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4・これからの為の覚悟
4-7・判明した調査結果と
しおりを挟む俺には殿下を本当に拒絶するつもりなんてなかった。ただ、少し頭を冷やしたかっただけで。距離を置いたのだって、ほんの数日。せめてピオラの両親や、今までの環境などが判明するまでと。そう、考えていたのに。
どうしてだろう。自分で思うよりもずっと俺の心は、もしかしたら悲鳴を上げていたのかもしれない。
ピオラのことについては、2日もあれば判明した。俺自身が調査するまでもなくピオラを出入り業者へと預けた男は容易に見つかり、母親まで辿り着けたらしい。
スラムに居を構え、身を売って生計を立てていたらしいピオラの母親は、1か月以上前に亡くなっていた。見つけたのが大家でもあったその預けた男で、ピオラはちょうど1か月前、滞納されたままの家賃を回収に来た男が部屋に入った時に亡くなって数日は経つ母親の横で蹲っていたのだという。正確に何日、死んだ母親の傍にいたのか、そこまでは分からないらしい。
とにかく、そうして残された子供を男は持て余し、部屋の整理をしていて見つけた生前に母親がしたためていたらしいあの手紙に沿って、ピオラを王宮まで送り届けたのだとか。出入り業者に託したのは逃げるつもりがあったわけでもなく、何分スラムで生まれ育った身で、王宮の結界を抜けられる自信がなかったのだと供述が取れている。
さもありなん。スラムは王都の中で唯一、何の結界も張られていない場所だ。ともすれば娼館にさえ存在する結界が、スラムにだけはない。必然、そこに住む者の中では結界が抜けられない者も存在した。全員とまでは言わないが、少なくない人数が。だからこそのスラムなのだが。
男がピオラの母親から以前に聞かされた話では、ピオラの父親は、お忍びで娼館を訪れた皇太子殿下だったのだそうだ。そこでどんな会話が成されてそんな誤解が生まれたのか、今となっては分かる術もないのだが、なんでも、見るからに高貴な雰囲気を身にまとった、濃い灰色の髪と紫の瞳をした年若い青年だったのだとか。……――少年ではなく、青年である。当時14だったはずの殿下が、青年。
おそらく母親は、殿下の年齢を知らなかったのだろう。灰色の髪と紫の瞳であるというそれだけを、どこかで見聞きしたのか知っていて。大家の男も同じような知識しか持っていなかったようなので、多分、スラムの住人の認識などその程度のもの。
しかし母親は、相手が皇太子殿下だと信じた。信じて、だからこそ、こんな機会は2度とはないと子供を望んで。
母親の死因は、定かではない。スラムでは、そういった死体を専門に扱う者たちもいて、家賃の足しにと、その者たちに早々に引き取らせたと男は語った。
一応、父親だと思わしき人物にまで捜索の手は伸ばさせているが、こちらは定かに出来るのかなんとも言えない。何分、5年ほどは前のことであるし、今わかっている情報だけでは少なすぎて到底足りなかった。
間違いなく、王族ではある。灰色の髪と紫の瞳をした王族の男。そちらの線からも当たってはいるがなにせ、王族の血を引いているだけの男など、市井にもそれなりの数存在する。今から3代か4代前の王弟か何かの息子か孫。息子ならともかく、孫とまでなると。王都にいるのならまだいい。だが、商人や冒険者になっている可能性もあり、もし王都から、ましてや国から出ているともう探しようもない。
案の定、父親についての情報は、それ以上集められなかった。
充分だと思う。
もう、充分だ。
その時点で俺はピオラを、俺自身で育てようと決めていて。ただ、殿下にはきちんと話し合って、何とか了承を得ようと思っていた。
本当に。殿下を拒絶するつもりなど、少しもなかったのだ。なのに。
いくら距離を置くと言っても、腹の子には魔力がいる。
仕事は急遽用意させた執務室で、一度、殿下に回す書類を全て俺の所へと持ってこさせ精査した上で、必要な分だけを殿下へとまた持って行かせた。殿下の執務室を出ただけで、やっていることは同じである。だから仕事に関しては問題はなく、ピオラとは、仕事中などのどうしても手が離せない時だけ子供に慣れていそうな侍女に託し、他の時間はずっと一緒に過ごした。食事は勿論、入浴や就寝まで全て一緒に。
幾日もそうして過ごして、1週間は経っていなかったと思う。5日ぐらいだったろうか。殿下に呼び出され、俺は夜、ピオラを侍女に預け、殿下の寝室へと赴いた。
魔力の供給の為に。
だけど。
「ティア、リィ……?」
俺は殿下の魔力を、まったく受け付けられなくなっていたのだった。
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