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76 再会
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「ヒロイ」
いろんな声で名を呼んでもらった。でも呼ばれるだけで心が震える相手はいなかった。
背中側から掛かった声に足を止める。目の前にあるオーギュが振り返り、足を止めて胸に手を当て、視線を下げた。その行動を見ていた紘伊に笑い掛けたオーギュは、背を向けて歩いて行った。
足音が近づいている。砂を踏む軽い音だ。俯いたら涙が砂を濡らした。振り返りたいけど上手く動けない。
「ヒロイ、どうしてここへ?」
背中にぬくもりが当たり、腕が肩を包む。言葉を聞き、腹がたった。沸騰するみたいに怒りが頭に抜ける。
「どうしてってなに?」
振り返って胸を押し、高い身長のハーツの顔を見上げる。もう懐かしく思う。ハーツだと思いながら、ハーツってこんなだったか? と思う。
「どこで何してるかも言わないで、ずっと、会いに来るんだろ? なのに俺の事捨てて……」
一気に言って喉が詰まる。嗚咽が混じるから息が苦しい。ハーツを見つめているけど、恥ずかしいくらい泣いている。
「死んだかと思った。もう会えないのかと思った」
近づいて胸に顔を埋める。服を掴んで引っ張って、足りなくて胸を拳で叩いた。それなのにハーツは抱きしめてくれる。大きくて分厚い体が紘伊を包み込む。
「ウェルズ領の家で子ども達と暮らしていたのではないのか?」
ハーツは知っていた。紘伊の行動はハーツに伝わっている。
「なんで? どうして知ってる? ハーツは俺の行動を知ってたから、何も心配もなかったって事? ……ごめん、違う、ハーツが大変な状況にあったの聞いた。俺の言ってる事も行動も我儘でごめん。でも会いたかった。会いたかったんだ、ハーツ」
背中に腕を回して抱きつく。鼓動の音が聞こえる。自分とハーツの音が重なる。
「心配をかけた。ヒロイがこんなにも会いたいと思ってくれるとは思わなかった。嬉しいよ」
頬を両手で包まれて、上を向かされて口付けをされる。何度も啄まれて、角度を変えて深く交わる。触れる舌の厚さとか、ハーツの匂いとか、忘れそうで怖かった。
「俺、言いつけ通りハーツの所へ戻って来た。いろんな獣人に会ったけど、ハーツみたいに惹かれる相手はいないんだ。お願いだから俺を捨てるなよ、ハーツ」
「捨てる? なぜそんな問いになる? 予定通りに迎えには行けなかったが、それくらいで俺の気持ちを疑ったのか?」
涙を指先で拭われる。ハーツの甘い琥珀色の瞳を見つめる。ニヤリと笑まれて、嬉しそうに頬を寄せられて、ハーツの腕の中にいても良いのだと安堵を覚える。
「俺の気持ちを疑うとは、お仕置きが必要だな」
抱き上げられ、ハーツの肩に手を置き、足を背に巻きつけると、尻を支えられた。ハーツの髪に頬を寄せる。もふもふに繋がる髪の感触を楽しむ。
「もう良いの?」
まだ混乱の中にあるはずだ。その渦中にある大元が紘伊を甘やかして良いのだろうか。
「俺のやるべきことはやった。あとは行方を見守るだけだ」
よく分からないが、ハーツが良いのなら良いのだろう。
「あとで言い訳を聞かせてくれよ」
そう言いながらハーツに身を委ねている。ここが自分の居場所なんだと思える幸せを噛み締めている。
いろんな声で名を呼んでもらった。でも呼ばれるだけで心が震える相手はいなかった。
背中側から掛かった声に足を止める。目の前にあるオーギュが振り返り、足を止めて胸に手を当て、視線を下げた。その行動を見ていた紘伊に笑い掛けたオーギュは、背を向けて歩いて行った。
足音が近づいている。砂を踏む軽い音だ。俯いたら涙が砂を濡らした。振り返りたいけど上手く動けない。
「ヒロイ、どうしてここへ?」
背中にぬくもりが当たり、腕が肩を包む。言葉を聞き、腹がたった。沸騰するみたいに怒りが頭に抜ける。
「どうしてってなに?」
振り返って胸を押し、高い身長のハーツの顔を見上げる。もう懐かしく思う。ハーツだと思いながら、ハーツってこんなだったか? と思う。
「どこで何してるかも言わないで、ずっと、会いに来るんだろ? なのに俺の事捨てて……」
一気に言って喉が詰まる。嗚咽が混じるから息が苦しい。ハーツを見つめているけど、恥ずかしいくらい泣いている。
「死んだかと思った。もう会えないのかと思った」
近づいて胸に顔を埋める。服を掴んで引っ張って、足りなくて胸を拳で叩いた。それなのにハーツは抱きしめてくれる。大きくて分厚い体が紘伊を包み込む。
「ウェルズ領の家で子ども達と暮らしていたのではないのか?」
ハーツは知っていた。紘伊の行動はハーツに伝わっている。
「なんで? どうして知ってる? ハーツは俺の行動を知ってたから、何も心配もなかったって事? ……ごめん、違う、ハーツが大変な状況にあったの聞いた。俺の言ってる事も行動も我儘でごめん。でも会いたかった。会いたかったんだ、ハーツ」
背中に腕を回して抱きつく。鼓動の音が聞こえる。自分とハーツの音が重なる。
「心配をかけた。ヒロイがこんなにも会いたいと思ってくれるとは思わなかった。嬉しいよ」
頬を両手で包まれて、上を向かされて口付けをされる。何度も啄まれて、角度を変えて深く交わる。触れる舌の厚さとか、ハーツの匂いとか、忘れそうで怖かった。
「俺、言いつけ通りハーツの所へ戻って来た。いろんな獣人に会ったけど、ハーツみたいに惹かれる相手はいないんだ。お願いだから俺を捨てるなよ、ハーツ」
「捨てる? なぜそんな問いになる? 予定通りに迎えには行けなかったが、それくらいで俺の気持ちを疑ったのか?」
涙を指先で拭われる。ハーツの甘い琥珀色の瞳を見つめる。ニヤリと笑まれて、嬉しそうに頬を寄せられて、ハーツの腕の中にいても良いのだと安堵を覚える。
「俺の気持ちを疑うとは、お仕置きが必要だな」
抱き上げられ、ハーツの肩に手を置き、足を背に巻きつけると、尻を支えられた。ハーツの髪に頬を寄せる。もふもふに繋がる髪の感触を楽しむ。
「もう良いの?」
まだ混乱の中にあるはずだ。その渦中にある大元が紘伊を甘やかして良いのだろうか。
「俺のやるべきことはやった。あとは行方を見守るだけだ」
よく分からないが、ハーツが良いのなら良いのだろう。
「あとで言い訳を聞かせてくれよ」
そう言いながらハーツに身を委ねている。ここが自分の居場所なんだと思える幸せを噛み締めている。
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