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2・学園でのこと
2-5・入学式
しおりを挟む「ゲームのオープニングムービーでは、家を出て、学園に向かう様子が流れるの。そこに簡単なヒロインの生い立ちや各攻略キャラのスチルなんかも入り込んで、曲と一緒にゲームが始まる。兄と同じ馬車で登校したヒロインは、だけど、場所を降りた途端兄に嫌味を言われて、馬車回しに一人、置いて行かれてしまう。溜め息を吐いて、とぼとぼと講堂に向かうヒロインは、その道中で、」
攻略キャラたちに順番に会っていく、と、アツコは言っていただろうか。本当に。いったい、何処の兄妹の話なのだか。
実際には俺がルーファに嫌味なんて言わない時点で全てが変わった。
学園は広い。王族から優秀な平民までが通う、王都一の帝立学園だ。中等部と高等部が併設されていて、門を入ると本校舎の玄関前には、馬車回しも設置されている。馬車で登校する者は、そこまで乗り入れることができるようになっていた。
着いた馬車から俺が先に降り、妹をエスコートして降ろす。
「お兄様」
花開くような笑顔を振りまく妹を、どうして一人、こんな所に放っていくことなんてできるだろう。
「行こうか」
俺は勿論、笑って促して、妹を腕に纏わりつかせたまま、一緒に講堂へと向かった。
残念ながら講堂に着いてしまうと、俺は生徒会の仕事があるから、妹を席までエスコート、とまではいかないのだが。おそらく、講堂に近づけばアルフェスが捕まるだろうから、彼に任せてしまおうと考える。
これまでの行動パターンからいっても、あいつは多分、その辺りで俺を待っているだろうから。
途中、生徒会室の近くで殿下とアツコと合流して、他の誰にも会わずに講堂に着いた。
案の定待ち伏せしていたアルフェスが駆け寄ってくるので、俺は笑ってルーファを差し出す。
「おはようアルフェス。すまないが、ルーファを席までエスコートしてくれるかな? 残念ながら俺は生徒会の仕事があるから、そこまで出来ないんだ。席は分かるだろう?」
流石に1年もこの学園に通っているんだ。いかなアルフェスと言えど、席次ぐらい覚えているはず。促されたアルフェスは、戸惑ったように俺とルーファの顔を交互に見て、ややあってから、諦めたように頷いた。
「着いてきて、ルーファ。案内するよ」
「アルフェス。エスコート」
先に歩いていこうとするので、ぴしゃりと注意すると、慌てたように態度を改める。
「えと、こ、こっちだよ」
「アルフェスったら、相変わらずねぇ」
ぎこちないアルフェスの様子に、慣れているルーファは華やかに笑った。
そんなルーファにもアルフェスは戸惑うばかりで、二人の後姿を見送りながら、俺は隠すことなく溜め息を吐く。
相変わらず。本当に相変わらずだ。
学校でも家庭教師からでも何度も習っているはずなのに、アルフェスはいまだにエスコート一つまともに出来ない。それは貴族の子息としてはあるまじき姿だ。あるいはエスコートされる側でありたいという願望ゆえの、意識の低さのせいだろうか。
「なにあれ」
アツコが目を丸くして驚くのに肩を竦めた。なんだかんだでこれまで機会に恵まれず、ほんのついさっき、初めてルーファを紹介した時も、やはり、同じように驚いていた。
言いたいことは分かっている。事前に聞いてはいても実際に見ると、改めて二人のゲームとの違いに驚いたのだろう。
「現実はあんな感じ」
あれでもまだ今日は二人とも、緊張してるのかおとなしい方かなぁ、と、遠い目をする俺に、殿下が笑って付け足した。
「実際はもっと強烈だよ。直に分かると思うけど」
アルフェスはもう去年で分かってると思うけど、あの子はあの子で、何せ台風の目、みたいなものだから。誰かさんが甘やかす所為で。
降ってくる嫌味に、俺は耳にふたをして目を逸らす。
「あーあー、何も聞こえませんー! さぁ、仕事しないとなぁ!」
あからさまに話題の転換を試みた俺に、殿下は笑って、アツコは腑に落ちない顔で首を傾げた。
「もっと強烈って、どれだけ……」
小さな呟きこそ、聞こえないふりをする。俺はこれからの学園生活を思って、ややうんざりと溜め息を吐いたのだった。
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