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24・神人①
しおりを挟む「やはりどうしても慣れぬ旅の途中というのがあったのでしょう。今ほど緩やかなお顔はなさっていらっしゃいませんでしたよ」
それを聞いたフォルがははと笑う。
「そうか。神人殿はこちらで気を緩めてくれているということだな。それは何よりだ。しばらくはここで過ごすのだから、少しでも心安らかにあれるというなら、それに越したことはない」
その声には安堵が滲んでいて、フォルなりに心配していたのかもしれないと知った。
なんだか半ば強制的に保護したいだとかなんだとか言ってきていた所からしても、強引な印象が強かったのだけれど、それだけでもないということなのだろう。
そもそも背に乗せてまで一足早く僕を此処へ連れてきたところからしても気遣いのようなものは伝わってきていた。
ならば何故無理を押してまで移動など、と思わなくもないが、あの集落では環境が充分ではなかったのは確かだろうと、この屋敷や使用人の多さを見てしまうとやはりどうしても思ってしまう。
結局は僕を気遣ったが故に。
だけど。
「あのっ……! それで、その……『かむびと』というのは……」
今更ではあるのだけれど、初めからずっと。それこそ、ホセの家で気が付いた時の初めの初めから、皆が僕を称している。
ならばきっと間違いなく、僕は『かむびと』という存在なのだろう。
だけどその、『かむびと』というのは何なのか。
僕にはいまだにわからないまま。
「ん? なんだ君たち、誰も彼に伝えていないのか? 不安そうな顔をさせてしまっているじゃないか」
フォルがどこか咎めるように、他の三人を順番に眺めやった。
ネアは軽く目を伏せ、シズは知らん顔。ホセはひょいと肩を竦めていて、誰一人として悪びれている様子がない。
「記憶がないようだったからな。急にいろいろと伝えて、混乱させても良くないだろうという判断だ。見たところ日常生活に支障はなさそうだったし。急ぐようなことでもないだろ」
僕の状態を見極めた上での判断だとでも言いたげなホセに、フォルは深く溜め息を吐いた。
「だからと言って、何も知らないままというのも問題だろう。いざという時、身を守るすべを得られない」
「いざという時など来ない」
「彼を、守り切れるとでも?」
「守り切るさ」
「…………そう」
咎めるようなフォルの言葉に、ホセがひょうひょうと言い返していく。
最後に言いきったホセに、フォルが静かに目を伏せた。
守る、だとかなんだとか。いったい何の話なのか。
僕の話だと思うのに、僕には何もわからない。だけど何を言えばいいのかもわからないから、おとなしく何も言わないでおく。
しばらくの間、フォルは何かを考えているかのようにそのまま口を噤んで、だが次いで顔を上げてホセをまっすぐに睨み据えた。
「なら、これまでのことは言わないでおこう。君は君なりに彼に尽くしているようにも見えるしね。だけど僕はそうは思えない」
強い眼差し。それを受け、ホセが口の端を引き上げる。まるで何処か挑むように。
「だから……――神人殿」
なのに呼びかけられたのはどうやら僕で、僕は思わず反射的に、びくっと背筋を伸ばしていた。
「は、はいっ!」
「ああ、そんなに緊張しないでもいい。君は本来誰かに阿るような存在ではないのだから」
そう、宥めるようなフォルの眼差しがやんわりと撓む。慈しむように。否、まるで眩しい至上のものを、尊ばんと仰ぎ見るように。いっそ崇敬するかの如く。
「神人殿」
フォルからの視線を、僕は受け止めきれなかった。その上、フォルが口にした言葉は。
「神人とは、つまり『世界』だ」
僕にはまったく理解できそうもないものなのだった。
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