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13・望み通りの
しおりを挟むシュネス殿下の成人祝いのパーティーは、予想に違わず、私にはドレスどころか、アクセサリーの一つも送られることなく迎えることとなった。
否、エスコート一つなく、招待状すら、家に中てて届いたもののみで、私個人に対してですらない。
どれほど蔑ろにすれば気が済むのかと、父は憤りをあらわにしていたが、私としては今更。
何かされる方が気持ち悪いと思ってしまうほどだった。
それぐらいにはシュネス殿下とはかかわりが薄いのだ。
嫌われるどころの話ではないなとすら思う。
きらびやかなシャンデリア。
王宮の広場は、なるほど、今日の夜会に相応しく、いつも以上に飾り付けられていて、こういった美しさだけは簡単に値すると、私はこっそり溜め息を吐いた。
父のエスコートで会場に入る。
リコスがすでに入場しているのが目に入った。
他にも見知った顔が幾つか。
それぞれがなんとなく目配せしたり、頷き合ったりしているのは、今日これから起こることを、皆が予想しているからなのだろうか。
何も起こらないとはきっと、誰も思っていないのだろうと思われた。
本日の主役であるシュネス殿下が会場に入られたのは、夜会の開始時刻とされている時間の少し前。
傍らにはニディアの姿。
エスコートどころの話ではなく、ニディアのドレスは、シュネス殿下と誂えたように色やデザインなどを合わせてあった。
はたから見るとどう見ても、あちらの方が婚約者か恋人か何かに見える。
私がシュネス殿下の婚約者であることは周知の事実で、幾人かが眉をひそめていたが、しかし誰も何も言わない。
皆、そのようなことを指摘しても仕方がないことを知っているからだ。
むしろここでシュネス殿下に激昂でもされる方が面倒くさいとすら思っているのかもしれなかった。
それは私も同じで、ただ、私はむしろ、すました顔でシュネス殿下の傍らに控えるニディアが気になって仕方がなかった。
シュネス殿下がついと会場を見渡したかと思うと、私へと視線を止め、途端、怒りも露わに顔をしかめる。
私には心当たりなど全くないが、特にそのような顔を向けられた所でなんとも思わないので、ただ静かにその場に佇んでいた。
ほとんどの招待客が、すでに入場を済ませたのだろう、周囲ではさざめくような囁き声が響いていた。
そんな中、シュネス殿下がおもむろに口を開く。
「アサニファティス・モニエステ!」
呼ばれたのは私の名。
視線もぴたりと私に注がれているので、当然と言えば当然だろう。
周囲の喧騒がぴたりとやんだ。
いったい何が始まるのかと、皆、固唾をのんで見守っているのがわかる。
否、予想通りの出来事を、むしろ待ち望んでいるのかもしれなかった。
それは私も同じこと。
私はただ、殊勝な顔をして佇むのみ。
シュネス殿下が言葉を続けた。
「俺はこの時をもってお前との婚約を破棄する!」
高らかに宣言されたその言葉は、私が待ちに待っていた、何よりもの望みに他ならなかった。
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