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王太子の誕生日パーティー(2)
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「あら、お帰りなさい。思っていたより早かったのね」
大公夫人は、ウィルフォードにさらりと笑顔を向ける。
「思っていたより早かったって。俺は昨夜、夜勤だったんです。仕事を終えて帰ってきたら、アイリの姿がない。どれだけ心配したかわかりますか?」
「そうならないように、知らせておいたでしょう?」
「知らせておいたって……もしかして、あの置き手紙のことですか? あんな手紙一つで……」
ウィルフォードは悔しそうに唇を震わせていた。
「ご、ごめんなさい。ウィル」
私は慌てて立ち上がり、ウィルフォードと向き合う。
「昨日、ウィルが夜勤でいないっていう話をしたら、お義母様が泊まったらとおっしゃってくださったから……」
「昨日? 泊まった……? アイちゃん、昨日からここにいるのか?」
「え? あ、うん。昨日、お義母様から呼び出されて……そのまま……」
「母上。アイリを呼び出すときは事前にってお願いしましたよね?」
ウィルフォードの目がつり上がっていく。それに引き換え、大公夫人は笑みを浮かべている。これは、余裕の笑みとでもいうものだろうか。
「ウィル。あの屋敷にアイリさんを一人きりにさせて、危ないとか思わないの?」
それにはウィルフォードもヒクヒクっと眉尻を動かした。
「きちんと戸締りするように言っている。俺がいないときは、誰も家にいれないように言っている」
「言っているって、あなたはその場にいないわけでしょう? 無理矢理誰かが押し入ってきたら、どうするつもり? アイリさんは魔力がないのでしょう? 相手が魔法を使ってきたら?」
「うっ、そ、それは……」
大公夫人の勝ち誇ったような顔とウィルフォードの悔しそうな顔。私はその二人の顔をきょどきょどと交互に見た。
「ウィル……ごめんなさい……私、ウィルに迷惑かけてるね……ここに来てから、ウィルに迷惑かけっぱなしだよね……」
「そんなことは……」
「ウィル。アイリさんにそう思わせることが問題なのよ。気持ちが舞い上がっているのもわかるわ。私もそうだし。だからこそ、アイリさんはいろいろと悩んでいるの。そんな状態で一人にできる? 夜に一人、あそこにアイリさんがいるほうが不安ではないの?」
大公夫人の言葉は、私の胸にもズキズキと突き刺さる。いろんな人に迷惑をかけている。
「だからね、やっぱりあなたたち。ここで一緒に暮らしましょう?」
「え?」
「やぁね、アイリさん。そんなに驚いた顔をしないで。前から言っているでしょ? 一緒に暮らしましょうって。それにウィルも、二年前まではここで暮らしていたわけだし」
この提案を受け入れていいのだろうか。たまに襲ってくるわけのわからない不安な気持ちも、一人でいるより誰かといたほうが紛れるかもしれない。
「嫌だ!」
大公夫人の案に真っ向から反対したのは、ウィルフォードだ。
「ここにいたら、アイリを母上にとられる。だけど、アイリを一人にさせるのも不安だ。だから、俺がいないときは、アイリをここに預ける。特に昨夜のような夜勤のときは」
そう言って背中を向けたウィルフォードは部屋を出ていこうとした。
「ウィル?」
不安になり呼び止める。もしかして、私は彼に見捨てられてしまったのでは? とそんな気持ちすら生まれてくる。
「アイちゃん。俺は眠いから寝てくる。その間、それを母上と選んでおいてくれ。俺が選ぶと、全部と言いそうだからな」
彼の言う「それ」とは並べられているアクセサリーのことだ。
そしてウィルフォードは私を抱き寄せ、額に唇を落とした。
「おやすみ、アイリ」
「お、おやすみなさい。ウィル」
いつもはもっと激しい口づけをしているというのに、今日はドキドキが止まらない。なぜか恥ずかしい。
「二時間経ったら、起こしてくれ」
私から離れる前に、耳元で「熱いキスで」とささやかれ、ぼんっと顔中がさらに熱くなった。
「だからね、言ったでしょう? 不器用過ぎてイライラするって。ホント、素直じゃないし」
大公夫人の言葉で、冷静さを取り戻しつつある。
「それに、服も汚れていましたね。あ、二時間後はお昼ご飯の時間です」
大公夫人はやっぱりウィルフォードの母親だった。
「じゃ、アクセサリーを選んで待っていましょうね。ウィルに選ばせたら、全部似合うと言って、全部つける羽目になるわよ」
すべての指に指輪をはめて、首輪やら腕輪やらをじゃらじゃらしている金持ちを想像してしまった。それだけは、断固拒否したい。
大公夫人は、ウィルフォードにさらりと笑顔を向ける。
「思っていたより早かったって。俺は昨夜、夜勤だったんです。仕事を終えて帰ってきたら、アイリの姿がない。どれだけ心配したかわかりますか?」
「そうならないように、知らせておいたでしょう?」
「知らせておいたって……もしかして、あの置き手紙のことですか? あんな手紙一つで……」
ウィルフォードは悔しそうに唇を震わせていた。
「ご、ごめんなさい。ウィル」
私は慌てて立ち上がり、ウィルフォードと向き合う。
「昨日、ウィルが夜勤でいないっていう話をしたら、お義母様が泊まったらとおっしゃってくださったから……」
「昨日? 泊まった……? アイちゃん、昨日からここにいるのか?」
「え? あ、うん。昨日、お義母様から呼び出されて……そのまま……」
「母上。アイリを呼び出すときは事前にってお願いしましたよね?」
ウィルフォードの目がつり上がっていく。それに引き換え、大公夫人は笑みを浮かべている。これは、余裕の笑みとでもいうものだろうか。
「ウィル。あの屋敷にアイリさんを一人きりにさせて、危ないとか思わないの?」
それにはウィルフォードもヒクヒクっと眉尻を動かした。
「きちんと戸締りするように言っている。俺がいないときは、誰も家にいれないように言っている」
「言っているって、あなたはその場にいないわけでしょう? 無理矢理誰かが押し入ってきたら、どうするつもり? アイリさんは魔力がないのでしょう? 相手が魔法を使ってきたら?」
「うっ、そ、それは……」
大公夫人の勝ち誇ったような顔とウィルフォードの悔しそうな顔。私はその二人の顔をきょどきょどと交互に見た。
「ウィル……ごめんなさい……私、ウィルに迷惑かけてるね……ここに来てから、ウィルに迷惑かけっぱなしだよね……」
「そんなことは……」
「ウィル。アイリさんにそう思わせることが問題なのよ。気持ちが舞い上がっているのもわかるわ。私もそうだし。だからこそ、アイリさんはいろいろと悩んでいるの。そんな状態で一人にできる? 夜に一人、あそこにアイリさんがいるほうが不安ではないの?」
大公夫人の言葉は、私の胸にもズキズキと突き刺さる。いろんな人に迷惑をかけている。
「だからね、やっぱりあなたたち。ここで一緒に暮らしましょう?」
「え?」
「やぁね、アイリさん。そんなに驚いた顔をしないで。前から言っているでしょ? 一緒に暮らしましょうって。それにウィルも、二年前まではここで暮らしていたわけだし」
この提案を受け入れていいのだろうか。たまに襲ってくるわけのわからない不安な気持ちも、一人でいるより誰かといたほうが紛れるかもしれない。
「嫌だ!」
大公夫人の案に真っ向から反対したのは、ウィルフォードだ。
「ここにいたら、アイリを母上にとられる。だけど、アイリを一人にさせるのも不安だ。だから、俺がいないときは、アイリをここに預ける。特に昨夜のような夜勤のときは」
そう言って背中を向けたウィルフォードは部屋を出ていこうとした。
「ウィル?」
不安になり呼び止める。もしかして、私は彼に見捨てられてしまったのでは? とそんな気持ちすら生まれてくる。
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彼の言う「それ」とは並べられているアクセサリーのことだ。
そしてウィルフォードは私を抱き寄せ、額に唇を落とした。
「おやすみ、アイリ」
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