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断罪への誘い(3)

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 リスティアは視線だけを向け、ミエルを睨みつける。
「あら、ミエル嬢。あなたのほうこそアルヴィン殿下の愛称を軽々しく口にするなど、不敬なのでは?」
 妖艶に微笑むリスティアと、アルヴィンの腕に絡みつくミエルのやり取りを、周囲は息を呑んで見守っていた。
「ちょっ……、ちょっと。あなた、誰よ。なんの権限があって、そんなことを言ってるわけ?」
 どうやらミエルは、目の前のリスティアがリスティアであるとは認識していないようだ。
「そのお言葉、そっくりお返しいたします。どのような権限があって、あなたはアルヴィン殿下の隣に立っているのですか? その場所に相応しいのはエリーサ様しかおりませんのに」
 腕を組み、唇の両端を艶やかに持ち上げた。
「だからっ。あなた、誰よ?」
「あら。ミエル嬢は、わたくしに見覚えがないのですか? 学園で机を並べて勉学に励んだ仲だというのに?」
 リスティアの微笑みからは、婀娜あだっぽさを感じる。だからミエルも気がつかないのだ。
「だから、誰よ。名乗りなさいよ」
 困ったわね、とでも言うかのようにリスティアは首を横に振った。
「っとに、なんなのよ。あなた、さっきから」
 ミエルはアルヴィンの隣から、キーキーと騒いでいる。
「ミエル・オスレム男爵令嬢。わたくしはリスティア・ハンメルトです。見覚えありませんか?」
 そこでリスティアはドレスの裾を持ち、優雅に挨拶をした。洗練された動きが、周囲の者を釘付けにする。些細な動作であるが、品の良さとはこういったところから滲み出るもの。
「今、わたくしは『悪役令嬢』としてこの場に立っております」
「リスティア? あなた、あのリスティアなわけ?」
 ミエルは目の前にいる人物がリスティアであると信じられない様子。それもそのはず。ミエルはリスティアを『変な女』と言いふらして、馬鹿にしていたのだ。教室の隅っこでいつも本を読んでいる変な女。それが、ミエルの知っているリスティアなのである。
 侯爵令嬢でありながら、地味な女。目立たない女。だから変な女。
 ミエルだけではない。会場内でリスティアを知っている者たちは、誰もがそう思っているに違いない。一部を除いて。
 会場がざわざわと騒がしくなる。
「それに……。なによ、悪役令嬢って。自分で言うの? そうね。何もしていない私に対して、そうやって詰め寄るところなんて、悪役令嬢にぴったりね」
 ミエルも悪役令嬢が登場する本を読んでいたのだろうか。巷で人気があるとメルシーが言っていたから、彼女も娯楽の一つとして手を出していてもなんら不思議でもない。
「困りましたわね」
 頬に手を添えて、リスティアは小首を傾げた。彼女の仕草の一つ一つが、周囲にいる者を魅了し始めている。
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