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悪役令嬢が悪であるとは限らない

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【まえがき】
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です※
の5作目です。

1作目はネタに全振り、2作目は王道よくあるパターン、3作目は完全に思い付き、4作目はギャグとなったら5作目はシリアスじゃい!

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(ウザい……)
 リシャールは、まとわりつく隣の女性に一瞥くれる。この女は先ほどから何やら喚いているようだ。確か名前は。

「聞いておりますか? リシャール様」

(ああ、そうだ。名前は確かファニー、だったか? 恐らくエスム男爵の娘と言っていたような。こんな下流の貴族の娘が、一体、俺に何の用だ?)

「セシル様が、私の教科書を、その……」

(だからか。先ほどから汚らしいそれを手にしているのは)

 そこでやっとリシャールは読んでいた本から顔をあげた。今日は日差しが温かい。この学院の裏庭にある大木の下がリシャールの昼休憩時間の定位置でもあった。裏庭の隅に、ひっそりと、そして雄大にそびえ立つ大木。その隙間から落ちてくる木漏れ日。今日は、さわさわと吹き付ける風が心地良いのだが。
 先ほどから耳障りな雑音。

「それで? 君は俺に何を求めるのだ?」

「え?」
 まさか、そのような言葉が戻ってくるとは思ってもいなかったのだろう。ファニーは驚いたように目と口を開けている。
「酷いと思わないのですか? 私、何もしていないのに、セシル様が私の教科書を噴水に投げ捨てたのです」

「そうか……」
 そこでリシャールは立ち上がる。そろそろ、午後の授業が始まる。この裏庭から建屋までは少し距離がある。だからこそ、一人になりたいときにはもってこいの場所であったのだが、どうやら溝鼠に見つかってしまったようだ。
 リシャールは軽く息を吐いた。隣にいるファニーには目もくれず。

 リシャールが教室に入ると、セシルと目が合った。だが、彼女の視線はすぐにリシャールの後方を見つめ、そして目を伏せた。

(俺の後ろに何がある?)

「リシャール様……」

 ひっ、と思わずリシャールは声をあげそうになった。なんと、彼の後ろにはあのファニーがぴったりとくっついていたのだ。だが、無視を決め込む。このようなところをセシルに見られるわけにはいかない。いや、もう見られてしまった。
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