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2・学園でのこと

2-7・妹と俺

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 寄せられた苦情を俺がどう対応するのか。勿論、当たり前・・・・に対応する。
 苦情の詳細・・・・・を聞き出して、ルーファにも確認し、双方に必要だと思われることを告げた。
 教師からの授業態度についての相談が来たら、まずは事実確認の上、ルーファの疑問に思っていることに答えつつ、教師の意図も伝え、教師にも同じように、ルーファの扱い方を、否、真意を過不足なく教える。
 例えば、それはただ、見たまま、言葉のままの意味しかなく、他に意図など込めてはいないし、ましてや先生になにがしかの含みがあったりだとか、考えているわけでもない。本当にそのまま受け止めてしまって問題ないので、これからもよろしく指導してやってほしいと、そんな風に。
 何か気になることがあると、今のように俺に伝えに来てくれて構わないとも付け加えれば、教師はやっと、ほっと、何処か安堵したような顔をした。
 他にも、髪飾りを譲ってしまったが、本当は返してほしいのだという女生徒には、数日時間が欲しい旨伝えて帰し、ルーファにはそのままを伝える。勿論、言い方・・・はルーファに適したものにした。

「ルーファ、その髪飾り、素敵だね」

 いいな、と思って、欲しくなったのは本当なのだろう、どこか得意げに身に着けている見慣れないそれが、問題の髪飾りだろうと当たりを付け、水を向けると、自らの行動に一切の悪気がなく、後ろめたいとも当たり前に思っていないルーファは、むしろ自慢するかのように、俺に話してくれた。

「いいでしょう? 話しかけて下さった方に、素敵だから欲しいと強請ったら、譲ってくださったの」

 話に聞いたままである。だろうなと納得しつつ、俺は次いで、少し困った顔をして見せた。

「よかったじゃないか、ルーファ。ああ、でも、それのことかはわからないけれど・・・・・・・・・・・・・・・、俺の所に一人、女生徒が、『ルーファに髪飾りを譲ったのだけれど、気に入っていたものだから、やはり返してもらいたい』と相談に来たのだけれど、他にも誰かから髪飾りを譲り受けたかい?」
「あら。だったらきっとこれのことだわ。譲って頂いた髪飾りはこれだけだもの」

 俺の言葉に、不思議そうに首を傾げて、ルーファはきょとんと眼を瞬かせる。俺は続けた。

「そうか。じゃあきっとそれのことだね。ところでルーファ、それは返してあげられるかい?」
「構わないわ。気に入っていたのなら、悪いことをしてしまったかしら。ああ、でも」
「替わりは勿論、買って上げるよ。それと似た、もっと素敵な髪飾りを、今度二人で探してみようか」
「! きっとよ! お兄様!」

 返すようにという俺の促しに、容易く頷いておきながらも、どこか躊躇した様子を見せたので、それが気に入っていたのは本当なのだろうと、代替案を上げてみたら、飛び跳ねんばかりに喜んだ。
 可愛いものである。まだまだ子供だ。邪気もなく、悪意もない。だからこそ、続けて、

「でも、何故、お兄様に相談しに行ったのかしら。わたくしにおっしゃって頂ければ、すぐにもお返しできたのに」

 そもそも、初めからお断りして下さったってよかったのに、なんてそんなことも口にするのだ。
 俺は笑ってルーファの疑問に、解答を与えてやった。

「素敵だと言われて、嬉しくて・・・・・譲ってしまったのだろう。だけど後でやっぱり惜しくなったんじゃないか? お気に入りだったそうだから。快く・・譲った手前、ルーファ本人には、言いづらかったのかもしれないね」
「ふぅん。そういうものなのね」

 ルーファは流石に納得までは出来なかったようだが、ごねるほど拘るものでもなかったのか、素直に頷き、翌日にはさっそく謝って返したらしかった。
 それでしまいだ。
 たいていが大体、そんな風にして解決できた。
 時には悪意が滲むような相談や、ルーファの話と食い違うような訴えも散見できたが、それはそれとして、そのように・・・・・対応するだけの話。
 何もルーファの言い分をそのまま受け入れるのでも、集められた苦情を鵜呑みにするわけでもない。
 ルーファに悪気は一切ないし、また、彼女はどこまでも素直だ。だからこそ、誤魔化したりというようなことがほとんどなかった。何せ悪いだなんて少しも思っていないのだから、誤魔化すなんて発想すら存在しないのだ。
 俺が、ルーファの話を、基本的には否定しないからこその、ルーファの態度なのだという部分もきっとある。
 俺はいつだって促すだけだ。それだけでルーファは、ちゃんと自分で気づける。すぐに気付くのが難しそうなら、例えを出したりして、気付けるように導く。
 今までと変わらない。おそらく、これからも。
 ルーファは何も変わらないだろう。幼くてまっすぐで成長しない。何度言って諭しても、相手を予め慮ることができないし、自分の言動の結果も想像しない。同じことばかり繰り返す。幼少期からずっとそうだ。俺がそれを許容し続けてきたから。だけど素直で、善悪の判断が歪んでいるわけでもない。単純にあまり先々まで想定できていないだけで。俺のかわいいかわいい妹で、俺にはそれで特に問題があるとも思えない。
 だが、おそらく、周りは変わる。ルーファの扱いも、すぐに学習するだろう。なら、直に俺は落ち着くのかと訊かれると、きっそ多分そんなことはない。結局、どれほど付き合い方を学んだとしても、俺以外ではルーファを諭しきれないのだろうから、当然とも言える。何せ両親だって俺に任せてきてるしな!これまでの家庭教師達もそうだ。
 ルーファのことで、時に駆けずり回ることも増えた俺を見て、殿下なんかはやはり、甘やかしすぎだと渋い顔を見せたけど、俺が好きでやっていることだ。別に構わないだろう?
 これからいつまで・・・・、と訊かれたって。俺が出来る限りずっと・・・・・・・・だと応えるだけ。
 ふてくされたように返す俺に、その場にいたアツコは目を逸らし、殿下は首を横に振って溜め息を吐いたのだった。
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