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1・幼少期〜学園入学まで
1-1・俺について
しおりを挟むまずは俺の話をしようと思う。
俺はこの国、ナウラティス帝国一の公爵家であるジルサ家の嫡男だ。
ティアレルリィ・カデラリア・ジルサ
それが俺の名前。
ちなみに、セカンドネームにあるカデラリアは母の実家の家名で、この周辺国では、個人名・今所属している方ではない親の実家の家名・今所属している家の家名、の並びが正式名称となり、両親がどの家の出身かも、名前からわかるようになっている。
つまり、異母兄弟とかだと、セカンドネームが違ったりするのだ。
俺には生まれてしばらく経った頃からの婚約者がいる。
アルフェス・ハスツエ・スチー二ナ
俺より一つ年下の、スチーニナ侯爵家の一人息子で、家同士の何らかのしがらみゆえの婚約らしいのだが、詳しくは知らない。
貴族位にある者の間では、ままあることだった。
同時に、そのまま、婚姻に至る者たちの割合は実の所それほど高くはない。
何分、産まれる前や、生まれて直ぐに婚約を結んだところで、成人までに各家の事情が変わることもあれば、本人たちの相性などもある。
流石にすこぶる仲の悪い者達をそのまま結婚させることなどごく稀だ。
幸いにして、俺とアルフェスの相性は決して悪いものではなかった。
少なくとも幼少期、10を超える頃、思春期を迎えて、互いの性的嗜好が明確になる前までは……。
否、その頃になってさえアルフェスの方に不満はなかったかもしれないが、俺にはあった。
否、否、アルフェスの方にだって、不満はあったはずだ。ないはずはない。その、はずだ。
ところで、俺には前世の記憶なるものがある。
地球という星の日本という国で生まれ育った記憶だ。
とはいえ、その時の記憶などひどく朧気で、今となってはほとんど曖昧なのだが。
何せ生まれた時から覚えていたのだ。産まれる前のことを。
いくら記憶があると言っても、意識まで全てが鮮明だった訳ではなく。覚えてはいても、知能や思考回路までは年相応のものしか持たなかった。
そうするとどうなるのか。
忘れてしまうのだ。
生まれたあとの他の記憶と同じように、全てが曖昧に溶けていく。
想像してみてほしい。生まれてすぐの頃のことを。さて、どれだけの人が覚えていられることだろうか。
自分が赤ん坊の時のことだ。
そんなもの、鮮明になど、覚えているはずがない。
もし、覚えていることがあるとしても、ひどくぼんやりとして、曖昧なものではないだろうか。
ましてや、産まれる前のことなど。詳細に覚えているとしたら、その方がおかしいと言わざるを得ない。
ただ、幸いにしてか俺は、記憶力はいい方らしく、ある程度、未だ忘れていないことがあった。
特に、生活習慣や、食事や嗜好、普段何気なく使っていたと思われる、この世界にはない道具の使い方についてなど。
意識せずに行っていた動作などは、今も知らず、なぞってしまっているようだった。
他にも、人間性とでも言えばいいのか。道徳観念や貞操について、倫理観、思考パターンなどもそうだ。
産まれる前の影響が、今もどうやら強いらしい。
何せ、時折、貴族らしからぬ態度をとってしまっているようで、周りから指摘されることが度々あったので。
前世では貴族などとは縁のない生活をしていたのだろうと思う。
その中で、他よりも鮮明に覚えていることがある。
と、言うよりは、覚えていようと心がけたこと、だろうか。
それはズバリ、この世界が、前世でプレイしたことのある、乙女ゲーに酷似した世界であるということ。
俺自身がその中に出てきた、ヒロインである妹を虐げる、悪役令息とも言える兄であるということ。
その2点のみ。
ゲーム自体の詳細は、流石にあまり覚えていない。
ちなみに俺が、その時すでに、薄らぼんやりと曖昧になっていた記憶から、ゲームと今のこの世界を繋げられたのは、俺が確か3歳かそれぐらいの時のことで、妹が生まれて1年ぐらい経っていた頃。
気づいた俺は、ひどく泣きじゃくってしまったらしい。
曰く、妹をいじめないで、と。
その辺のことは流石にあまり覚えていないが、気付いたからにはと努めてゲームのことを忘れないようにと意識するようになったのは確かで、だからこそ今も、ゲームについては他のことよりも多く覚えている。
とはいえそれと、思春期頃に自覚した、俺自身の性的嗜好については、あまり、関係ないと言えば関係ないのだけれど。
これ以上の俺のことについては、また次に。
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