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10 弱さの証明
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モニターに映し出されたのは仲間の圧倒的敗北と、そして。
「おいこら、お前やる気あんのか?」
いまだに状況を理解できていない人が一人。
「……………」
何を言っても無駄なのは理解しているのでなにも言わない。
少しの間があき四人が出てきた。
四人はひどく悔しがっていた。何があったのかは知らないがおそらく何も、手も足も出ないという差を見せつけられたのだろう。
何せ相手は………
「やれやれ、歯向かってくるのでどの程度かと思えば、話にならないな」
「だから言っただろ。こんなやつらに……」
「ふっ、雑魚過ぎ」
男子二人に女子一人の構成のパーティーだろうか。四人の後から出てきた。
言葉からして戦っていた相手なのだろう。
四人の弱さに笑いがこぼれていた。
「あの、でも約束は約束です。返してください」
その三人に返せと言っているのは兼拍。その三人の男の手には一枚のプリント。それを返してほしいらしい。
「……………はあ?」
「うぐっ!?」
返ってきたのはみぞおちへの蹴りだった。
「なっ?」
その様子を見て三人が急いで駆け寄った。うずくまる兼拍は息が詰まっているようでゴホゴホと咳き込む。
その様子を未だ遠くから見ているアサギの手がピクリと動く。
しかし自分たちで始まってしまった試合なのだろう。不用意に手を出すことはしたくなかった。
それが無駄な戦いを避けるために学ぶいい機会だから。
「な、何で………」
四人はアサギの姿を見ることもなく、見つけることすらできずその場で続く惨劇。
「だっせぇな!てめぇなんかにする約束なんかネーヨ。てかその三人は百歩譲ったとしてな、お前は厄魔族だろ?」
久々に聞いたようなそのセリフ。兼拍を恐怖のどん底へと突き落とす。
震えだす体はもはや自分の体ではないかのように言うことをきかない。
「なんだよ?ヒビってんのか?」
声を上げていく。
調子に乗っているのか、気分が高まっているのか。いずれにせよ兼拍を完全に見下していた。
また更に追い討ちとばかりに持っていた一枚のプリントをビリビリにその場で破り捨てた。
「………………」
それでも黙って見ていることしか出来ず、寄り添う三人も頭が真っ白のようだ。
とうとう二人もてを出し始める。
「あれ?こいつ何かもってるぜ?」
「あら、寄越しなさい」
兼拍が持っていたもの。ポケットにしまっていたがどいう訳かばれたようだ。
「………ぁ、これだけは……………お願い、ですから」
震える声。二人には響かない。響く奴がこんなことをするはずはないが。
容赦なく奪い取る。
「ああ」
「うるせーな」
手を思いっきり弾いた。
その拍子にだろうか。
兼拍が持っていたのはバッチ。それもアサギが渡したバッチ。
第七師団に初めて来たとき荷物を整理していた時、兼拍がアサギから団長がつけていたエンブレムの入ったバッチを受け取っていた。
それを無理矢理兼拍の手から奪い取るときに兼拍の腕に線が走る。
「いつっ」
そこから辿るように赤いものが。
言うまでもなく血だ。
ここまでは耐えられた。しかしもう充分だ。
「……杉原さんだっけ?悪いね。先にやることができた」
杉原に頼むアサギの顔は暗かった。目は透き通っていて吸い込まれそうなほど黒い。
そらに気圧されたのか、潔く下がる杉原。
「お、おうまぁやってくれるってなら構わんが……………」
「……助かるよ。このままだとあんたに八つ当たりしちまいそうだ」
何となく戦ってすらいない、アサギの強さを知っているわけでもないのに恐怖が込み上げてくる。そして本能はこいつとの戦いは避けろ、そう言っている。
アサギが離れていくのにホッとする杉原だった。
「ハァースッキリしたし、そろそろ………」
帰ろうか、そう言おうとしたかのか。そんなことを言わせなかったのは勿論アサギ。
兼拍とその三人の前にわって入る。
「あ?」
いきなり目の前に現れるものだから一人がイラつきをあらわにしした声でアサギを見た。
横にいる二人も何なのこいつ、という目で見ていた。
勿論三人はアサギのことを知らない。
「………………」
アサギは無言のままバッチを取り返した。
一瞬の出来事すぎて無抵抗なまま取られる。
三人は何をしたかわからずボケッと突っ立ったまま。
「あ、アサギ。その……………」
泣きそうな声でアサギを呼ぶ。こんなところは見せたくなかったのか。
顔をそらしながら申し訳無さそうに謝る。
「ごめんなさい………………」
勝手に戦ってしまって、トラブルに巻き込まれて。そんなことを反省していた。
アサギには謝られる覚えはなくただ頭に?を浮かべるだけだった。後は兼拍の手にそっとバッチを手渡した。
「……………」
何と言えばわからなくなってしまったような顔をしながらホッと息をついた。
そんな様子を見てようやく三人は正気に戻った。
「何だてめぇ?」
アサギの胸ぐらをつかみかかろうとした。
「『何だ?』それはこっちのセリフだよ」
片手で振り払い睨み付ける。
杉原ですら引かせたあの圧力をもって。
「………っ」
一度ビクリと身をすくめたが何事もなかったかのようにアサギをにらみ返す。そんなアサギはビビる事もなく睨み続けた。
「あんたら何でこいつらと戦ってんの?」
あの四人が自分から喧嘩を売るとは考えられない。
勿論アサギの思う通り、この四人から喧嘩を売った訳ではない。
しかし正直に言うわけはない。
「それはだなぁ、こいつらが喧嘩売ってきてさぁ、俺らはどうしようかと………」
「そうそう、んで迷惑料を貰おうかと」
「トレーニングボックスで練習しようとしてただけなのに」
言いたいこと散々な三人。
アサギの後ろの茅世弥は何か言い換えそうとするも睨みひとつで黙らせられ一方的な意見となった。
その後もペラペラとまるで台本にでも書いてあるかのようにしゃべり始める。
アサギは嘘だとわかっていた。むしろこの三人が本当の事を言うとは思えない。
「…………へぇ、くっだらない嘘つくんだなお前ら。そんなに弱いもの虐めして楽しいか?」
ここまで来ても三人は惚ける。
「……………はぁ、もういいや。それ、返して」
アサギが指差すのはプリント。練習メニューが書いてあるもの。
「えぇー?聞いてなかったの?迷惑料だってさあ?」
その言葉に合わせ二人もクスクスと笑う。
アサギはもう正直限界だった。時間を取られ四人の邪魔をされものを取り最終的には迷惑料だとかほざきだす。
「………………はぁ、なら払ってやるよ。迷惑料を。その前にもうひとつ迷惑していいか?その分上乗せしてやるからさ」
「えぇ、ま、構わないや。そのかわり倍な?」
ニヤニヤと余裕の表情。この後のアサギの迷惑がとてつもないとも知らずに。
(今すぐその余裕なくしてやるよ)
心のなかで三人の心をへし折ることを密かに誓う。
話が進むにつれ置いてけぼりにされるアサギのポンコツパーティーの四人はその場にとどまることしか出来なかった。
「俺と戦ってくれよ?あいつらと一緒のようにさ。お前らがどれくらい強いのか気になった」
恐れもなく三人に対し喧嘩を売るアサギ。負ける気はしない。そんな事を言っているようにも聞こえた。
「へぇ、いいぜ、まずは俺からだな」
アサギの売った喧嘩に早速食い付く。こちらも自信満々で腕を大きく回し始める。
「何言ってやがる?時間の無駄だ。三人まとめてかかってこい。相手してやる」
この時もう既に上から目線だった。
お前らより強いと。
そんな様子が伺える。四人にとってはアサギが自殺行為しているようにしか思えず止めに入ろうとする。
「あ、アサギ君、止めた方が…………」
「心配すんなって」
茅世弥の説得も無駄に終わる。
その後も兼拍、宮越、南が次々に止めようと言葉を投げ掛けるがアサギは笑って大丈夫だと言う。しかしそこには大丈夫というのは「落ち着いているよ」の方に聞こえなくもない。
俺の仲間にこんなことして許すと思うな
そんなことを言っているように目で悟る。
アサギはどうしてもやり返さなきゃ気がすまないようだ。
そんなことも露知らず三人はまとめてと言われたことと相手してやるという上からの言葉に腹をたてていた。
「潰してやるよ」
「いきりやがって」
「後悔させてやろ」
どうやら三人ともやりたいことは一緒のようだ。
アサギをコテンパンにしたいらしい。
アサギが言う。
「よし、じゃあ始めようか」
奴らへの報復を!
逃がしはしない。アサギは怒っていた。
─対戦開始─
独特の機械音によって始まる。
アサギと対戦相手の三人が転送される。ここからはもう仮想世界だ。
ステージは任せたので相手は動揺を誘うためか一般とは異なり今までやってきた市街地に似ているがそれより都会化が進んだ市街地。ビルやマンションなど大きな建物と狭い路地裏、入り込んだ地形がポイント。
(……………………)
アサギは静かに考える。動揺は見られない。
(ふむ、あの時の奴らよりは強いかな)
転送直後にレーダーを確認したが即座に消えたことを確認する。
通常一対一が主流だが、一対多数、多数対多数の戦闘では互いに距離を置いてスタートになる。
距離にしてわずか数百メートル。
(三人まとまって、いや別れて来るか)
最後の方しかアサギは見ていないが見ていたという事実は戦いに置いてかなり有利な立場。
男1、男2、女、とアサギは称し個人で作戦を立てていく。
(男1は大剣、一番強気で主に主力と考えられる
男2は弓と短剣を使い分けるが慎重派
女は割りと活発でおそらく陽動にも参加する、武器は斧
三人とも魔法は見た感じ怖いものはない)
それに対しアサギが使う武器は氷性の短剣。
魔法を主力に戦うつもりだ。
アサギはステルスなど使わずに堂々と行動を開始する。
こらぐらいが良いハンデだと。
(………………あー、やれやれ。潜伏かよ。あそこまでいきっておいて………)
潜伏
ステルス状態で物陰に潜み不意討ちや敵の様子を見る体制。
近くに潜んでいることなど丸わかりだ。
何故なら魔力量探知を使っている。
魔力量探知
相手(人や生物)の魔力量を探知し居場所を知る魔法。対ステルスの魔法だ。ちなみにマップも詳しく把握出来るのでかなり使い道がある。
背後に二人、目の前に一人。誰も隠れていていつ姿を見せるかはわからない。
このまま気づかない振りで出てきたところを叩くというのもありだがアサギ的にはボコボコにして凹ませてやりたいと考えているのでそれはやらない。
正面から叩きたい。
「やるか!」
まずは背後に回った敵を炙りだしだす。
背後に回っているのはおそらく男2と女だろうと考えるが念のため姿を確認しておきたかった。
「〝追尾弾丸〟」
アサギの言葉に合わせアサギの左手のひらから魔法陣が生成。
そこから魔法で出来た弾が線を残し弧を描きながら見えていないにも関わらず二人を捉える。
上方向から飛弾する。
「うわっ!」
「ひやぁ!」
建物の影に隠れていた二人が飛び出す。
追尾弾丸
魔力を持つものなら自動で追尾するノーマルな魔法。魔法の属性は無または力の種類に属する。威力は通常より低いが直撃すれば即死もワンちゃん狙える威力はある。
シールドで何とか守ったようだが、飛び出したために姿を確認。予想通り男2と女だった。
二人は何故ばれていたか困惑した様子だがアサギは攻撃を構わず続ける。
「〝追尾弾丸〟」
二度目の追尾弾丸。今度は横から飛弾するように撃つ方向を変えた。
考える暇なくシールドで対応する。
「………くっ」
「………ふっ」
二人とも無傷でこれを乗り切る。
そして当然のごとく現れる男1。現在後ろを見ていたアサギには背後をとる形となった。
「……………」
無言でかつ高速で現れた。
大剣がアサギに狙いを定める。
「終わりだ」
小さくぼそりと呟いた。
勝利を確信した様子。
しかしそれを裏切る。予想通り。
アサギは見ずに横へそれる。
その場から平行移動したようにさえ見えたその動きは通常の移動ではないことは確かだ。
「そっちがな」
アサギは聞こえる声で突っ込んできた男1にそう言う。
終わり。そのままそっくりブーメランとして男1に突き刺さる。
魔法が。
そう、魔法が男1を貫いた。
腹から刺さりそのまま背中へ貫いた。魔力が漏れだす隙さえなくそのまま男1は戦線離脱。
残された二人は唖然とその様子を見ていた。
何が起こったかわからない。
そんな言葉を表情に表している。
アサギはニヤッと笑いながら言う。
「まさかどうなったかわからないなんて言うんじゃないだろうな?」
そして、アサギは構え直す。
「まだこんなものじゃないぜ?ここからは俺の本当の力を見せてやろう」
不敵に笑うアサギ。圧倒的力を見せこんな下らないことを二度としないように釘指しておこうと考えていた。
あの四人にもこれ以上の被害が無いように。
大切な仲間なのだから。
「おいこら、お前やる気あんのか?」
いまだに状況を理解できていない人が一人。
「……………」
何を言っても無駄なのは理解しているのでなにも言わない。
少しの間があき四人が出てきた。
四人はひどく悔しがっていた。何があったのかは知らないがおそらく何も、手も足も出ないという差を見せつけられたのだろう。
何せ相手は………
「やれやれ、歯向かってくるのでどの程度かと思えば、話にならないな」
「だから言っただろ。こんなやつらに……」
「ふっ、雑魚過ぎ」
男子二人に女子一人の構成のパーティーだろうか。四人の後から出てきた。
言葉からして戦っていた相手なのだろう。
四人の弱さに笑いがこぼれていた。
「あの、でも約束は約束です。返してください」
その三人に返せと言っているのは兼拍。その三人の男の手には一枚のプリント。それを返してほしいらしい。
「……………はあ?」
「うぐっ!?」
返ってきたのはみぞおちへの蹴りだった。
「なっ?」
その様子を見て三人が急いで駆け寄った。うずくまる兼拍は息が詰まっているようでゴホゴホと咳き込む。
その様子を未だ遠くから見ているアサギの手がピクリと動く。
しかし自分たちで始まってしまった試合なのだろう。不用意に手を出すことはしたくなかった。
それが無駄な戦いを避けるために学ぶいい機会だから。
「な、何で………」
四人はアサギの姿を見ることもなく、見つけることすらできずその場で続く惨劇。
「だっせぇな!てめぇなんかにする約束なんかネーヨ。てかその三人は百歩譲ったとしてな、お前は厄魔族だろ?」
久々に聞いたようなそのセリフ。兼拍を恐怖のどん底へと突き落とす。
震えだす体はもはや自分の体ではないかのように言うことをきかない。
「なんだよ?ヒビってんのか?」
声を上げていく。
調子に乗っているのか、気分が高まっているのか。いずれにせよ兼拍を完全に見下していた。
また更に追い討ちとばかりに持っていた一枚のプリントをビリビリにその場で破り捨てた。
「………………」
それでも黙って見ていることしか出来ず、寄り添う三人も頭が真っ白のようだ。
とうとう二人もてを出し始める。
「あれ?こいつ何かもってるぜ?」
「あら、寄越しなさい」
兼拍が持っていたもの。ポケットにしまっていたがどいう訳かばれたようだ。
「………ぁ、これだけは……………お願い、ですから」
震える声。二人には響かない。響く奴がこんなことをするはずはないが。
容赦なく奪い取る。
「ああ」
「うるせーな」
手を思いっきり弾いた。
その拍子にだろうか。
兼拍が持っていたのはバッチ。それもアサギが渡したバッチ。
第七師団に初めて来たとき荷物を整理していた時、兼拍がアサギから団長がつけていたエンブレムの入ったバッチを受け取っていた。
それを無理矢理兼拍の手から奪い取るときに兼拍の腕に線が走る。
「いつっ」
そこから辿るように赤いものが。
言うまでもなく血だ。
ここまでは耐えられた。しかしもう充分だ。
「……杉原さんだっけ?悪いね。先にやることができた」
杉原に頼むアサギの顔は暗かった。目は透き通っていて吸い込まれそうなほど黒い。
そらに気圧されたのか、潔く下がる杉原。
「お、おうまぁやってくれるってなら構わんが……………」
「……助かるよ。このままだとあんたに八つ当たりしちまいそうだ」
何となく戦ってすらいない、アサギの強さを知っているわけでもないのに恐怖が込み上げてくる。そして本能はこいつとの戦いは避けろ、そう言っている。
アサギが離れていくのにホッとする杉原だった。
「ハァースッキリしたし、そろそろ………」
帰ろうか、そう言おうとしたかのか。そんなことを言わせなかったのは勿論アサギ。
兼拍とその三人の前にわって入る。
「あ?」
いきなり目の前に現れるものだから一人がイラつきをあらわにしした声でアサギを見た。
横にいる二人も何なのこいつ、という目で見ていた。
勿論三人はアサギのことを知らない。
「………………」
アサギは無言のままバッチを取り返した。
一瞬の出来事すぎて無抵抗なまま取られる。
三人は何をしたかわからずボケッと突っ立ったまま。
「あ、アサギ。その……………」
泣きそうな声でアサギを呼ぶ。こんなところは見せたくなかったのか。
顔をそらしながら申し訳無さそうに謝る。
「ごめんなさい………………」
勝手に戦ってしまって、トラブルに巻き込まれて。そんなことを反省していた。
アサギには謝られる覚えはなくただ頭に?を浮かべるだけだった。後は兼拍の手にそっとバッチを手渡した。
「……………」
何と言えばわからなくなってしまったような顔をしながらホッと息をついた。
そんな様子を見てようやく三人は正気に戻った。
「何だてめぇ?」
アサギの胸ぐらをつかみかかろうとした。
「『何だ?』それはこっちのセリフだよ」
片手で振り払い睨み付ける。
杉原ですら引かせたあの圧力をもって。
「………っ」
一度ビクリと身をすくめたが何事もなかったかのようにアサギをにらみ返す。そんなアサギはビビる事もなく睨み続けた。
「あんたら何でこいつらと戦ってんの?」
あの四人が自分から喧嘩を売るとは考えられない。
勿論アサギの思う通り、この四人から喧嘩を売った訳ではない。
しかし正直に言うわけはない。
「それはだなぁ、こいつらが喧嘩売ってきてさぁ、俺らはどうしようかと………」
「そうそう、んで迷惑料を貰おうかと」
「トレーニングボックスで練習しようとしてただけなのに」
言いたいこと散々な三人。
アサギの後ろの茅世弥は何か言い換えそうとするも睨みひとつで黙らせられ一方的な意見となった。
その後もペラペラとまるで台本にでも書いてあるかのようにしゃべり始める。
アサギは嘘だとわかっていた。むしろこの三人が本当の事を言うとは思えない。
「…………へぇ、くっだらない嘘つくんだなお前ら。そんなに弱いもの虐めして楽しいか?」
ここまで来ても三人は惚ける。
「……………はぁ、もういいや。それ、返して」
アサギが指差すのはプリント。練習メニューが書いてあるもの。
「えぇー?聞いてなかったの?迷惑料だってさあ?」
その言葉に合わせ二人もクスクスと笑う。
アサギはもう正直限界だった。時間を取られ四人の邪魔をされものを取り最終的には迷惑料だとかほざきだす。
「………………はぁ、なら払ってやるよ。迷惑料を。その前にもうひとつ迷惑していいか?その分上乗せしてやるからさ」
「えぇ、ま、構わないや。そのかわり倍な?」
ニヤニヤと余裕の表情。この後のアサギの迷惑がとてつもないとも知らずに。
(今すぐその余裕なくしてやるよ)
心のなかで三人の心をへし折ることを密かに誓う。
話が進むにつれ置いてけぼりにされるアサギのポンコツパーティーの四人はその場にとどまることしか出来なかった。
「俺と戦ってくれよ?あいつらと一緒のようにさ。お前らがどれくらい強いのか気になった」
恐れもなく三人に対し喧嘩を売るアサギ。負ける気はしない。そんな事を言っているようにも聞こえた。
「へぇ、いいぜ、まずは俺からだな」
アサギの売った喧嘩に早速食い付く。こちらも自信満々で腕を大きく回し始める。
「何言ってやがる?時間の無駄だ。三人まとめてかかってこい。相手してやる」
この時もう既に上から目線だった。
お前らより強いと。
そんな様子が伺える。四人にとってはアサギが自殺行為しているようにしか思えず止めに入ろうとする。
「あ、アサギ君、止めた方が…………」
「心配すんなって」
茅世弥の説得も無駄に終わる。
その後も兼拍、宮越、南が次々に止めようと言葉を投げ掛けるがアサギは笑って大丈夫だと言う。しかしそこには大丈夫というのは「落ち着いているよ」の方に聞こえなくもない。
俺の仲間にこんなことして許すと思うな
そんなことを言っているように目で悟る。
アサギはどうしてもやり返さなきゃ気がすまないようだ。
そんなことも露知らず三人はまとめてと言われたことと相手してやるという上からの言葉に腹をたてていた。
「潰してやるよ」
「いきりやがって」
「後悔させてやろ」
どうやら三人ともやりたいことは一緒のようだ。
アサギをコテンパンにしたいらしい。
アサギが言う。
「よし、じゃあ始めようか」
奴らへの報復を!
逃がしはしない。アサギは怒っていた。
─対戦開始─
独特の機械音によって始まる。
アサギと対戦相手の三人が転送される。ここからはもう仮想世界だ。
ステージは任せたので相手は動揺を誘うためか一般とは異なり今までやってきた市街地に似ているがそれより都会化が進んだ市街地。ビルやマンションなど大きな建物と狭い路地裏、入り込んだ地形がポイント。
(……………………)
アサギは静かに考える。動揺は見られない。
(ふむ、あの時の奴らよりは強いかな)
転送直後にレーダーを確認したが即座に消えたことを確認する。
通常一対一が主流だが、一対多数、多数対多数の戦闘では互いに距離を置いてスタートになる。
距離にしてわずか数百メートル。
(三人まとまって、いや別れて来るか)
最後の方しかアサギは見ていないが見ていたという事実は戦いに置いてかなり有利な立場。
男1、男2、女、とアサギは称し個人で作戦を立てていく。
(男1は大剣、一番強気で主に主力と考えられる
男2は弓と短剣を使い分けるが慎重派
女は割りと活発でおそらく陽動にも参加する、武器は斧
三人とも魔法は見た感じ怖いものはない)
それに対しアサギが使う武器は氷性の短剣。
魔法を主力に戦うつもりだ。
アサギはステルスなど使わずに堂々と行動を開始する。
こらぐらいが良いハンデだと。
(………………あー、やれやれ。潜伏かよ。あそこまでいきっておいて………)
潜伏
ステルス状態で物陰に潜み不意討ちや敵の様子を見る体制。
近くに潜んでいることなど丸わかりだ。
何故なら魔力量探知を使っている。
魔力量探知
相手(人や生物)の魔力量を探知し居場所を知る魔法。対ステルスの魔法だ。ちなみにマップも詳しく把握出来るのでかなり使い道がある。
背後に二人、目の前に一人。誰も隠れていていつ姿を見せるかはわからない。
このまま気づかない振りで出てきたところを叩くというのもありだがアサギ的にはボコボコにして凹ませてやりたいと考えているのでそれはやらない。
正面から叩きたい。
「やるか!」
まずは背後に回った敵を炙りだしだす。
背後に回っているのはおそらく男2と女だろうと考えるが念のため姿を確認しておきたかった。
「〝追尾弾丸〟」
アサギの言葉に合わせアサギの左手のひらから魔法陣が生成。
そこから魔法で出来た弾が線を残し弧を描きながら見えていないにも関わらず二人を捉える。
上方向から飛弾する。
「うわっ!」
「ひやぁ!」
建物の影に隠れていた二人が飛び出す。
追尾弾丸
魔力を持つものなら自動で追尾するノーマルな魔法。魔法の属性は無または力の種類に属する。威力は通常より低いが直撃すれば即死もワンちゃん狙える威力はある。
シールドで何とか守ったようだが、飛び出したために姿を確認。予想通り男2と女だった。
二人は何故ばれていたか困惑した様子だがアサギは攻撃を構わず続ける。
「〝追尾弾丸〟」
二度目の追尾弾丸。今度は横から飛弾するように撃つ方向を変えた。
考える暇なくシールドで対応する。
「………くっ」
「………ふっ」
二人とも無傷でこれを乗り切る。
そして当然のごとく現れる男1。現在後ろを見ていたアサギには背後をとる形となった。
「……………」
無言でかつ高速で現れた。
大剣がアサギに狙いを定める。
「終わりだ」
小さくぼそりと呟いた。
勝利を確信した様子。
しかしそれを裏切る。予想通り。
アサギは見ずに横へそれる。
その場から平行移動したようにさえ見えたその動きは通常の移動ではないことは確かだ。
「そっちがな」
アサギは聞こえる声で突っ込んできた男1にそう言う。
終わり。そのままそっくりブーメランとして男1に突き刺さる。
魔法が。
そう、魔法が男1を貫いた。
腹から刺さりそのまま背中へ貫いた。魔力が漏れだす隙さえなくそのまま男1は戦線離脱。
残された二人は唖然とその様子を見ていた。
何が起こったかわからない。
そんな言葉を表情に表している。
アサギはニヤッと笑いながら言う。
「まさかどうなったかわからないなんて言うんじゃないだろうな?」
そして、アサギは構え直す。
「まだこんなものじゃないぜ?ここからは俺の本当の力を見せてやろう」
不敵に笑うアサギ。圧倒的力を見せこんな下らないことを二度としないように釘指しておこうと考えていた。
あの四人にもこれ以上の被害が無いように。
大切な仲間なのだから。
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