贖罪の救世主

第十一話 女王の休日

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　朝食用の買ったパンを食べ、街を散歩する事にした二人。
　道行く先々で街の人々は、二人を見ては挨拶をしてくれる。リックは街に出る事も多いため、人々に顔が知られており、ユリーシアはパン屋の時と同じく、変装していても正体がばればれであった。　二人とも国民の人気が高い。
　リックは帝国軍参謀長であり、三度に渡り帝国の存亡を救った。この国では最早英雄的存在であり、彼の名前を知らない者はいない。
　一方ユリーシアは、この国で善政を敷く女王陛下である。当然ながら国民は彼女を信頼し、自分たちも彼女のために何かできないかと思う程だ。
　人々は二人を見つけると、気さくに挨拶をする。子供たちや老人に至るまでもだ。二人は愛されている。ここまで国の重要人物が愛されるのも、珍しい事だろう。
　そんな二人は散歩を続け、街の広場に訪れていた。

「あらよっと！」
「うわー、たかいたかい！！」
「お兄ちゃん、次俺がいい」
「まって、僕が先だよ！」
「順番だ順番。いい子にしてないと、後でお仕置きしちゃうぞ」

　広場で楽しそうに遊ぶ、リックと子供たち。
　広場に訪れた二人は、朝早くにも係わらず元気に遊ぶ、数人の子供たちに声をかけられた。子供たちはかくれんぼをしようとしていたようだが、リックの姿を見つけて、一緒に遊んでくれと頼んだ。
　子供たちの、純情でキラキラした眼差しは断れず、ユリーシアに謝って、リックは子供たちと遊ぶ事になった。それで、二回ほどかくれんぼをした後、遊びは肩車に変更になった。当然だが、リックが子供を肩車する係である。

「私もやって！ねぇやってよ」
「わかったわかった、お嬢ちゃん」
「お兄ちゃん、次僕の番だよ！」
「覚えておけ少年、レディーファーストという言葉を」

　やはり女の子には甘いリック。まあ、男だから仕方ない。
　次は女の子を肩車し、走ったり飛んだりする。子供からすれば、軽い絶叫マシンと言ったところだろう。楽しそうな悲鳴を上げている。
　子供たちを一通り肩車して満足させ、リックは休憩のために子供たちから離れる。向かった先にはユリーシアがいて、少し離れたところで、リックと子供たちを見守っていた。

「ふう、子供の相手は疲れます」
「お疲れ様です。随分と子供たちに好かれているのですね」
「まあ、よく遊び相手になってるので」

　城下を散策していたユリーシアのように、リックもまた街に出て、直接国民の声を聞いている。
　それは国と民を理解し、尚且つ国民と触れ合う事によって、自分の支持を得ようとしたのだ。休日は街に出て店を散策したり、街の子供たちと遊んだりする。
　子供たちからすれば、リックは英雄という非常にかっこいい肩書きの持ち主だ。そんな人物が目の前に現れれば、興味を持つのは当然の反応である。
　興味を持った子供たちがリックに群がり、遊んでくれと頼んだのがきっかけとなって、今では仲良く遊ぶ仲である。子供たちの遊び仲間の一員となったとも言える。
　子供たちの間では、リックは「英雄のお兄ちゃん」。たまにお菓子を買ってくれる、気前の良いお兄ちゃんであるのだ。

「子供は元気があっていいですね～。俺ももう歳かな」
「安心して下さい。貴方はまだ若いですよ」

　子供の元気さに振りまわされ、少々疲れ気味のリック。
　対してユリーシアは、楽しそうなリックと子供たちの声を聞き、優しく微笑んでいた。
　彼女は街の平和を実感していた。大人たちが働き、子供たちが笑って遊ぶ。そんなあたり前の様な日常は、簡単に得られるものではない。多くの者たちの血の滲む様な働きが、この平和な日常を実現している。
　自分の政治が形となって表れているのを感じ、言うなれば達成感の様なものに浸っていた。

「やはり、城下に出るのは良いものですね」
「気分転換になりましたか？」
「はい。でも、それだけではありません。この国の中で、この国の民が笑顔で生きていてくれる。受け継いだこの国を、私がちゃんと守れていると実感できる。それがとても嬉しいのです」

　美しく、そして儚い。
　少女は微笑む。その目で見る事が叶わなくとも、その肌で民の幸せを感じている。

「よかった・・・・、本当に・・・・・・」

　風が吹き、彼女の真っ白な長い髪が揺れる。
　神秘的な美しさを持つ少女は、自分のやってきた事が無駄ではなかったと知る。

（陛下・・・・・・）

　その真っ白な長い髪と、透き通るような白い肌。神秘的な美しさを放つ彼女の身体は、己の身を削り続けた証である。
　リックは知っている。
　彼女の美しさに隠された、彼自身知りたくもなかった真実を・・・・・・。