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1・幼少期〜学園入学まで
1-5・アルフェスについてと、①
しおりを挟むアルフェスは幼い頃から、どこか気弱な男の子だった。
おっとりとしていて、どんなことでも、強く主張しない。そのくせ、どんなことでも最終的には力づくという、とんだ矛盾も持っていた。
そもそも、スチーニナ侯爵家は代々騎士を輩出している、高位貴族にしては珍しく、魔力がそれほど高くない半面、武に偏った家系で、アルフェスも例に漏れず、物心つく前から剣を習い、本人も、鍛錬を怠らずに育った。
幸いにして素質もあったのだろう、特に剣術に至っては、同年代の中では頭一つ飛びぬけた腕前で、一応習っているはずの、たった一つしか歳の違わない俺なんて勿論、比べるべくもなく。
だから、いくらアルフェスの元の気性が穏やかであったとしても、こと、武においてはそれを覆すような一面も持っていたのだ。
例えばある時など。
「ねぇ、アルフェス、どっちがいい?」
そんな風に、二人で分けるようにと土産で渡された二つあるペンを、どちらがいいか訪ねた俺に、戸惑って、狼狽えて。
「え、え、わからないよ、どっちだろ……ティアリィ、先に好きな方を取って。ぼく、残った方でいいから」
なんて、判断をこちらに委ねてきたから、いつもそうじゃないか、たまには先に好きな方を選びなよと、重ねて選択を迫ったら、しまいには、
「じゃ、じゃあ、ぼくが握っても壊れない丈夫な方……」
なんて言いつつ、わざと壊そうとしてみたり。当然、なぜそうなるのかと叱り飛ばして、結局俺が先に選んで、残った方を押し付けた。
一事が万事そんな調子で、とかく自己主張の少ない、全部を俺に任せてくるような子供だった。
それでも、小さい頃はまだよかったのだ。
少なくとも、見た目と行動は矛盾しておらず、幼さも相俟って、いくら燃えるような赤髪が短く整えられていても、紺色の瞳を抱くまなじりが吊り気味になっていても、眉根を下げて情けない顔をしていたら、それだけで柔いアルフェスの繊細さが透けて見えるようだったのだから。
様子がおかしくなり始めたのは、いつからだったろうか。
多分、彼は、見た目がどれほど成長しようとも、きっと本当は何も変わっていなかったのだろうけれど。
だけど確かに変わっていく。俺も、アルフェスも。それは、年を経るごとに自覚してくるものだったり。その瞳に宿るようになった、熱だったり。
そんなものを、はっきりと自覚したのはいったいいつ。確かあれは……そう、学園に入学する前の年。俺が十二歳、アルフェスが十一歳の時のことだった。
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