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発情?

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「ラザリアちゃん、入るよ。ごめんね、少し時間が掛っちゃって」

 クロイスさんが部屋に入って来る。
 視界に入る前に、なんとか身嗜みを整えた。

 クロイスさんは軽い足取りで私の右隣に腰掛けた。

 ななななんでわざわざ隣りにっ!?

 膝の上で頬杖をつき、にっこりと微笑むクロイスさん。

「それじゃ……」

 そこで言葉を区切り、私の顔と、机の上に開きっぱなしの本を交互に見る。

「感想、聞いてもいいかな?」

 ままま待ってくださいっ!まだなんの整理もついてません!!

 そう答えたいのに、口を開けば変な声が出そうで。
 真っ赤であろう顔を両手で覆う。

「ねぇ、ラザリアちゃん」

 クロイスさんの優しい声が耳に入るが、今それすら毒だ。
 耳も塞いでしまいたいけど、顔を晒す事も出来ない。

「この本を読んで、どう思った?何を感じた?」

「っひ、んぅ……っ」

 剥き出しの太腿を掠めるように撫でられる感触に、あられも無い声が出そうになり咄嗟に口を押さえる。

 開けた視界に、覗き込むように私を見つめる瞳と視線が絡まる。

 背筋に電流が走り、ぶるりと羽を震わせる。
 視界の端に映るその羽は、薄く桃色に染まっていた。


――発情時に淡い桃色に――


「っうそ……わ、…たし……っ」

 発情してるんだ……っ!

 今まで感じていた得体の知れない何かは発情によるものだったと理解した瞬間、快楽が全身を駆け巡る。

「んっ♡ぁっ♡」

 声を抑える事も忘れ、甘い嬌声をあげる。

「何か、分かったかな?」

 クロイスさんの声が痺れた頭に響く。
 どう、思ったか。なにを、感じたか。

 思い付くままに私は口を開く。

「っ、クロイスさん、は…っ、わたしの、」

 番ですか、と最後まで言い切ることは出来なかった。

 クロイスさんの人差し指が私の唇を塞いでいた。

「んぅぅっ♡」

 それすらも快楽に変換され、ビクビクと身体が跳ねる。

「それは、先約がいるから」

 唇から離れた指が何かを指差す。それを目で追った瞬間、サッと私は青褪めた。

「ギース、局長……っ」

 もし、あの時感じたものが恐怖ではなく、発情によるものだったのなら。

 どうしよう……っ
 大変な事をしてしまった……!

 今なら分かる。
 番に拒否される事が、どれだけ辛いか。
 唯一の番に、拒まれる事の恐怖が。

「クロイスさんっ、あの、私、すぐに帰らないと……っ!」

「うん。そこの窓から行くといい」

 お礼を言いながら窓に駆け寄り開け放つ。
 窓枠に足を掛けた所で、クロイスさんに振り返った。

「また、来ます。その時は、お返事を聞かせてください」

 クロイスさんの返答を待たず、窓枠を思いっ切り蹴り空へ飛び立つ。


 早く、早くっ

 早く私の番の元へ……っ!


 熱を帯びたままの羽は、空を切り裂くように羽ばたいた。
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