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番外編・未来の話

x1-5・グローディの話⑤【完】

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 翌日、朝食の席でレミュシア公子と顔を合わせた俺は、彼の腹部を見て頭を抱えた。
 勿論、態度には出来るだけ出さないようにしたが、こぼれそうになった溜め息を呑み込むのに苦労したほどで。
 どう見ても元凶であるグローディは、彼の横で涼しい顔をしている。否、あれは涼しい顔じゃなく、得意げな顔だろうか。
 おそらく同じことに気付いただろうミスティは、一瞬パチリ、目を瞬かせたがそれだけ。
 なお、うちは朝食と夕食は、出来るだけ家族そろって摂ることにしている。もし、それぞれの友人などが王宮に滞在している場合は彼らも共に食事の席に着いた。
 なので、朝食時にその場に居合わせたのは俺とミスティの他は、グローディとレミュシア公子、アーディとコルティ、ディリーだ。ピオラはもう何年も前に他国ファルエスタに嫁いでいてもういないし、ミーナは数年前についには国を飛び出していってしまった。今は何処にいるのやら、連絡もろくにない。もっともそれは昨日までのグローディも同じ。
 今は彼もこうして席に着いているが、ここ数年は顔を見せにさえ帰って来なかった。
 レミュシア公子は、自らの状態がわかっているのだろうか。特に緊張した風でもなく、隣に座るグローディに頼り切っている。ただ、共に食事を囲うのに離れていない風には見えた。
 あくまでグローディは護衛だったので、食事は別だったのだろう。
 後でもう一度彼と話してみようと決めて、他の面々の様子を見ても、皆レミュシア公子の状態に気付いていないはずがないのに誰もそれに付いては触れず、当たり障りのない会話を交わしていた。
 気になるのか、ちらちらそちらを見てしまっているのは末っ子のディリーぐらいで、コルティでさえ素知らぬ顔だ。同じ年だけあって、いくつか会話を試みてはいるようなのだが、盛り上がっている風ではない。
 双方がたまに、互いの話の噛み合わなさにだろう、不思議そうな顔をするのが見ていて滑稽だった。
 話を聞いていても、コルティは良くも悪くも普通だから、おそらくおかしいのはレミュシア公子の方だろう。

「あら、でしたらさぞご苦労なさったのでしょうね」
「? なぜです? 特に苦労などしていませんが」

 といった具合に、同じことについて話しているはずなのにこちらの想定などはことごとく否定されて、逆に何故そんな想定になったのかと問うてくる始末。ちなみにコルティが想定したのは、話の流れからしてもごくごく一般的な予想で、それに何故と返されても答えに窮するしかない。
 なにせ例えば、

「自分だけ罰として掃除をさせられたのです。それまで掃除などしたことはなったのに」
「なら苦労したのでは?」
「? なぜ?」

 というような微妙なずれが頻繁に発生しているのである。
 察しが悪い、どころではない会話は本当に幼子のようだった。
 邪気がないのが余計に性質が悪い。しまいにはコルティも何とも言えないような顔になって、それでも果敢に会話を試みようとしていた。
 ミスティやアーディはそもそもおしゃべりな性質ではなく、食事中にはあまり話さない。今も感情の窺えないにこやかな表情で聞いているだけ。
 ディリーなどコルティと同じタイミングで首を傾げては、聞けば聞くだけ混乱してしまっている。
 グローディは、マナーどころかたまに食べこぼしさえするレミュシア公子の世話に忙しそうで、俺も積極的には会話に加わる気になれなかった。
 話を振られたら答えはするけれど。
 なんだかおかしな時間になってしまった朝食は、それでも穏やかと言っていい程度には何事もなく・・・・・終わった。
 なお、その後くだんのレミュシア公子に、腹に子を成しているようだが、それはちゃんと自分自身で望んだことなのかと念のため確認すると、

「? グローディがそうするのがいいと言ったので、そうしたのですが、何か問題でも?」

 と、何も疑問を抱いていない顔で返され、この子は本当に理解しているのか・・・・・・・・・・・とグローディを問い詰めたくなった。
 他のことに関しても全てがその調子で、本当になんでもグローディの促すとおりに行動するのだ。
 自分の意思がない、というわけでもなさそうなのに、それはある意味では奇妙に俺の目には映った。
 だが、ミスティの言う通り、レミュシア公子に不満や嫌悪、グローディを疎んじているだとかいう気配は一切なく、むしろ満ち足りて幸せそうにさえ見え、グローディもグローディで、レミュシア公子が憂いなく微笑んでいるのならそれでいいと言った態度。その割には自分の希望通りに事を運んでいるようだったがそれはそれ、事実大切には扱っているようではあった。
 あれだけ本人の意思もへったくれもないような状況なのに、決して強制するような言い方は選ばないのだ。あくまでもこちらの方がいいのではないかという提案のていを取って、本人が疑問を差し挟まず頷けるように誘導している。
 一種の洗脳では? と、別な心配も頭をよぎったが、本人たちがそれでいいのなら俺にはあまり何も言えず。
 程なくしてグローディは元々話の出ていたパンレソイ辺境伯領を引き継ぎ、グローディジェ・ジルサ・パンレソイ辺境伯となり、同じく、レミュシア・カナドゥサ・パンレソイ辺境伯夫人・・としたレミュシア元公子を伴い、領地に引きこもってしまって、何がしかの行事でもなければ顔さえ見せなくなってしまった。
 見る度に子供が増えているようなので、仲良くはしているらしいと知るばかり。
 幸せそうには見えるので、悪い結果ではなかったのだろうと思うしかなかった。

 以上が、グローディの話だ。
 他の子たちの話は、また今度にする。



To Be Continued...

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