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第十一話 女王の休日
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(メイドさんたちの護衛は完璧か。ここまでは予定通りだな)
パン屋へ入店したリックとユリーシア。
出来立ての香ばしい匂いが漂い、空腹を刺激する。朝食を摂っていない二人には、店内に並んでいるどのパンも美味しそうに感じ、何を買おうか悩み始めた。
「おっちゃん、また買いに来たよ」
「おう、リックのあんちゃん。何にする?今日のお勧めはコッペパンだ」
「それ、いつもお勧めなんじゃないのか?」
店主である五十歳くらいの男。リックが帝国参謀長と知っていても、一人の客として気さくに話しかける。
「まあいいや。おっちゃん、俺コッペパンね。ブルーベリージャム塗ってくれ」
「あいよ!女王陛下様はどうする?」
「では、私も同じものを頂きます」
注文を受け、丁度焼き上がったらしいコッペパンを二つ用意し、素早く丁寧にブルーベリーのジャムを塗っていく。この道三十年以上という店主にとって、この程度の作業は目を瞑っていてもできる。
「いやちょっと待って!おっちゃん、この方・・・・・じゃなくてこの子は女王陛下じゃないから」
「何言ってんだあんちゃん。どっからどう見てもユリーシアお嬢ちゃんだろ」
一応御忍びであり、普段のドレス姿から、フリルドレスに着替えて貰ったにも係わらず、パン屋の店主にあっさりばれてしまった。
慌てて誤魔化そうとするリックだが、店主の眼は誤魔化せなかったのである。
「どうして見破れたんですか?」
「どうしても何も、こんなお人形さんみたいな女の子は帝国中探してもお嬢ちゃんだけだろ?」
「確かに・・・・・・」
店主の言葉は正論だった。
フリルドレスを完璧に着こなす、気品溢れる彼女を如何に変装させようとも、よっぽどの格好をさせない限り、帝国国民には気付かれてしまう。
何より、彼女は今の格好でも、その容姿が十分過ぎるほど目立ってしまう。気付かれないという方がおかしい。
(誰だよ変装衣装調達したの・・・・・・。滅茶苦茶似合ってるけどばればれじゃないかよ)
「お久しぶりですね。お店は今日も繁盛しているようで何よりです」
「これもユリーシアお嬢ちゃんのおかげさ。お嬢ちゃんの分はおまけにしとくから」
「あれ、陛下はこの店に来られた事があるんですか?」
「ええ。前はよく、メシアに護衛を頼んで城下に出かけていましたから、その時に何度か」
城下に出かけていたという話は、リック自身初耳であった。
彼は知らなかったのだが、ユリーシアは女王に即位する以前から、暇があれば城下に出かけていたのである。その理由は、王族に生まれた以上、国民の生活を知るのは重要だという、彼女なりの考え方であった。
帝国の街全体を散策し、国民の生活状況を確認する。その後、国民が生活に困らないよう、様々な改革を打ち立てていく。国民の声を直接聞く事で、今日の善政を築き上げたのである。
だが今は、彼女の眼と体調がそれを許さない。
今では、城下に全く出られなくなったユリーシア。彼女にとって、今日は本当に久しぶりの、城下へのお出かけであるのだ。
「あんちゃんとお嬢ちゃんは今日デートなのか?」
店主の言葉に、二人とも頬を赤らめる。
二人ともそんなつもりはなかったが、傍から見ればデートにだって見えるだろう。
国を治める女王陛下と、軍の最高責任者のデート現場など、普通ならば大スキャンダルであるのだが、ヴァスティナの国民はこの程度では騒がない。
何故なら女王も参謀長も、国民にとっては、とても身近な存在であるからだ。
「わっははは、恥ずかしがるなよお二人さん!うちの女房との初デート思い出すぜ」
(知らんわそんな話!)
心の中でリックが叫ぶ。彼はツッコミを心の中で済ませ、店主からパンを受け取りお金を払う。
陽気な店主のおかげで、パン屋では終始顔が赤かった二人であった。
パン屋へ入店したリックとユリーシア。
出来立ての香ばしい匂いが漂い、空腹を刺激する。朝食を摂っていない二人には、店内に並んでいるどのパンも美味しそうに感じ、何を買おうか悩み始めた。
「おっちゃん、また買いに来たよ」
「おう、リックのあんちゃん。何にする?今日のお勧めはコッペパンだ」
「それ、いつもお勧めなんじゃないのか?」
店主である五十歳くらいの男。リックが帝国参謀長と知っていても、一人の客として気さくに話しかける。
「まあいいや。おっちゃん、俺コッペパンね。ブルーベリージャム塗ってくれ」
「あいよ!女王陛下様はどうする?」
「では、私も同じものを頂きます」
注文を受け、丁度焼き上がったらしいコッペパンを二つ用意し、素早く丁寧にブルーベリーのジャムを塗っていく。この道三十年以上という店主にとって、この程度の作業は目を瞑っていてもできる。
「いやちょっと待って!おっちゃん、この方・・・・・じゃなくてこの子は女王陛下じゃないから」
「何言ってんだあんちゃん。どっからどう見てもユリーシアお嬢ちゃんだろ」
一応御忍びであり、普段のドレス姿から、フリルドレスに着替えて貰ったにも係わらず、パン屋の店主にあっさりばれてしまった。
慌てて誤魔化そうとするリックだが、店主の眼は誤魔化せなかったのである。
「どうして見破れたんですか?」
「どうしても何も、こんなお人形さんみたいな女の子は帝国中探してもお嬢ちゃんだけだろ?」
「確かに・・・・・・」
店主の言葉は正論だった。
フリルドレスを完璧に着こなす、気品溢れる彼女を如何に変装させようとも、よっぽどの格好をさせない限り、帝国国民には気付かれてしまう。
何より、彼女は今の格好でも、その容姿が十分過ぎるほど目立ってしまう。気付かれないという方がおかしい。
(誰だよ変装衣装調達したの・・・・・・。滅茶苦茶似合ってるけどばればれじゃないかよ)
「お久しぶりですね。お店は今日も繁盛しているようで何よりです」
「これもユリーシアお嬢ちゃんのおかげさ。お嬢ちゃんの分はおまけにしとくから」
「あれ、陛下はこの店に来られた事があるんですか?」
「ええ。前はよく、メシアに護衛を頼んで城下に出かけていましたから、その時に何度か」
城下に出かけていたという話は、リック自身初耳であった。
彼は知らなかったのだが、ユリーシアは女王に即位する以前から、暇があれば城下に出かけていたのである。その理由は、王族に生まれた以上、国民の生活を知るのは重要だという、彼女なりの考え方であった。
帝国の街全体を散策し、国民の生活状況を確認する。その後、国民が生活に困らないよう、様々な改革を打ち立てていく。国民の声を直接聞く事で、今日の善政を築き上げたのである。
だが今は、彼女の眼と体調がそれを許さない。
今では、城下に全く出られなくなったユリーシア。彼女にとって、今日は本当に久しぶりの、城下へのお出かけであるのだ。
「あんちゃんとお嬢ちゃんは今日デートなのか?」
店主の言葉に、二人とも頬を赤らめる。
二人ともそんなつもりはなかったが、傍から見ればデートにだって見えるだろう。
国を治める女王陛下と、軍の最高責任者のデート現場など、普通ならば大スキャンダルであるのだが、ヴァスティナの国民はこの程度では騒がない。
何故なら女王も参謀長も、国民にとっては、とても身近な存在であるからだ。
「わっははは、恥ずかしがるなよお二人さん!うちの女房との初デート思い出すぜ」
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心の中でリックが叫ぶ。彼はツッコミを心の中で済ませ、店主からパンを受け取りお金を払う。
陽気な店主のおかげで、パン屋では終始顔が赤かった二人であった。
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