14 / 18
悪魔には勝てぬ
しおりを挟む「あっはっは……! いやぁ~~あのジャン君の変わり身の早さったら……!!」
ホテルへ向かう馬車の中。アイザック様は瞳に涙を浮かべ腹まで抱えて随分と楽しそうだ。
実に失礼である。
「わっ! 笑い過ぎではありませんかっ!?」
「ごめんごめん! もしかしてショックだった?」
「そりゃあっ! 一生懸命働いてジャンを支えてきたんですもの……! ちょっとぐらいは、好きでいてほしかったですよっ……! これが私の我儘なのは分かってますけど!」
「ふふふ、私には都合がいいけどね」
「都合がいい……? な、何でですか……!?」
「だって、あっさり置いていってくれた方が私にしか頼れなくなるだろう?」
「な、なにを仰って……!」
「大丈夫、大丈夫。その分愛してあげるから」
「っ!」
当然のように、まるで春の風が吹くように言ってのけるから、思わず言葉に詰まってしまった。
それが真実かも分からないのに簡単に安心なんて出来ない。それなのに顔は紅く染まってしまう。
ジャンのときみたいに一線引かなければいけないのに、溺れてしまいそうで怖い。
というかこの沼にはもう既に腰まで浸かっている。非常に危険。
「あれ。もしかして疑ってるの?」
「あ、アイザック様は優しい悪魔ですから……っ」
「ふーん。この歳まで結婚してないのが何よりの証拠だと思うけどなぁ」
「そんなのは証拠とは言えませんっ! 物は言いようですから」
「ふっ、いじらしいね」
「いじらしいも何も、ん! ふっ、」
言い掛けた言葉を塞がれた。
アイザック様の掌に包まれる頬と、太腿に添えられた手。
言葉を無くして唇を求めて、たったそれだけの行為なのにどうしてこうも心が満たされてしまうのか。
ジャンはムカつくしアイザック様のこともまだ信じてないけど、悪魔が耳元で囁くから、もう駄目だ。
「アイビーったら。まだキスだけしかしてないのに……。とろんとしちゃって」
「っは……は、だって……っ! んっ、」
下唇を吸われてまだまだ臆病な私の舌が誘われる。
ジャンは兎に角早く挿れて、ちょっと時間を置いてまた直ぐに挿れたい人だったから、こんな風に舌を絡ませるのも、ましてや舌で歯をなぞられるなんて愛撫はされたことなかった。
ドキドキと心臓が高鳴って、きゅんきゅんと子宮が疼く。
やっぱり駄目だ。
溺れまいと脳みそを制しても、心も身体もどうしたって溺れたいと言うことを聞かない。
「ア、イ……ザックさま……っ」
「ふふ、そそる顔して。舌がだらけてるよ」
「っ、あっ!」
「どうしたの。此処もとろとろじゃないか」
するするとスカートの中に手が入っていき、ショーツの上から彼の指先が割れ目をなぞる。
耳元では低くて柔らかくて色気のある声が頭の中を揺らして、指先の動きに合わせて腰が勝手に動いてしまっている。
何度かゆっくり割れ目を往復すると、一番敏感なところを中指の腹でくりくりと弄られた。
「あんっ……!」
腰がビクンと跳ねて別の人格なんじゃないかと思うような声が放たれる。
満足そうな笑みを浮かべるアイザック様。もう暫く弄られていれば達するのに、指先は付け根から腿を伝い離れていってしまう。
物欲しげな顔で見つめれば、ちゅ、と小鳥のキス。
「続きは、ホテルでね」
「ここまでしてっ……」
「君の可愛い声を御者に聞かせるのは勿体無い」
「……ん、」
残念、と思ってしまう自分がいる。
さすが悪魔。誘惑が強めである。
「分かりやすく残念そうにするんだね。良いねぇ若いって。反応が素直でさ」
「アイザック様は、若い娘が好きなんですか?」
「あはは、そういう訳でもないけど。……歳を取るとね、羨ましくなるんだよ。あの頃の情熱とか、苦味がなくて、酸いと甘いしか経験してない感じがね」
「そんなの……無い物ねだりです。私は、苦いのをうんと噛み締めてきた大人は素敵だと思います。アイザック様みたいに」
「そう? 苦いのも不味いのも随分と味わってきたからなぁ。アイビーにそう言ってもらえると嬉しいよ」
恥ずかしがりもせず、飛び上がって喜びもせず、ただ余裕の笑みを浮かべるアイザック様。
いつもそう。こちとら未だに子宮の奥が疼いているのに。
やはり経験の数が違うのだな。それが魅力でもあるのに、少しだけ嫉妬してしまう。
私もジャンのお陰で経験が増えたから、少しは大人に近付いただろうか。
「あ……そういえば、その……公爵夫人は本当にジャンで良かったのでしょうか……?」
「おや。私の人事に何か問題があると?」
「え!? いえ、そういう訳では……!!」
「悪いけど私が出す人事は完璧だよ? なのに己の利益のために大臣達ときたら毎度我儘を言って狂わすんだから。これだから貴族は」
「ふふ、宰相様も大変ですね」
「ああ全くだよ。……ねぇアイビー」
「はい」
「私の人事が正しいのなら夫人とジャン君はきっと上手くいく筈だ。だから、アイビーも私の隣がきっと一番正しい居場所だよ」
「っ、はい」
そっと添えられた手。
出逢った日みたいに、その黄金色の瞳に飲み込まれそうになった。
「ほら。ホテルに着いた」
22
あなたにおすすめの小説
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる