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2・診療所

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 目が覚めた。
 ゆっくりと起き上がって、きょろきょろと辺りを見回してみる。
 見覚えが全くない。

「どこ……ここ……」

 どこなのかがわからなかった。
 思い出す。僕は……そう、砂漠を歩いていたはずだ。
 何処までも続く砂の海を、ただひたすらに歩いていた。
 そして。……そして、どうなったのだろう。
 暑かった。暑くて、暑くて、目が眩んで、そして。
 そこで記憶は途切れている。

「僕……どうして」

 ぽつり、呟いた。
 喉の渇きは、癒えていた。
 覚えている記憶の中で、僕は喉が渇いたと、そう思っていたはずなのに。
 と、近づいてくる人の気配。
 知らない魔力にビクン、思わず肩を震わせる。
 そちらに目を向けると、布がかかっていて、どうやらこの部屋と他を繋ぐ出入り口のようになっているらしかった。
 その布をかき分けて、見覚えのない男が顔をのぞかせる。

「気が付いたか」

 僕を見て、よかったとほっと顔を綻ばせた。
 浅黒い肌、褪せたような金髪の、目も冴えるような美丈夫だ。
 初めて見る男だった。……――少なくとも、僕が覚えている限り。

「あの……僕は……」

 戸惑いながら、なんとかそう問いかける。
 男はへにょと小さく笑った。

「砂漠で……行き倒れていたのだと聞いている。行商の男が連れてきたんだ。ここは診療所になっていてな。俺はそこで医療師をしている」
「医療師……」

 僕はぼんやりと呟いた。
 聞き覚えのない職業だったが、響きから、医者のようなものなのだろうと判断する。

「あの、それは……助けて下さって、ありがとうございました。ご迷惑をおかけしてしまって……」

 あのまま、砂を歩いて。僕は倒れてしまったのだろう。そして意識を失った。
 助けてくれたのは僕を連れてきたのだという行商の男とやらと、目の前のこの医療師なる人物なのだろう。
 礼を告げた僕に、男はふるり、首を横に振った。

「いや、気にしなくていい。君をそのまま放置するわけにもいかんだろ。何が起こるかわからん」

 僕を放置すると、いったいどうしたというのだろう。
 僕は首を傾げた。
 何を言っているのかがわからない。

「あの……それはいったい、どういう……」

 戸惑う僕に男は驚いたように目を瞬かせた。

「なんだ、まさか無自覚なのか? それともまさか記憶が……」

 記憶が。いったいなんだというのか。いったい僕は何を自覚していないのか。

「あの……」

 疑問を口に出そうとした僕の言葉を、男の声が遮った。

「何故なら君は神人かむびとだろう? それこそ、何が起こるかわからないじゃないか」
「かむびと……」

 何のことなのか、わからなかった。
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