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36・痛む心③
しおりを挟むその日はその後の夕食の時も、僕は余程、沈んだ顔を引きずってしまっていたらしい。
「フィーヴィ、本当にどうしたんだい、何かお茶会で辛いことでも……まさか誰かに何かを言われたとか? おかしなことはなかったようだと報告を受けているんだが……」
心配でならないといった雰囲気のラセア殿下に、僕は慌てて首を横に振った。
報告を受けている、というのなら、すでにお分かりだとは思うけれど、本当にお茶会で何かあったというわけではないのだ。
「そんなっ! 皆様、とてもよくして下さいました。親切で……僕をとても歓迎して下さっているのが伝わってきて……嫌な思いだなんて、何もっ……!」
そう、誰かが何かをしたわけではない。おかしなことを言った人もいない。
ただ僕が勝手に色々なことを気にして、特に少し考えればある意味当たり前でしかないことを今まで全く考えたこともなかったせいで、気にしてしまっただけ。
それは本当に、誰かに何かをされただとかいうようなことではなかった。
「でも、では何が? フィーヴィは……現に、落ち込んでいる……」
へにょりと、眉を下げられた、ラセア殿下の表情こそが、余計に僕を落ち込ませた。
何か。
理由、らしきものを告げないと納得してくれなさそうな様子に僕は困る。
だけど僕の心の内を、全てぶちまけてしまうだなんてこと、出来るはずがない。
何より僕は、ラセア殿下にだけは、はしたないだなんて思われたくなかった。
否、そう思われたくないというよりは嫌われたくないのだ。
それはきっとラセア殿下のことが、好きだからこそのことだと思う。
だから、僕は迷って迷って、そして少しだけ、全部ではなく、少しだけ、隠さずにお伝えすることにした。
「えぇっと、その……誰かに、何かを言われただとか、そういうことではなく……僕が、ただ、勝手に落ち込んでいて……」
「何に? フィーヴィが落ち込むようなことなんて何もないだろう? お茶会の準備はよく頑張っていたし、いっそ十二分に隅々にまで気遣って整えていたそうじゃないか。お茶会中の態度も非の打ちどころがなかったと使用人たちも噂していたよ?」
いったい何を落ち込むことがあるのか。いったい何処にそんな要素が?
本当にわからないといった様子のラセア殿下に、僕の方こそ、どうすればいいのかわからなくなった。
どれを、言えばいいのだろう、何を言えば。
そういった話ではない。
そういった話では、ないのである。否、だからこそ、なのか。
「あの、その……僕は、その……勝手、なの、ですが……皆様が、その……そんな風に、褒めて下さるのが、心苦しくて……」
これは本当だ。
皆の称賛が、僕には分不相応に思えてならなかった。
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