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1・幼少期〜学園入学まで
1-6・アルフェスについてと、②
しおりを挟むその時にすでにアルフェスは、すくすくと育って、俺の身長を超えていた。
もともと俺は同年代の中では小柄な方で、標準か、それより少し大きいぐらいのアルフェスとだと、小さい時から、年が違うようには見えない有様だったのだが、十を超える頃には、頭半分ぐらいは優にアルフェスの方が大きくなっていた。身長だけでなく、体格もそうで、骨自体がどうも華奢に出来ているらしい俺と、がっしりした骨太のアルフェスとだと、その差は一目見てわかるほど。
だけど、俺を見るまなざしは変わらない。すっかり全部を縋って、委ねてくる、そんな眼差しだ。
ほんの小さい頃、それこそ、俺が殿下と初めて会う前やそれぐらいの頃に、そこにあるのは純粋な憧憬だけだった。だが、年を経るごとにだんだんと帯びてくるようになった熱。仄暗く、重量をもって俺に絡みつく。恋情。
俺は前世の記憶を持っているのもあって、おそらく、年よりは少し早熟で、だから気付かないはずがなかった。俺はアルフェスに好かれているってね。
別によかった。
だって、俺とアルフェスは婚約者だ。俺の方に、そんな気持ちはないが、アルフェスそのもののことは好ましく思っていたし、俺は前世からずっと、自分よりもたくましい同性の者に包み込まれるのが好きな性質だと自覚していたし、その点、アルフェスは俺より年こそ一つ下だけれど、それ以外によくない部分なんて何もなかった。そのはずだった。
その日、ルーファはいなかった。
確か、女の子がより嗜まなければいけない何某かの授業を一人受けていて、俺とアルフェスは二人きりで、俺の家の庭にいた。
うちの庭にはガゼボがあって、そこに備え付けられたテーブルについて、二人、向かい合って座っていた。目の前には茶器。先程、使用人が淹れておいていった薫り高い紅茶が湯気を立てている。
俺とアルフェスは取り留めもなく、他愛もない話をしていて、どんな話の流れだったか、前日に王宮へと、俺一人で上がった時に見てきた、猫の話になったのだ。
皇太子が飼っているあのデブ猫が最近子供を産んで、昨日初めて子猫を見せてもらったと、そんな話。
「親に似ず可愛かったよ」
俺はあのデブ猫のことは、初めて会った時に飛び掛かられて以来、あまり好きではないので、そんな言い方になってしまったのだが、アルフェスは可笑しそうにただ笑って返してくれた。
「親に似ずって、そんな風に言っちゃダメだよ。ティアリィは本当にタラクのこと、好きじゃないんだね」
タラクというのは、あのデブ猫の名前だ。黄色い目の色からの連想で名前を付けたのだとかで、目とそっくりな色をした、花の名前から取っていると聞いた。
窘めるようにアルフェスの言葉に、俺は口を尖らせる。
「だってあいつ、俺を見る度に飛び掛かってくるんだもの。全然、好きになれないよ」
皇太子が可愛がっているデブ猫と、俺は相性が悪いのだ。でも。
「子猫はかわいかった」
本当に。まぁ、子猫なんて全部かわいらしいものだけど。
「いいなぁ、ぼくも見たい」
うっとりとアルフェスが呟くので、俺は笑った。
「今度行った時に、アルフェスも見せてもらうといいよ」
皇太子はそんなことで意地悪をするような人間じゃないから、多分、見せてくれるだろう。アルフェスも頷いて……――そこまではよかった。何も問題はない。いつも通り。
違ったのはその後。
否、俺が気付いたのが、多分、その時だったという、ただ、それだけの話。
アルフェスが何を連想したのか、こう、言葉を続けたのだ。
「子猫もそうだけど、赤ちゃんって、かわいいよね。ぼくもいつか、ティアリィに似た、かわいい赤ちゃんが産みたいな」
俺は固まった。
ん? お前が産むの? って。
※タラク……タラクサクムより。タラクサクムはタンポポのことです。
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