恋愛短編集

真那月 凜

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キオクノカケラ

第2話

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慌しい日が数日続いたかと思うとその時点で拓弥は遠い人になりつつあった

学校でも騒がれ二人で話す時間が無くなり、一緒に帰ることも電話がかかってくることもメールが来る事もほとんど無くなった

「拓弥君・・・」
遠くから皆に囲まれた拓弥を眺めるしかできない

「聖さん」
「え?」
振り返るとクラスの女子がいた

「あなたと瑞希君ってまだ付き合ってるの?」
「あ・・・」
「裕香そんなこと聞くもんじゃないって」
「そうだよ。ここ2週間ぐらい2人が一緒にいる所なんて見たことないじゃない。終ってるんだって」
彼女達の言葉に李砂はうつむく

改めて自分達が付き合っていることを周りが不満に思っていたのだと思い知らされた
そしてこれは遠まわしにとっとと諦めろと言われているのだと悟る

その瞬間頭の中にいつもの映像が現れた
『痛っ・・・』
今までになかった痛みが走る
でもその痛みも映像が消えたと同時になくなっていた

「だいたいさ、聖さんみたいな暗い人が瑞希君の横にいるなんて間違ってたんだって。聖さんにはもっとふさわしい人がいるよ。ね?」
「言えてる。どう見ても不釣合いだったもん。そうでしょ?」
明らかに李砂に頷かせようとしていた
そんなこと言われなくても嫌というほど実感していた
溢れてきそうな涙をこらえて彼女たちを見返す

「・・・安心して?拓弥君に相応しくない事ぐらい分かってるし。ただ夢見たかっただけだか・・・」
「心にもない事言ってんじゃねぇよ」
言葉をさえぎるように吐き捨てるような言葉が割り込んでくる

『何?』
後を振り返ると拓弥の親友が立っていた

「俊君・・・」
「お前以上に拓弥が大事にしてる人間がいるとでも思ってんのか?」
「・・・どういう意味よ?!」
裕香が憎たらしそうに言う

「拓弥は小3の頃から季砂だけをみてきたってことだよ」
「小3・・・?なに言って・・・だって私が拓弥君と会ったのは高校に入ってからで・・・」
「・・・これ拓弥から」
俊はそう言って封筒を渡してくれた

「あ・・・りがと」
李砂は封筒を受け取ってすぐ教室へ駆け込んだ

誰もいないことを確認してから封を開ける
【公園にいる。拓弥】
中に入っていたカードにそれだけが書かれていた

李砂は慌てて荷物を持って学校を出ると2人でよくくつろいでいた公園に急ぐ
もう外は暗くなってきていた

「カーノジョ」
「何急いでんの?」
2人組の男が近寄ってくる

「・・・」
何も答えず歩き続ける李砂の腕を1人が掴んだ

「そんなシカトすんなよぉ」
「俺たちと楽しいことしようぜ」
もう一人が肩を抱き寄せる

『何こいつら・・・』
背筋が凍りつくのが分かった

「離・・・して」
必死で逃れようとする
でも大の男2人の力に叶うはずがなかった

「そんな嫌がらずにさ。どうせそんな根暗そうな自分を相手にしてくれる男なんていないんだろ?」
「そうそう。俺らはボランティアってやつだ」
ニヤニヤしながら男たちにひきづられるように林の方へ連れて行かれる

『ヤバイ』
「やめ・・・誰・・・」
叫ぼうとした時何かの薬品をしみこませたような布を押し当てられる

『・・・』
意識が遠のいていく

「その辺でやめとけ。無抵抗じゃつまんねぇ」
気を失いそうになったとき1人が言った
頭がぼ~っとしている
でも意識だけはちゃんとあった

『逃げなきゃ・・・』
そう思うものの力が入らない

「そんな泣かなくてもいいって」
「今から楽しむんだからさ」
2人は口々に言うと手を伸ばしてくる
李砂は必死に逃れようとするものの無駄なことだと思い知るだけだった
制服が引きちぎられ2人の手が体中を這うように動く

『やめて・・・!』
叫びたくても声にもならない
体中触られ泣くことしか出来なかった

「たく・・・やく・・・」
『ごめんなさい・・・』
声にならない言葉に2人が気付く事もなかった
あまりの絶望感に気が遠のきかけた時2人の男のうめき声がかすかに聞こえたような気がした




「・・・さ・・・・・・季砂!」
誰かに呼ばれて目を覚ます

「大丈夫か?」
心配そうな拓弥の顔が李砂を覗き込んでいた
少しずつ記憶がよみがえる

『私・・・』
2人の男の顔が頭に浮かぶ

「や・・・!」
思わず拓弥に背を向ける
抑えようとしても抑えきれない不安にからだが震えだす

『捨てられる・・・』
拓弥からの別れの言葉が頭をよぎる

「季砂」
拓弥は李砂の髪をそっとなでた

『別れの言葉なんて聞きたくないよ・・・』
そう思っても李砂にはその言葉を言う資格なんてない事は分かっていた

「ごめんな」
「・・・え?」
予想外の言葉に戸惑う

「俺があんな呼び出し方しなけりゃ・・・」
拓弥の声が震えていた

「拓・・・弥君?」
思わず振り向く
そこには不安そうな拓弥がいた

「いくら謝っても許されないのは分かってる。でも俺は季砂を失いたくないんだ・・・」

『何・・・言ってるの?』
李砂は状況が飲み込めなかった

「俺から離れていかないでくれ・・・」
搾り出すような拓弥の言葉にどうしていいかすら分からない

「・・・分からないよ」
「え?」
「どうして拓弥君が私にこだわるのか・・・私だけじゃなく皆がそう思ってる」
李砂は震える声を抑えようと必死だった

「私は綺麗でもないし明るいわけでもない。友達が多いわけでもないしこれと言って特技も・・・」
「やめろよ」
「え?」
「少なくとも俺はそんな風に思わない」
「拓弥君・・・」
「送る」
拓弥はそう言って立ち上がる

「一人で帰れるよ?拓弥君有名人なんだから私なんかといてスキャンダルに・・・!」
言い終わらないうちにキスで口をふさがれる

「・・・ん・・・」
激しいそれでいて暖かいキス

「スキャンダルなんてどうでもいい。モデルだってお前が嫌ならいつでも止める」
「・・・」
「行くぞ」
拓弥はそう言うと歩き出した

拓弥の言葉で李砂の中でなぞが一段と大きくなったのは言うまでもない
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