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プロローグ
0-2・プロローグ、または物語中盤の話②
しおりを挟む突然の妹の言動に、場は騒然と……はしなかった。
何故なら、楽しそうな殿下の様子に気付いたのは俺だけではなかったからだ。
その上、殿下の楽しいこと好きは有名で、このような、あるいはまた違った形での騒動は、これまでも度々起こってきていた。
なので今回も、皆の感想としては「またか……」と、言った所。
「お兄様は酷いです。仮にも婚約者であるアルフェス様にあんな態度ばかりとって……」
妹は言葉を続ける。哀れっぽく、俺を非難する眼差しで。
俺も流石に眉を寄せた。
あんな態度、と言われて、心当たりはもちろんある。妹に詰られるようなことをしている自覚も。とはいえ、俺を責めるとして、それは妹ではなく、アルフェス本人の仕事では?と、思わなくもないが。
ちなみに件のアルフェスは、妹の隣で情けなくも所在なさげに視線を泳がせていて、戸惑う気配ばかりが伝わってくる。
だが、先程、妹を止めようとしていた様子もあるし、あの子が何をしようとしているのかぐらいは聞かされているのだろう。俺はさっぱり聞いていないが。
妹の言葉は、止める者もないまま続いていく。
「あれではアルフェス様があまりにお気の毒で……お兄様はどうせ政略結婚だし、蔑ろにしていいとでもお考えなのではありませんの?ならばいっそ、わたくしの方がいいではありませんか!わたくしでしたらお兄様のように、アルフェス様を蔑ろになんていたしませんわ。同じ家門同士ですもの、わたくしなら充分にお兄様の代わりになりましてよ。勿論、お父様には許可を取ってあります。さぁ、お兄様!罪をお認めになって、婚約破棄をお受入れ下さいませ!」
堂々として、力強い言葉だった。高位の貴族令嬢に相応しい自信に満ち溢れた態度でもある。ともあれ、言っている内容はちっとも相応しくない。
ここは学園の卒業記念パーティーという公の場だ。そんな話は家の中ででも出来たことだし、こんな場所であんな風に大々的に言うことではなかった。
もっとも、どうもおそらくは殿下の仕込みっぽいし、それを会場中がある程度認識している。ならばこそ、大した問題にはならないことだろう。そうでなければ、不敬罪とか何とかで罪に問われてもおかしくないような言動なのだが、妹には多分、そんな自覚はない。しかし、それにしても。
罪、罪、ねぇ……。
内心溜め息を吐きたい気持ちで、妹を見つめ返した。
確かに、俺には心当たりがある。そりゃあ、俺の対応はここ数年、妹の目に余るような部分もそれなりにあったことだろう。
だが、俺にだって言い分はあるし、俺が一方的に悪かったわけでは決してない。ある意味では仕方がなかったといってもいいだろうか。
そもそも、この婚約がこれまで続いていたのだって、俺の希望というわけではなかったことであるし。
婚約破棄。あるいは婚約解消。それ自体は構わないのだ。
殿下が笑っている。妹が今、父親にも許可が取れていると言っていた。多分、陛下にも話が通っている。
なら、今、俺がすることは。
ちらと、殿下の方へ視線を投げると、殿下は大変楽しそうな様子で頷いた。……俺は殿下の玩具ではないのだが。
アルフェスの視線もまた、ついには俺に止まった。それはどこか縋るよう。妹の言葉を、拒否してくれと、眼差しで告げてくる。だが、それは今更。今更なのだ。
俺は今度こそ隠さず溜め息を吐いて、一度ゆっくり目を伏せた。
次いで瞼を押し上げ、妹をまっすぐに見つめ返す。妹の視線はいまだきつく、俺を責めている。
ああ、だから俺は、そんな目でお前に見られる理由なんてないのだと……くそっ。
可愛い妹の無言の非難は、俺の心にぐさぐさと刺さった。
だから、というわけではない。そうでは決してないのだけれど。もとより妹の提案に、俺は否やはないわけで。
「わかった。その婚約破棄、受け入れよう」
俺は頷くだけでいいのである。
俺の返事に、妹は満足げな顔をした。半面、アルフェスの絶望したような表情は対照的だなとも思いつつ、もう一度見た殿下も笑顔。
むしろ妹は自分が代わりに、とか何とか言っていたが、いいのだろうかと心配になる。なにせあの男は。まぁいい。俺はもう知らん。
ああ、もう、なんだ、この茶番。
その後パーティーは何事もなかったかのように続けられ、俺は妙な徒労感とともに学園を卒業した。
数日後に決まっている王宮への出仕が、今からひどく億劫だった。
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