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2・学園でのこと
2-8・変化の兆しと要因
しおりを挟むアツコ曰くゲームでは、中等部に入学する13歳から、ティアリィが卒業する16歳まで、苦行のような好感度上げをひたすらやり続けるらしい。むしろそれがメインで、あとは時折はさまるイベントなどで、スチルを集めていくだけなのだとか。
その話通り、大きな問題などなく、時は過ぎていく。否、過ぎていくと、俺は思っていた。
様子が変わり始めたのは1年を過ぎ、2年目も半ばほど、過ぎた辺りだっただろうか。
ルーファは何も変わらず、俺は彼女のフォローに走り回り、その一方で、アルフェスを避けることも続行していた。むしろきつく、ぞんざいに扱うことさえ増えたかもしれない。
アルフェスは何も変わらず、婚約解消の話も、勿論、一向に進まず、時に寄越される露骨なアピールは辟易するほど。ついにはストーカーの様相を呈してきていたのだから、つい、俺の当たりが厳しくなってしまったとして、仕方がないことだったと思うのだ。
もとより入学してすぐの頃から、アルフェスは可能な限り、俺に纏わりつこうとしていたのだ。それが、その頃には少し、周囲への配慮さえ欠け始めていて。
「アルフェス」
足を止め、溜め息一つ、うんざりした気分で名前を呼ぶ。そうしたら彼は、そこら辺にいるんだろうな、と当たりを付けたとおりの場所、俺の後ろにある植え込みの影から、おずおずと気まずそうに姿を現した。
ちなみに、俺が場所を特定できたのは、彼の気配の立ち方が騎士候補にあるまじき未熟さだったからというわけではない。ただ単に、この場所ならそこだろうなというこれまでの傾向からの予測だ。そしてアルフェスは、その予想から外れた行動など、ほとんど取らないのだ。思考が単純で分かりやすい。
予想通りの姿に、俺はきつく眉根を寄せて、顔をしかめる。彼はいつも通り、騎士服にも似た制服姿だ。もう昼休みは終わろうとしている時間。
「俺はつい今まで、何をしていた?」
きつい口調で問いただす俺に、アルフェスは躊躇いながら口を開く。
「……生徒会の、仕事」
「そうだな。で、ここは?」
「生徒会室から、校舎につながる、渡り廊下……」
「ああ。そしてお前はどこにいた?」
「生徒会室近くの、植え込みの中……」
「そこでお前は何をしていた?」
生徒会室は、独立した小屋のようになっていて、校舎とは短い渡り廊下でつながっていた。その渡り廊下の中ほどでのこと。
俺の口調が、あまりにも怒気に塗れていたせいだろうか、途絶えがちにでも、開かれていたアルフェスの口がきゅっと小さく引き結ばれる。言いにくい、言いたくないと言わんばかりに。
何をしていた、だなんて、そんなもの。こんな所に、何の役職も持っていない、ましてや生徒会になど関わりのないアルフェスが、用があるはずもないのだから、つまり。
「……ティアリィを、待っていて、」
「あんな所に隠れて?」
ややあって小さな声で紡がれた言葉を、切って捨てるようにぴしゃりと遮る。
俺は改めて深く、ため息を吐いた。
「……アルフェス。お前、次の授業、剣術だろうが。着替えもせずにこんな時間までこんな所で、何をしているんだ。こっから練習場まで、今から走ったって間に合わないぞ。そもそも、用もないのに此処へは来るなって前から言ってるだろう」
「でもっ! ……ちょっとでも、ティアリィに会いたくて」
ただ、一目だけでも、顔が見たくて。
告げられた言葉は、健気、と言えなくもない。が。
「そうだとしても! こんな時間まで居続けるんじゃない、せめて間に合う時間までで切り上げて授業の準備に向かえ。お前最近、こうして度々さぼってるだろ。俺の所に、お前のことまで相談が来るようになって来たんだが? ……なんで俺がお前の時間割まで把握してないといけないんだ」
知りたくもないのに。吐き捨てて声を荒げる。
剣術の授業だと着替える必要があった。今からではどんなに急いだって、練習場に着く頃には、時間も半分しか残っていない有様になっているのではないだろうか。内容によっては、その後に防具を付けたりなどの手間もあるかもしれず、そうするともはやまともに受講できるとは思えない。
アルフェスは全く何も納得していない不機嫌な顔をして、だけど情けなく、眉尻を下げて、やがて小さく謝罪を口にした。
「……ごめんなさい」
叱られた犬の様子の自分より大きな、一つ年下のアルフェスを前に、俺は三度、溜め息を吐く。
「それは何に対しての謝罪だ? ……別に謝ってほしいわけじゃない。だから、謝罪はいい。だが、今後こんなことは二度とするな。おい、わかってるのか、アルフェス。……アルフェス!」
俺の苦言に、唇をかみしめて、見るからに不満そうな顔をしていたアルフェスは、最後まで頷かないまま、ついには駆け出して、その場から離れてしまった。俺の呼びかけにも、勿論、振り向きもしない。
まだまだこれからも、きっと同じことを繰り返すのだろうと、態度でもって示したアルフェスは、つまりこうして、周囲に迷惑まで、かけるようになっていたのだ。
幸いにしてか、それは授業を受けないだとか、遅刻するだとか、そんな程度のものではあったけど。それでも、頻度が高い以上看過できない。
俺の態度にはどんどんと苛立ちも混じっていって、そんな俺とアルフェスの様子を、度々目にしていたから、というのもあるのかもしれない。
その頃から、ルーファの態度が、徐々に、変わり始めたのだ。
「お兄様! 先程のアルフェス様への態度はひどすぎます!」
そんな風な、俺への糾弾とともに。
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