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番外編・未来の話
x1-3・グローディの話③
しおりを挟むグローディが彼曰くの天使を初めてナウラティスに連れて帰ってきたのはグローディが24の時のこと。
連れて帰ってきた天使ことレミュシア公子は18歳。なんでもその日は学園の卒業式で、式が終わってすぐ、少しばかり騒動があり、そこでレミュシア公子は国外追放を言い渡されたのでそのまま一緒に魔法でナウラティスの王宮まで転移してきたのだとか。
国外追放……いったい何があったのか。それにいつの間に転移魔法を会得したのか。魔力量がそれほど多くはないせいで、カナドゥサぐらいの距離からが精々らしいのだが、それでも人一人を伴っての鮮やかな転移は見事という外ない。
ともあれ、そうしてこの6年間、一切の連絡もなく、顔を見せることもなかった息子は、いきなり俺の執務室に、見慣れない少年を伴って入ってきた。
そして晴れやかな笑顔でこう言った。
「母様!見てください、レシア様です!」
俺は思った。うん。誰だ、それは。
そもそも俺達はグローディの天使のことなど何も知らなかった。
何せグローディは俺達に碌な説明もなく学園卒業したその足で国を出ていて、その後一切の連絡もなかったのだ、知る機会などあるはずがない。
かろうじてわかっていたのは、相手がカナドゥサ公国の第一公子である、レミュシア・マロナウ・カナドゥサであること。グローディは彼を守るため、護衛騎士を目指しているということ。
たったそれだけ。件のレミュシア公子の愛称も知らなければ、容姿も知らない。カナドゥサ公国の成人も我がナウラティスと同じ19で、それまではいかに公族と言えど、絵姿さえ出回らないからだ。外交の場に子供が伴われること自体ひどく稀で、余程の理由がなければあり得なかった。
当然、いきなりレシア様と紹介されても戸惑って当たり前だっただろう。
「グローディ……」
俺は溜め息と共にグローディの名を呼んだ。流石のグローディも、自分が今、普段では考えられないような浮かれた態度であったことを自覚したらしい。さっと居住まいを正して、だが、顔に浮かぶ満面の笑みはそのまま。
「すみません、つい。……改めて母様。紹介させてください。こちら、カナドゥサ公国の第一公子であるレミュシア様です」
改めて伴っている少年を俺の前へと促した。
少年は、見事な銀の髪をしていた。一目見てわかる。彼の一族の影響が、ひたすらに濃い。
膨大な魔力と、おそらくはそれに相応しい精神性の持ち主なのだろう。いくら転移とは言え、この王宮の中、それも俺の執務室に何の妨げもなく入ることが出来るだなんて。
瞳の色は深い緑色で、それは両親どちらかからの引き継いだものなのだろう。
「ほら、レシア様。ご挨拶なさってください。こちらは今日からお世話になる相手。俺の母様です」
「?! グローディのお母上なのか?! 随分お若い方なのだな。初めまして、レシア・カナドゥサと申します」
グローディに手を引かれ、此処に入ってきた瞬間から、ただひたすら目を白黒させて状況についていけていないように見えた少年は、促されるまま素直に俺へとあいさつを寄越してくる。
しかし名乗った名前が略称であることに気付いて、俺はちらとグローディに目で問いかけた。
グローディはその場では何も言わず、にこにこと笑うばかり。
そもそも、俺の見た目を若いと言っただろうか。俺のこの姿を見て、何も思う所はないのか。俺は今、認識阻害も何もしていないので、膨大な魔力量もそのまま、一目見ただけでもわかるはず。見た目はその人自身が持つ魔力量に影響を受ける。特に容姿の衰えはその傾向が顕著だ。
つまり魔力量の多い魔術師などの姿が年齢にそぐわないことなどざらで。そのようなことを口に出すのは、よほど学のない者か、幼い子供ぐらいのものだった。
さて、この少年はどちらなのか。
疑問には思っても別に気分を害しただとかではない。
俺はにっこりと少年に笑いかける。一瞬迷ったけれど、席は立たないまま。
「はじめまして、レミュシア公子。俺はグローディの母で、ティアリィと言います」
略称を名乗られたので、こちらも愛称だけで返した。すると少年がきょとんと眼を瞬かせる。そして。こんなことを口に出した。
「あの……先程から気になっていたのですが、その、レミュシア公子、というのは何ですか?」
私の名前はレシアです。
ごくごく当たり前の顔をしてそう告げてきた少年に、流石の俺もびきりと固まった瞬間だった。
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