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2・学園でのこと
2-1・転移者と乙女ゲー①
しおりを挟む「ねぇ。貴方の婚約者はスチーニナ侯爵家嫡男のアルフェス様なのよね?なのにどうして、アルフェス様よりもこんなに皇太子殿下と仲がいいの?」
それを、この、殿下本人がいる場で口に出すところが彼女らしいな、と俺は思った。
彼女は 金多 有津子 。俺のような転生者ではなく、『迷い人』と呼ばれる転移者だ。
実はこの世界で転生者はそれほど珍しいものではなく、大体千人に一人ぐらいの割合で存在している。この国の王都の人口が大体100万人ぐらいなので、王都だけで千人は居る計算になる。実際には、転生者は王都に集まってくる傾向があるので、もっと人数がいることだろう。それも、判明しているだけでその人数だ。周りに知らせず、潜んでいる者もいるだろうし、忘れてしまった者なども含めると、おそらくはそれよりも多い。
半面、迷い人は流石に珍しかった。とはいえ、数年に一度は出現し、見つかり次第、王宮で保護している。
何故なら、彼らはこの世界のことを何も知らず、総じて、この世界では誰もが持っている魔力も、ごく一般的な平民並みか、それ以下ぐらいしか所持しておらず、そのままではただ、生きていくことだけですらままならないからだった。
誰かが召喚している、という事実もなく、本当にただ迷い込んでくるので、気の毒なことに、元の世界へと戻るすべも今の所、確立できていない。
アツコも、そんな迷い人の一人で、彼女がこの世界で保護されたのは、俺や殿下が学園に入学する3ヶ月ほど前。王宮の裏にある森でのことだった。魔獣に襲われている所を、見回りの兵士に発見、救出されたのだ。
俺がアツコと今のように話す程度に親しいのは、彼女が保護された時に、俺が王宮へと呼ばれたから。俺は髪色が示すまま、この国で五指に入る程度には魔力値が高く、特に、転移や転送については、他の追随を許さない程度には得意だったので。
殿下も俺と同じかそれ以上に魔力が多いのだが、得意とする分野は異なっている。
保護されたアツコは、ごくごく初歩的な教育だけを王宮で受けて、俺や殿下と一緒に学園へと通うことになった。23歳だという本人は、十も下の子供に交じって机を並べることに難色を示していたが仕方がない。この世界での一般常識や、この世界自体のことを学ぶにはそれが一番手っ取り早いのだ。
俺と殿下が後ろ盾よろしく、一緒にいられるというのも大きい。
特にアツコははじめから俺たちに好意的だったので、余計に助かった部分もあった。
俺はアツコと初めて会った時のことを思い出す。
呼ばれて、王宮内の客間の一室、アツコに宛がわれた部屋を訪れた俺を見た瞬間、アツコは言った。
「え?! ティアリィ・ジルサ?! ここってゲームの世界なの?!」
それを聞いて俺は思ったものだ。
そういえばこの世界、前世でプレイした乙女ゲーに酷似した世界だった。それでもってこの女性は、件のゲームを知っているんだな、と。
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