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2・学園でのこと
2-10・俺の判断と、その後の
しおりを挟むとかくルーファからの糾弾は頻度を増し、時には俺でさえ宥めきることが出来ないほどになっていた。反抗期だろうか。年齢的にはあっている。
だが、その反抗期は、俺にだけ発揮され、アルフェスには適用されていないようで、アルフェスはアルフェスでまた、ルーファを、よく頼っているようだった。
ルーファは、あれで、はじめこそ孤立気味だったが、数か月も経つ頃には、そんなこともなくなっていた。それは過たず、周囲が彼女に慣れる時間で、慣れてさえしまえば、それほど、付き合いづらい人間というわけでもないためだ。とは言え、ずっと一緒にいるような、飛び切り仲のいい友人がいる、という風にも見えはしなかったが。それでも、広く浅くそれなりに、学園で過ごしている。
半面、アルフェスは、年を経るごとにますます孤立を深めているように見えた。
アルフェスだって、そんなに嫌われるような性質というのでもないとは思うのだが、もとより彼と距離を取ろうとしている俺に理由を察するすべはない。
ただ、ルーファが、それもおおむね俺の所為だと、たまに言いがかりをつけてくるのには辟易した。
俺はアルフェスの面倒を、何処までも見なければならないのか? と、相手がルーファだというのに、声を荒げそうになったほど。
他にも、ルーファの話を鵜吞みにするならば、誰かから嫌がらせを受けているのだそうだ。あの、アルフェスに嫌がらせだ。俺には俄かには信じられなかったが、孤立しているのは本当のようで。だが、事実はどうあれ、俺にアルフェスのフォローをするつもりなんてなかった。
例えルーファにどれほど詰られても。いくらアルフェスから、縋る眼差しを寄越されても。事実の把握以上のことは、アルフェスから出来るだけ距離を取りたい俺が、するはずもないことで。俺の行動に物申すことの多い殿下にしては珍しく、それには賛同してくれて、アツコはやっぱりしょっぱい顔をした。
ゲームと違う……という呟きはむしろ嘆きだろうか。俺にはよくわからなかったけど。
「アルフェスはついに、池にまで突き落とされたんだそうだね」
放課後の生徒会室。書類仕事をしながら、そう言えば、と話題に乗せた殿下に、俺は軽く溜め息を吐く。
「聞いてたんですか、さっきの」
「聞こえてきたんだよ。だってあんな所で話しているのだもの」
生徒会室に入ろうとしたところをルーファに捕まって、今日も今日とて詰られた件だった。なんでも、今日の昼休みにアルフェスは、中庭の池へと、誰かに突き落とされたのだそうだ。びしょ濡れになったアルフェスを見つけたのは、ルーファだったのだとか。
なぜ、こんなことを放っておくのか。早く犯人を捕まえて謝罪させるべきだ。婚約者なのに、アルフェスを守るつもりはないのか、と、そんな風なことをまくしたてられたのだが、俺はただ、頭が痛くなる思いで、どう宥めようかと悩むばかりだった。
しかもルーファは、何か用事があったらしく、一方的に詰るだけ詰って、俺の返事など聞かずに去ってしまって。それを殿下に聞かれていたのだろう。
「婚約者なんだから、守ってあげないと」
「からかわないで下さい」
「あっはっは」
初めから笑み交じりに言われても、嫌味にしか聞こえない。あるいはただの冗談か。
アルフェスを……守る? 俺が? 物理的に?
意味が分からない話だった。殿下はともかく、そもそもルーファの目に、アルフェスはいったいどう映っているというのか。
アルフェスは雄々しい形をしている。俺よりずっと大柄でたくましい。俺より背の高い殿下より、更に一回り大きいくらいなのだ。
そのうえ、剣の腕は今すぐ騎士団に入団しても通用するだろう程で、学園全体で見ても、頭一つ分以上、飛び抜けている。加えて単純な膂力も言わずもがな。こちらに至っては国全体で見ても、敵う者の方が少ないだろう。簡単に言えば、馬鹿力なのだ。それがゆえに、力の加減が難しく、苦労してきたのも知ってはいるが、そこはそれ。
あの、どこか控えめな性質をしている理由の一端も、実はそこにあった。周囲に、可能な限り気を使い続けて、しまいにはあんな、主体性の乏しい性格にまで育ってしまったようなのだが、それでいてアルフェスの思考は短絡的で。結論はいつも、武力で物言わすそれ。自らで避けておきながら、最終的にはそれに頼るというのだから、世話がない話だ。
そんなアルフェスを、守る。
少なくとも、物理的には守る必要もなさそうなアルフェスを、俺が?
アルフェスより頭一つ分以上小さく、情けなくもある貧弱な体で、勿論、武力、腕力など比べるべくもない。そんな、俺が?
確かに、魔法やら魔術やらを駆使したら出来なくはない。決して、出来なくはないのだが。だってアルフェスは魔法耐性もある。たいていの魔術や呪いなんて跳ね返せるほどなのだ。どこに守る余地があるというのか。アルフェスもどこか、俺にそれを求めているような節があるのだが、俺からすると、遠い目をするしかない。
「そもそも、あのアルフェスを池に突き落とせる奴なんていると思います?」
「まったく思わないな。いるとして、魔物や、魔獣の類か?」
「よっぽどの大物でもない限り、きっと、アルフェスの方が頑丈ですよ」
そしてよっぽどの大物が出現した、などという話は、何処からも聞こえてきてはいなかった。
アルフェスが、びしょ濡れになっていたのは本当だろう。池に落ちたのも、おそらくは。
だが、それが、突き落とされた故なのかというと、はなはだ疑問だとしか言えず。
「多分、ルーファの誤解だと思うんですよね。あの子、人の話なんて、ろくに聞きやしないから」
そのうえ、先走る所もある。
「とんだ猪娘だものね」
「かわいいでしょう?」
「どこがだ」
あるいは暴走列車かと苦く告げる殿下に、そこも可愛いのだという俺の言葉は、当たり前のように切って捨てられた。ちっとも解せぬがまぁいい。それより今は、あの誤解の件。
「アルフェスに訊けば、多分、真相は分かると思うんです」
ルーファもそうだけど、アルフェスも、噓を吐くような人間ではないのだ。ただ少し勘違いが多かったり、思い込みが激しかったりする部分はあるにはあるのだが。
「でもなぁ……」
正直に言うと、聞きたくなかった。同時に極論、どうでもよかった。
アルフェスが池に突き落とされた事実なんて、おそらく存在しないのだ。俺は他の、ルーファが訴える嫌がらせも、怪しいと踏んでいる。それが分かっていて、事実を明かして、どうなるというのか。ルーファを納得させられて、アルフェスを喜ばせる、それ以上には何もない。
特に、出来る限りアルフェスに関わりたくない以上、俺が彼に話を聞きに行くだなんてするはずもなく。
「じゃあ、どうするんだい」
尋ねられてしばし迷う。アルフェスに話を聞きに行って、ルーファの誤解を解く。言ってしまえばそれだけの話なのだけれど、同時に、それを、特に前者を、出来るだけしたくはなくて。と、なれば結局。
「放っておきます」
可能な限り、関わらない。それに尽きるのだ。
「なるほど」
一つ頷いた殿下が何を考えていたのか、俺には知るすべがないのだが、後から思えば多分、この時から、殿下は後の諸々のことを、計画し始めていたのだと思う。あるいは元より考えていた計画を、実行に移そうと判断したのが、この時期だろうか。
問題の一端を、俺が殿下に吐かせたのは、もっとずっと後の話。
俺の学園生活は、もうずいぶんと残り少なくなっていた。
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