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28・大領主邸での日々と、そして①
しおりを挟む何もしなくてもいい。
そう言われても。
何もしないままでいたら飽きる。
退屈は時に人を殺すのだということを、そもそも僕は、ホセの家で過ごした数日のうちにとっくに理解してしまっていた。
神人、だというが、だとしたら僕のこの性質は何なのだろう、思わないでもないのだけれど、それがわかる人は今、僕の周りにいないことも確かで。
ただ、何をしてもいい、との言葉の通りに、手慰みにと針と糸、そして布を用意するよう手配してくれたのはホセだった。
「刺繍、に興味があると……言っていただろう?」
言っただろうか。
口に出した記憶はなかった。
だが、思っていたのは確かだ。
「ありがとう、ございます……」
有難く受け取った。
図案を考えて針を刺す。
思いついた図案は花だった。
大領主邸である、フォルの所で過ごすようになって数日。
僕は暇にあかせて手慰みに、刺繍なんて刺しながら過ごしていた。
フォルが言っていた通り、ホセもシズもネアも、どうしてだかずっと僕の側にいてくれた。
とは言え、多分ネアは護衛かな、と思うのだけれど、ならホセとシズは何なのだろう。
時折、席を外すことはあるけれども、それはいつもそれほど長い時間ではなくて、ホセは何くれとなく僕の世話を焼いては、シズはまるでその補佐でもしているかのよう。
まるで僕専属の使用人みたいだ、そんな風に思ってしまう。
過剰なほど僕を気遣う二人を見て、フォルは声を立てて笑っていた。
「あははっ! おっかしぃ! 君たちがそんな風になるなんてねぇ……君は凄いね、神人殿」
「はぁ」
そんなことを言われても。そんな風とはいったいどういう意味なのか。
出会った時からずっと、ホセの態度もシズのそれも、あまり変わったようには思えない。
ホセはずっと僕に寄り添ってくれていて、シズはホセが、否、僕が望む者をなんでも用意して持って来てくれていた。
それを思うと、やはりあまり変わらない、ただ場所があの集落のホセの家から、この大領主邸、フォルの元へと変わっただけ。
この二人の普段の様子はまるで違うものなのだとでも言いたいのだろうか。
それこそ僕の知らない話だ。
そんな風に笑うフォルも、一日の大半を僕の側で過ごしている。
ただ、仕事? か何かをしているのだろう、紙の束を持っている時もあれば、席を外している時間も一番長くはあったけれど。
日々がゆっくりと過ぎていく。
ああ、番を。
探さなければいけないのに。
僕は動けないまま。ただ穏やかな日々を享受していた。
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