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 いつものように殿下を部屋まで案内し、私は控えの間に下がろうとした。

 そこから何が起こったのかわからない。気がついたらこうなっていた。
 つまり、レインハルト殿下の寝台の上で、私が彼に押し倒されているこの状況。

「殿下、この手をおはなしください。もしかして、まだ一人で寝るのが怖いのです?」
「んなわけあるか。お前はいつまでそうやって僕を子供扱いするんだ? 僕だって、先日、成人した。もう、立派な大人なんだ」

 立派な大人は自分で立派な大人と言わないと思うけれど、私は「はいはい」と軽くあしらった。

「お前は……」

 なぜかレインハルト殿下がお怒りだ。

「わかりました、わかりましたから。この手を離してください」

 肩をぐいっと寝台に押し付けられているため、力が入らない。必死に手を伸ばして、彼の腕を捕まえてみるけれど、びくともしない。
 いつの間に、こんなに力をつけたのだろう。

「お前は。わかっていない」

 寝台の柱にくくりつけられたタッセルを手にした彼は、それで私の手を頭の上でしばりあげた。

 えぇっ!!

「なっ、ちょ、ちょっと……。何をするんですか」
「こうでもしないと、お前に負けるからな」

 両手を引っ張ったりひねったりしてみるけれど、まったくびくともしない。ただのタッセルのくせに、どうやって縛り上げたのか。

 膝を立て、彼の腹に一撃を食らわせてやろうかと思ったけれど、それを読まれていたのか太腿を押さえつけるかのようにして、彼が乗ってきた。

「なあ、アンリ。お前はここまでやられても気がつかないのか?」
「何がですか? もしかして……。私に剣術で負けたのが悔しかったのですか? だからこうやって卑怯な手を使って……。男なら正々堂々、戦いなさい」
「正々堂々……。今まで戦ってきたつもりだったんだが……。」

 彼は苦しそうに顔をゆがめた。

「お前は、結婚するのか? 隣国の辺境伯に嫁ぐのか?」

 どこから情報が漏れたのだろう。だが、彼は権力者だ。たかが私の個人情報なんて、すぐに手に入るにちがいない。

「それは……、考え中です。初めていただいたお話なので……」

 生きてきて二十八年、お見合いを十四回失敗させている。原因はわからない。とにかく、相手にとって私は魅力的ではないのだろう。
 ところが、十五回目のお見合いだけ奇跡的にうまくいった。といっても会ってもらえたのだ。今までの十四回は「会ってみます」と返事をすると、なぜか相手のほうから「今回の話はなかったことに」と言われて、本当になかったことにされてしまっていた。
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