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悪役令嬢への誘い(5)

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 ――悪役令嬢にならないか。
 その言葉が耳にこびりついて離れない。授業を受けていても、つい『悪役令嬢』について考えてしまう。
(悪役令嬢ということは、ヒロインと呼ばれる相手がいるわけよね……。どの方かしら)
 教室の一番後ろの窓際という特等席は、リスティアの指定席のようなものだった。リスティアにとっては特等席だが、他の生徒は、教室の真ん中の席が好きなのだ。真ん中にいれば、自然と人が集まる。
 今も教室には二つの輪ができていた。スルク公爵家のエリーサが中心にいる輪。もう一つの輪には別の令嬢が中心にいる。だがリスティアはその二つの輪から離れ、一人で教室の片隅で本を読んでいた。本の向こう側には、友人たちとの談笑に微笑んでいるエリーサの姿が見える。
 スルク公爵家のエリーサは、この国の第一王子であり王太子であるアルヴィンの婚約者である。そのような彼女が輪の中心にいるのは、なんら不思議でもない。
 金色の豊かにうねる髪と大きなエメラルドグリーンの瞳は見る者を惹きつけ、陶磁のような頬もぷっくりとしている艶やかな唇も、すべてが完璧に整っている女性だ。
 アルヴィンはウォルグの三つ年上の兄で、学園卒業後は父王と共に政務に携わっており、すでに次期国王としての期待が寄せられている。
 そんなエリーサとアルヴィンは、リスティアから見てもお似合いの二人である。
 そしてリスティアも、エリーサとの仲は悪くはない。特別親しいわけでもないが、必要最小限の付き合いはしている。とリスティアは思っている。
 だが今日は、本を読んでいてもチラチラと視線を感じた。この教室にいる生徒は、リスティアがいてもいない者として扱っているはずなのに。
 視線の主が誰であるのか確認するために顔をあげると、エリーサと目が合った。輪の中心にいるような彼女の邪魔をしたつもりはない。そうしないためにも、こうやって教室の隅っこで本を読んでいるのだ。
 リスティアが困って首を傾けると、エリーサは慌てて目を逸らす。
(もしかして、エリーサ様がヒロイン? アルヴィン様の婚約者であれば、その可能性もありそうだけれど……)
 だが、ヒロインは身分差を越えて、王太子や王子と結ばれようとするのだ。身分も見目も知識も性格もすべてにおいて完璧なエリーサが、あのようなヒロインであるわけがない。
 リスティアは再び本に目を落とした。
 ウォルグから借りた本は読んでしまったから、これはメルシーから借りた本である。メルシーも悪役令嬢が登場する本を何冊も持っていた。
 彼女がこのような本を好んで読んでいたのが、意外だった。だけど、悪役令嬢が活躍する本を読むのは、面白い。
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