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【1】追放
11・助言 1
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朝、日の出と共に走り、草原で剣の素振りや基礎体力作りに励むこと10日。時折、レティウスがやって来て魔術の使い方や剣の稽古を付けてくれた。
レティウスは優秀で、何もかも流れるように熟す。軽やかで重みがなく見えるのに、実際に剣で受けてみると手が痺れるほどに重く鋭いのだ。
「いつ軍に復帰するの?」
「さあ? 呼び出しがかかったら、でしょうか」
レティウス宛に何度も鳥便が届いている。渋い顔で読んで魔術の火で焼いてしまう内容など、王城からか軍からだと思うのに、レティウスは屋敷にずっといる。ずっといてユーリの手伝いをして暮らしている。それは最初の日に比べるとずいぶん自由をくれるようになってはいたが、ずっと好き勝手に暮らしていたユーリには少し重い。
さらに10日、同じ日々にウンザリしながらも、新しい何かを探そうと森を歩き回った。不思議なレティウスの森は、毎日同じ道はなく、ないのに帰ろうと思うとレティウスの屋敷の前にたどり着くという始末だ。明らかに干渉されているのだと感じながらの生活は、干渉されていると思うたびに逃げたい気分に見舞われる。
レティウスの人形になる為に命を繋いだわけではないのだが、最初がまずかったとは思う。間近にある愛に喜んでいたのは自分だし、それを望んだのも自分なのだ。今更、重いからどうと言っても、恩を思えば仕方がないと自分を納得させるしかない。
しかもだ。レティウスと知り合いらしいディーノという闇の妖精の存在が、レティウスの存在を怪しく思わせている。考えてみれば莫大な魔力量といい、軍に在籍しながら自由すぎる待遇に、少しおかしいなと思っていた部分もある。それをレティウスだからと思わされていたのも印象操作なのだろうか。
レティウスがユーリに魔力を提供した恩賞であるのかとも思っていたが、どうやらそうではないらしいと、異質な存在の出現で思うようになった。
だいたい精霊を森に住まわせているという状態だって普通ではない。どこへ行ってもつながる森の在り方も尋常じゃないのだ。
不思議と怖いとは思わない。ただ厄介だとは思う。
いつものように朝早くからベッドを抜け出し、森へ出て走り始める。
この森は雨も降らないのに、朝露は葉を濡らしているし、池が枯れることもない。
1時間ほど走り、いつもの場所で休んでいると、待ち望んだ存在が顔を出した。
木漏れ日の中に落ちる人影。影が招くように指示を出した。
ユーリはできるだけ感情を揺らさないように気を付けながら、招かれた先へ進んで行った。
そこは別に何の変化もない池のほとり。朽木が川面へと垂れ、そこに苔が生えている幻想的な風景ではあるが、レティウスの監視から逃れられる場所ではないと思える。
カエルが池に飛び込み、水面を揺らした。
「池の中まで入れとか言い出すのかと思った」
「まさか、そんな面倒なことするわけねえだろ」
「だったらまたレ……」
名を呼ぼうとしたら、ディーノに口を押えられた。
「さすがに名を呼ぶのはまずいだろ」
ほとんど風が動いた程度の感覚だったのだが、ディーノはユーリの横に立ち、口を塞いだのだ。俊敏なんてものじゃない。やはりディーノは人じゃないのだと認識させられる。
「わかったから放して」
「別に隠れてるつもりもねえけど、わざわざ教えてやるつもりもねえんだ。気をつけろ」
身長が頭一つ分違う。ユーリがまだ成長期だからと言っても平均より高いのに。レティウスも同じくらい背が高い。精霊はみんな背が高いのかと嫌になる。
「で? すぐに来てくれるのかと思ったのに、遅すぎる。しかも今更なんで?」
身長差が嫌で張り出した木の根に腰を下ろすと、ディーノも当然のように隣に座る。今度は足の長さの違いにウンザリした。ユーリの容姿はとても美しいと言える。神に愛されたという光を宿した青い瞳と金の髪ではなくても、均等の取れた容姿と体格だと言われているのだ。だがそれも人のうちではということだと気づく。精霊はみな神がかって美しいらしい。周りを飛ぶ小さな妖精も、ディーノも。レティウスの容姿もこちらの部類だろう。
レティウスは優秀で、何もかも流れるように熟す。軽やかで重みがなく見えるのに、実際に剣で受けてみると手が痺れるほどに重く鋭いのだ。
「いつ軍に復帰するの?」
「さあ? 呼び出しがかかったら、でしょうか」
レティウス宛に何度も鳥便が届いている。渋い顔で読んで魔術の火で焼いてしまう内容など、王城からか軍からだと思うのに、レティウスは屋敷にずっといる。ずっといてユーリの手伝いをして暮らしている。それは最初の日に比べるとずいぶん自由をくれるようになってはいたが、ずっと好き勝手に暮らしていたユーリには少し重い。
さらに10日、同じ日々にウンザリしながらも、新しい何かを探そうと森を歩き回った。不思議なレティウスの森は、毎日同じ道はなく、ないのに帰ろうと思うとレティウスの屋敷の前にたどり着くという始末だ。明らかに干渉されているのだと感じながらの生活は、干渉されていると思うたびに逃げたい気分に見舞われる。
レティウスの人形になる為に命を繋いだわけではないのだが、最初がまずかったとは思う。間近にある愛に喜んでいたのは自分だし、それを望んだのも自分なのだ。今更、重いからどうと言っても、恩を思えば仕方がないと自分を納得させるしかない。
しかもだ。レティウスと知り合いらしいディーノという闇の妖精の存在が、レティウスの存在を怪しく思わせている。考えてみれば莫大な魔力量といい、軍に在籍しながら自由すぎる待遇に、少しおかしいなと思っていた部分もある。それをレティウスだからと思わされていたのも印象操作なのだろうか。
レティウスがユーリに魔力を提供した恩賞であるのかとも思っていたが、どうやらそうではないらしいと、異質な存在の出現で思うようになった。
だいたい精霊を森に住まわせているという状態だって普通ではない。どこへ行ってもつながる森の在り方も尋常じゃないのだ。
不思議と怖いとは思わない。ただ厄介だとは思う。
いつものように朝早くからベッドを抜け出し、森へ出て走り始める。
この森は雨も降らないのに、朝露は葉を濡らしているし、池が枯れることもない。
1時間ほど走り、いつもの場所で休んでいると、待ち望んだ存在が顔を出した。
木漏れ日の中に落ちる人影。影が招くように指示を出した。
ユーリはできるだけ感情を揺らさないように気を付けながら、招かれた先へ進んで行った。
そこは別に何の変化もない池のほとり。朽木が川面へと垂れ、そこに苔が生えている幻想的な風景ではあるが、レティウスの監視から逃れられる場所ではないと思える。
カエルが池に飛び込み、水面を揺らした。
「池の中まで入れとか言い出すのかと思った」
「まさか、そんな面倒なことするわけねえだろ」
「だったらまたレ……」
名を呼ぼうとしたら、ディーノに口を押えられた。
「さすがに名を呼ぶのはまずいだろ」
ほとんど風が動いた程度の感覚だったのだが、ディーノはユーリの横に立ち、口を塞いだのだ。俊敏なんてものじゃない。やはりディーノは人じゃないのだと認識させられる。
「わかったから放して」
「別に隠れてるつもりもねえけど、わざわざ教えてやるつもりもねえんだ。気をつけろ」
身長が頭一つ分違う。ユーリがまだ成長期だからと言っても平均より高いのに。レティウスも同じくらい背が高い。精霊はみんな背が高いのかと嫌になる。
「で? すぐに来てくれるのかと思ったのに、遅すぎる。しかも今更なんで?」
身長差が嫌で張り出した木の根に腰を下ろすと、ディーノも当然のように隣に座る。今度は足の長さの違いにウンザリした。ユーリの容姿はとても美しいと言える。神に愛されたという光を宿した青い瞳と金の髪ではなくても、均等の取れた容姿と体格だと言われているのだ。だがそれも人のうちではということだと気づく。精霊はみな神がかって美しいらしい。周りを飛ぶ小さな妖精も、ディーノも。レティウスの容姿もこちらの部類だろう。
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