10 / 75
1・幼少期〜学園入学まで
1-7・想定外
しおりを挟む『ティアリィに似た、かわいい赤ちゃんが産みたいな』
あの発言を聞いた瞬間、俺は固まって、次いでゾワっと背筋に怖気が走った。
さらに続いて、しみじみ思う。産みたい。産みたいのか……そうか……そっちなのか……。
この世界では、同性同士でも子供が成せる。それは前世とは、人間の成り立ち自体が違うから。だが、同時に、それゆえに。産むのはどうしたって受け手側だ。
アルフェスは当たり前のように、自分をそちら側だと考えていたようだった。
いや、アルフェスはまだ十一、意味がよくわかっていない可能性……――は、流石にないだろう。だってもう十一なのだから。
確かに、改めて考えると、思い当たる節はなくもない。
何かの折にごく近い距離で閉じられた目蓋は、あれはもしやキス待ちだったのだろう。今思い出すと、そんな気がする。ちなみにその時は気付かず、頭を撫でて終わった。通りで、ちょっと不満そうだったはずだ。
他にも、たまにもじもじと俺からの行動を待っていた。あくまでも、自分からは動かずに、でも何某かの期待を込めて俺を伺い見ていたのなんて、一度や二度のことじゃない。
あの紺色の瞳に宿る恋情に、俺は気付いていた。でも、流石にその先には想像が進まなかったのだ。……――俺が、単に鈍いだけなのでは、とは、思いたくない。
アルフェスは俺を好いてくれている。それはいい。それはいいんだけれども、しかし。
俺は受け身がいいのだ。産みたい、だとか、具体的にイメージしているわけではないが、自分の役割はそちら側しか想定していない。それこそ、生まれる前からの筋金入りだ。なぜかは分からないけど、なんとなく、どうにも逆は、想像するだけで忌避感があって。と、いうか、アルフェスをどうこう……と、考えてみると、無理だとしか思えない。
だけど、多分、アルフェスも同じなのだろう。
俺が、スチーニナ侯爵家へと嫁に行く予定なのに、アルフェスは婿にもらうつもりでいる。これは同じようで全然違った。少なくとも、俺たち二人の将来の話としては、大問題だ。
それは由々しき事態だった。だって、もし俺とアルフェスが結婚したとしても、上手くいく気がちっともしなくなってしまったのだから!
あの時。結局、俺は、小さく頷いて話を流した。固まったままの笑顔で。アルフェスに、違和感を抱いた様子がなかったことだけが救いだ。
どうしよう。
今まで問題なかったけれど、これはまずいと思う。性の不一致が今からわかっている結婚なんて、俺もアルフェスも幸せになれない。いくら政略結婚だからと言って、あんまりだ。
少なくとも俺は、そんなことを吞み込めるような性質ではなかったし、俺の両親だって、上手くいかないのが分かっていて、婚姻を強要するような人たちではない。現にそれとなく、婚約解消が可能かを確かめてみたら、本人達の意思を尊重するというような、ごく真っ当な答えが返ってきた。
だけど、アルフェスにも、ほのめかしてみたことが、あるのだけれど。……――返ってきたのは、拒絶だった。否、俺と将来的に一緒になりたいという、強い意志だろうか。
だって俺は好かれているのだ。
ああ。
溜め息しか出ない。
「今からそんなに悩んでも……実際に結婚するのはもっとずっと先だろう? なるようにしかならないよ」
他に相談する相手もなく、さりとて、自分一人では抱えきれず、更に隠す意味も見いだせなかった俺は、ほどなくして殿下に、洗い浚い全てをぶちまけていた。
殿下は俺の話を聞いて笑って、そう言って窘めてきて。俺もひとまずは、このまましばらくは、何もせずに様子を見ることに決めたのだけれど。それが問題を先送りにすることにしかならないことは分かってはいつつも。
さて、しかしその、殿下の笑いが。いったいどんな笑いだったのか。俺が知るのは、もっとずっと後のことである。
64
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる