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序章
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「リーユ、おはよう」
筋肉質の胸板と暖かい大きな腕に包まれ、頭上からは朝にしては甘ったるすぎる声質が落ちてくる。また沈みかけそうな意識に叱咤し、暑苦しい胸板を押し返しながらベットから起き上がる。
「……ぉはよ」
自分でも聞き取れるかどうかわからない挨拶をかえし、未だベットに転がる男に目もくれず支度に出る。いい加減、何度夜に突き返しても朝になれば必ず僕の隣で僕を包んでくるのをやめてほしい。
最初に言ったはずだ、僕はベットでお前は床。ベットに寝ていいのは僕だけでお前は怪我が治ったらすぐに出て行くと、約束したはずだ。
…毎朝、尋常じゃない速さの心臓の音をバレてしまわないか心配で冷や汗をかいているこっちの気にも少しはなってほしい。
「リーユ?行ってきますのキスは?…あぁ、おはようのキスもないじゃないか」
そんなものはない!怒りと羞恥で顔を真っ赤にして出て行く僕の背に静かな笑い声が響いた。
僕はとんだ勘違いをしていた、初めて出会った時はこんな男だって知らなかったし、こんな感情豊かでもなかった。こんな色欲盛んな雰囲気は1ミリもなかったのに。
扉をバタンと閉めた強い衝動に数羽の鳥が羽ばたいていく。僕がどれだけ掻き乱されているかも知らずに僕を揶揄うこの色男を背に、薬草を摘みにいくといういつもの変わらないルーティンに頼り、必死に冷静を保とうとした。
僕とこいつが出会ったのは半年ほど前、僕がいつもと変わらない日々を送り、薬草を摘んでいるときだった。
たまたまこいつに遭遇した。
太い幹にもたれ掛かり荒い息のまま身体中のあちこちを怪我をしていた。
僕の勘は言った。こいつには関わるなと。
そもそも安定した日常でイレギュラーに遭遇すれば無視すると決めていたし、イレギュラーに関わった途端、安定が瓦解することも知っていた。だからもちろん僕は助ける気なんて少しもなかった。
僕がその太い幹から遠回りで素通りしようとした時、恐ろしい低い声が響いた。
「おい、…水をくんでくれ」
気づかれないようにそっと遠回りをしたつもりなのに、あろうことかそいつは目敏く声をかけてきた。
今では考えられないがあの時のこいつはめちゃくちゃ怖かったし、めちゃくちゃ態度が悪かった。恐ろしく低い声に僕は二つ返事で了承するしかなかった。
この瞬間からだ、僕の生活が軋み始めたのは。
とりあえず水を汲み、流れで介抱する羽目になってしまった僕は家にこいつをなんとか運び込み数日休ませることにした。
最初の何日かこいつは無口だった。ありがとう、助かったの、一言もなかったし、ご飯を食べる時も薬草を傷口に擦り付けた時もうめき声ひとつすらあげず僕は何かの人形かと思った。だってそれくらいにはこいつの顔は精悍で金の髪と宝石のような青い瞳は顔を際立たせていた。
もともと喋る方ではない僕とはもちろんずっと沈黙のままで、最初の怪我が治ったら出ていけの一言以外はほとんど言葉を交わさなかった。
が、その沈黙を破ったのは僕ではなくあいつだった。こいつを拾ってから幾日、全然治りそうもない傷口の薬草選びに頭を悩ませながら腕が使えないこいつにご飯を与えている時、突然僕をじっとみつめながら言ってきた。
「…ありがとう」
…あまりにも突然のお礼に僕は拍子抜けしてしまった。お礼を言うようなやつには見えなかったし、タイミングもタイミングだ、普通ご飯中に言うとは思わないだろう。
しかも、その夜だった。
僕が床で寝ようと布団を敷いている時、突然こいつは、ベットで寝ないのか?と聞いてきた。
…怪我人のおまえがいるから、本来なら僕が占領してるはずのベットを譲ってやっているんだけどな……
と、いろいろとズレているこいつに僕は床で寝るからいいと言おうとした矢先、突然腕を引かれた。
は?お前、腕、使えなかったんじゃないのか?そんな疑問も吹き飛ぶ勢いで強く引っ張られた僕は、あろうことか丸くこいつの腕に収まってしまった。
「は、なっせ」
「ここで寝ろ」
多少なりと抵抗した僕だったが、怪我人のくせに尋常じゃないほどの力のこいつに屈服するほかなく、「床は冷える」とかいう豪語に次第に対抗する気もうせ、久しぶりの温かいベットに沈んだ。
筋肉質の胸板と暖かい大きな腕に包まれ、頭上からは朝にしては甘ったるすぎる声質が落ちてくる。また沈みかけそうな意識に叱咤し、暑苦しい胸板を押し返しながらベットから起き上がる。
「……ぉはよ」
自分でも聞き取れるかどうかわからない挨拶をかえし、未だベットに転がる男に目もくれず支度に出る。いい加減、何度夜に突き返しても朝になれば必ず僕の隣で僕を包んでくるのをやめてほしい。
最初に言ったはずだ、僕はベットでお前は床。ベットに寝ていいのは僕だけでお前は怪我が治ったらすぐに出て行くと、約束したはずだ。
…毎朝、尋常じゃない速さの心臓の音をバレてしまわないか心配で冷や汗をかいているこっちの気にも少しはなってほしい。
「リーユ?行ってきますのキスは?…あぁ、おはようのキスもないじゃないか」
そんなものはない!怒りと羞恥で顔を真っ赤にして出て行く僕の背に静かな笑い声が響いた。
僕はとんだ勘違いをしていた、初めて出会った時はこんな男だって知らなかったし、こんな感情豊かでもなかった。こんな色欲盛んな雰囲気は1ミリもなかったのに。
扉をバタンと閉めた強い衝動に数羽の鳥が羽ばたいていく。僕がどれだけ掻き乱されているかも知らずに僕を揶揄うこの色男を背に、薬草を摘みにいくといういつもの変わらないルーティンに頼り、必死に冷静を保とうとした。
僕とこいつが出会ったのは半年ほど前、僕がいつもと変わらない日々を送り、薬草を摘んでいるときだった。
たまたまこいつに遭遇した。
太い幹にもたれ掛かり荒い息のまま身体中のあちこちを怪我をしていた。
僕の勘は言った。こいつには関わるなと。
そもそも安定した日常でイレギュラーに遭遇すれば無視すると決めていたし、イレギュラーに関わった途端、安定が瓦解することも知っていた。だからもちろん僕は助ける気なんて少しもなかった。
僕がその太い幹から遠回りで素通りしようとした時、恐ろしい低い声が響いた。
「おい、…水をくんでくれ」
気づかれないようにそっと遠回りをしたつもりなのに、あろうことかそいつは目敏く声をかけてきた。
今では考えられないがあの時のこいつはめちゃくちゃ怖かったし、めちゃくちゃ態度が悪かった。恐ろしく低い声に僕は二つ返事で了承するしかなかった。
この瞬間からだ、僕の生活が軋み始めたのは。
とりあえず水を汲み、流れで介抱する羽目になってしまった僕は家にこいつをなんとか運び込み数日休ませることにした。
最初の何日かこいつは無口だった。ありがとう、助かったの、一言もなかったし、ご飯を食べる時も薬草を傷口に擦り付けた時もうめき声ひとつすらあげず僕は何かの人形かと思った。だってそれくらいにはこいつの顔は精悍で金の髪と宝石のような青い瞳は顔を際立たせていた。
もともと喋る方ではない僕とはもちろんずっと沈黙のままで、最初の怪我が治ったら出ていけの一言以外はほとんど言葉を交わさなかった。
が、その沈黙を破ったのは僕ではなくあいつだった。こいつを拾ってから幾日、全然治りそうもない傷口の薬草選びに頭を悩ませながら腕が使えないこいつにご飯を与えている時、突然僕をじっとみつめながら言ってきた。
「…ありがとう」
…あまりにも突然のお礼に僕は拍子抜けしてしまった。お礼を言うようなやつには見えなかったし、タイミングもタイミングだ、普通ご飯中に言うとは思わないだろう。
しかも、その夜だった。
僕が床で寝ようと布団を敷いている時、突然こいつは、ベットで寝ないのか?と聞いてきた。
…怪我人のおまえがいるから、本来なら僕が占領してるはずのベットを譲ってやっているんだけどな……
と、いろいろとズレているこいつに僕は床で寝るからいいと言おうとした矢先、突然腕を引かれた。
は?お前、腕、使えなかったんじゃないのか?そんな疑問も吹き飛ぶ勢いで強く引っ張られた僕は、あろうことか丸くこいつの腕に収まってしまった。
「は、なっせ」
「ここで寝ろ」
多少なりと抵抗した僕だったが、怪我人のくせに尋常じゃないほどの力のこいつに屈服するほかなく、「床は冷える」とかいう豪語に次第に対抗する気もうせ、久しぶりの温かいベットに沈んだ。
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