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番外編・未来の話
x1-4・グローディの話④
しおりを挟む「あはは。可愛らしいじゃないか」
子供みたいで。
ミスティに笑い飛ばされて、俺はむっと眉根を寄せた。
どうやらミスティは、彼のレミュシア公子の幼い様子に、何も思う所がないらしい。
グローディは当然、俺にそうしたようにミスティの所にも彼を連れて行ったのだろうし、其処で交わされた会話も、俺とそうしたのとそう大きな差のないものだったことだろう。
なのにミスティは何も気にしていない顔で笑うばかり。
「そうは言うけどティアリィ。たとえあの子が幼子みたいな幼稚さを擁していたとして、それに何の問題があるっていうの? グローディとあの子のこと。別に反対ってわけでもないんでしょ?」
そう訊かれると、確かに俺は別にグローディの相手としてのあの子に不満があるわけではなかった。
何せ俺の執務室に容易く入って来られる程度には問題がない。だが、同時にあの幼さはある意味での危惧を抱かずにはいられなかった。
「そりゃ確かに、反対ってわけじゃないけど……でもあれじゃ、あの子の意思も何もないじゃないか」
「別にグローディのこと、嫌ってたり厭がってたりって風でもなかったし、構わないと思うけど」
いい子そうだったし。
いい子。あれをいい子と言ってしまっていいものなのかどうか。素直では、あるのだろうと思う。
件の発言の後も、グローディが、
「レシア様。ほら、以前にお伝えしたことがあったでしょう? レミュシア公子というのは、レシア様の本当のお名前のことですよ」
人、それを正式名という。俺は突っ込みたい気持ちを耐えて会えて口を挟まなかった。
とかく、そう告げたのにレミュシア公子は素直に頷いて。
「ああ! なるほど、確かにそんなものがあると言っていたな!」
幼子のような顔で笑っていた。
いい子なのだとは思うのだ。自分の名前さえ正しく把握していないほどに幼いが、素直で、無垢で、人を疑うことを知らない。ただ、年齢と立場が問題なだけで。
「そんなに心配しなくても、彼のことはグローディが何とかすると思うけどね。わざわざ連れて帰ってきたぐらいだし、放すわけないじゃない。結局グローディって、辺境伯領を継ぐことにしたんでしょ? あそこなら社交の何もないだろうし、大切に囲って、幸せにするんじゃないかな」
だからこそ俺は心配なのだが、ミスティには通じない。
だってそんなもの。あの幼子のような子の意思が差し挟まる隙があるとは思えないのだ。あの子は何もわからないまま、きっとグローディの思うとおりにされてしまう。
しんなりと眉尻を下げた俺に、ミスティは困った顔をして笑った。
「ティアリィ。もういい加減あの子のことばかりじゃなく、僕のことも構ってほしいんだけど?」
ねぇ。
夫婦の寝室、ベッドの上という場所で。確かに、こんな話は相応しくはなかったかもしれない。だけど。
どうしてもあの子のことが気にかかる俺に、焦れたミスティが手を伸ばしてくる。
触れられた指先には魔力が乗せられていて。
くらりと、思考がぼやけた。
ああ、ほら、そうしてミスティも俺のことをいいように扱うから……――グローディもあの子にそうするんじゃないかって俺は心配で……。
酔っていく。ミスティに。気持ちのいい熱に支配される。そのうちに俺の体の奥深くを探られ、腹の中をミスティでいっぱいにされるのだ。そうしたらすぐに俺はミスティのことしか考えられなくなって、そして。
蕩かされながらも残り続けた俺の心配は、当然の顔をして翌日には現実のものとなっていた。
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