飛竜の頭に自分の頭を重ねた。
「私ね。ランバルト様の仮妻に選ばれて、本当は嬉しかったの。ランバルト様がトロナの国を訪れた時、私は遠くからあの方を見つめていたわ。ああ、素敵な方だわって、そう思った。でも、私とランバルト様は年も離れているし。だからね、まさかランバルト様が私のことを望んでくださるとは思っていなくて。本当に、本当に嬉しかったのよ……」
最後の方が鼻声になってしまったのは、目頭から涙が溢れそうになってきたから。
「今日はね。仮婚をして一年経った日なの。だけど、ランバルト様は覚えていなかったみたい。さっさと仮婚の時期が終わればいいと、そう思われているのね。なぜ、私なんかを仮妻に選んだのかしら」
目頭から涙が溢れてきた。止めようと思っても、次から次へと溢れてきてどうしようもない。
「キゥ」
子竜がその涙をペロッと舐めた。
「あなたは優しいのね。あなたになら、何でも言えそう。私ね、本当にランバルト様のことが好きなの。仮妻ではなくて本当の妻になりたいと思っているの。だけど、無理そうね。あの方の妻になるには子供を授からなければならないけれど、子供を授かるようなことをしていないのだから」
次に子竜は、マイリスの頬をペロっと舐めた。
「あと一年で、私はここを出ていくわ。そのとき、あなたも一緒に連れて行けたらいいのに」
飛竜は神獣だ。連れていくことなどできないことをわかっていて、マイリスはそう口にした。だけど、やはり飛竜は好きだった。あの海岸で見かけた時。夕焼けの空を舞う時。孤独でありながら、どこか愛を感じる飛竜。
「こんなに、誰かと喋ったのは久しぶり。ランちゃんは聞き上手さんなのね」
そこでチュッと子竜の頭に唇を寄せた。
「たくさん、お話をしたら眠くなっちゃった。あなたを抱っこしながら眠ってもいいかしら?」
「キゥキゥ」
マイリスは静かに微笑んで、子竜を抱き締めたまま寝台へと潜り込んだ。
マイリスはもう一度子竜に頬を寄せた。
「ねぇ、あなたに名前をつけてもいい?」
「キゥキゥ」
子竜が二回鳴くときは、いいよと言っているとき。
「どんな名前がいいかしら……。ランちゃん、でもいい?」
「キゥキゥ」
「うふふ。ランちゃん。あなた、かわいいわね」
ランちゃん。それはもちろんランバルトからとったもの。ランバルトに向かって「ランちゃん」なんて呼んだら、恐らくあの目を吊り上げて「やめろ」と言ってくるだろう。だから、子竜に向かって「ランちゃん」と呼ぶのだ。
「ランちゃんは、私のことを知っているの?」
「キゥキゥ」
「私ね。バルコニーから、夕焼けを見るのが好きなの。たまに飛竜が飛んでいるのよ。それを見ているだけで、なんか、ここに来て良かったなって思えるの。でも、いつもね。私の夫がね、早く部屋に入るようにって言ってきて、邪魔をするのよ」
「キゥ」
「一緒に夕焼けを見ましょう、と言っても、彼は一人で部屋に戻ってしまうの」
そこでマイリスは飛竜をぐっと抱きしめる。
「きっと、ランバルト様は、私のことが嫌いなのでしょうね。あの方の妻に相応しくないのよ、私。だから、仮婚の間も、子作りに励もうとなさらないの。だから、あと一年でランバルト様とはお別れ。だから、あなたともお別れね」
こつん、とマイリスは飛竜の頭に自分の頭を重ねた。
「私ね。ランバルト様の仮妻に選ばれて、本当は嬉しかったの。ランバルト様がトロナの国を訪れた時、私は遠くからあの方を見つめていたわ。ああ、素敵な方だわって、そう思った。でも、私とランバルト様は年も離れているし。だからね、まさかランバルト様が私のことを望んでくださるとは思っていなくて。本当に、本当に嬉しかったのよ……」
最後の方が鼻声になってしまったのは、目頭から涙が溢れそうになってきたから。
「今日はね。仮婚をして一年経った日なの。だけど、ランバルト様は覚えていなかったみたい。さっさと仮婚の時期が終わればいいと、そう思われているのね。なぜ、私なんかを仮妻に選んだのかしら」
目頭から涙が溢れてきた。止めようと思っても、次から次へと溢れてきてどうしようもない。
「キゥ」
子竜がその涙をペロッと舐めた。
「あなたは優しいのね。あなたになら、何でも言えそう。私ね、本当にランバルト様のことが好きなの。仮妻ではなくて本当の妻になりたいと思っているの。だけど、無理そうね。あの方の妻になるには子供を授からなければならないけれど、子供を授かるようなことをしていないのだから」
次に子竜は、マイリスの頬をペロっと舐めた。
「あと一年で、私はここを出ていくわ。そのとき、あなたも一緒に連れて行けたらいいのに」
飛竜は神獣だ。連れていくことなどできないことをわかっていて、マイリスはそう口にした。だけど、やはり飛竜は好きだった。あの海岸で見かけた時。夕焼けの空を舞う時。孤独でありながら、どこか愛を感じる飛竜。
「こんなに、誰かと喋ったのは久しぶり。ランちゃんは聞き上手さんなのね」
そこでチュッと子竜の頭に唇を寄せた。
「たくさん、お話をしたら眠くなっちゃった。あなたを抱っこしながら眠ってもいいかしら?」
「キゥキゥ」
マイリスは静かに微笑んで、子竜を抱き締めたまま寝台へと潜り込んだ。
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