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27・夢
しおりを挟む「デュニナ」
呼ばれて振り返る。
その姿を見て、僕は微笑んだ。嬉しくて嬉しくて。
「……――様!」
自分が呼んだ名はわからない。目の前にいるはずのその人の姿も。
だけど。
抱きしめられた。
途端、包み込まれる番の匂い。
僕を満たす、甘い香り。
「花畑に言っていたのか? 髪に花びらが付いている。あそこは下界に近いからいけないと言ったのに」
「だって今日はとってもキレイに咲く日なんですもの。見ないなんてもったいないでしょう?」
咎めるような、だけどどこか柔らかい相手の声に、僕はまるで幼子のような言い訳をしていた。
「デュニナらしい。だけど気を付けないと。今、デュニナのお腹の中には私の子供がいるのだから。そんな時はデュニナの力が不安定になって、狙われる可能性があるって教えたじゃないか」
「あっ……でも、」
「でもじゃないよ、心配なんだ。特に下界に近いあの花畑は結界も薄いのだから。ね? あんまり心配させないで。デュニナ」
咎める声は優しくも厳しく。何より、僕を慈しんでくれているのが、これでもかと伝わってくるかのよう。
僕はしゅんと項垂れてしまう。
「ごめんなさい、僕……」
「うぅん、わかってくれればいいんだ。さぁ、早く神殿へ戻ろう。子供もきっとお腹を空かせている。花だけでは足りないだろう?」
「うん……」
僕を見つめる眼差しが、あんまりにも優しくってドキドキした。
僕はぼやっとその人に見惚れて。促されるままに歩いていく。
ああ、そうだった。
子供に……――を上げないと。きっとお腹を空かせている。
そう思えば思うほど、なんだかお腹の奥がずくずくと疼くようで。
「デュニナ」
呼びかけられる。
「ぁっ……――さまぁ……」
甘えた声で名を呼んだ僕の唇は、しっとりとだけどひどく熱い相手の唇に包み込むかのようにふさがれた。
「ぁんっ、ん、ん、んんっ……」
官能を呼び覚ますかのようなくちづけ。
まだ神殿まで辿り着いていないのに。
こんな場所ではしたない。
でも、ここには僕たち二人きりだからいいのだろうか。
わからない、わからないけど気持ちいい。
ああ。
愛で満たされる。
好きだと思い知る。
僕の番。
愛しいあなた。
僕をずっと離さないでいて欲しい。
僕と、ずっと、ずっと、ずっと。
ずっと。
「……――様」
呟いて、目が覚めた。
夢を見ていたと気付く。
だけど夢の内容が思い出せない。
今、自分が口にした名も。
だけど。
胸が苦しい。涙があふれる。
わけがわからない、でも、何故だか寂しくて寂しくて。
今、僕が感じている悲しみ。
それだけは間違いなく本当だった。
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