38 / 63
37・痛む心④
しおりを挟む僕はそんな風に評価されるほど、素晴らしい人間じゃない。
本当の自分との剥離。
褒められれば褒められるほど、心苦しくなって堪らなかった。
「これは、その……僕が勝手に感じたことで、本当に誰かに何かをされたとか、言われたとかではないのです……」
むしろこんな風に、心苦しく思っていることこそ申し訳ない。
人の称賛を素直に受け取れない。
穿った見方をしているつもりはないのだ、だけど、僕は僕自身のことを、皆が言うような素晴らしい人間とはとても思えなかった。
だから苦しくて。
(少なくとも間違っても清らかではないと思う……清らかな人間はラセア殿下の股間とか見ない……)
この期に及んでも、目を伏せると次に吸い寄せられるのはそこなのだから、本当に自分は救いようがない。
僕はそう、だからこそ苦しいのだと、なんとかラセア殿下にお伝えした。
ラセア殿下は僕の言葉に、へにょと眉を下げて、とても困った顔をしていらした。
「フィーヴィ……それはまた、なんというか……つまり君は、自分に自信がないということなのかな?」
そう確かめられたけれど、それはまた少し違う気がした。
自分が出来ていない、とそう思っているわけでは決してないのだ。
ただ、皆が称賛するほどには、素晴らしい人間ではないと思うだけで。
僕は曖昧に首を傾げる。
「いずれにせよ、ですから、誰かに何かを言われた、だとか、そういうことではない、ので……ああ、でも……」
誰が悪いわけでもない、そう念押ししながら、これも言ってしまっておこうと言葉を続けた。
「でも?」
これは多分、言ってもいい、そう思う、こんなの結局、ただの醜い嫉妬のようなものだけれど、でも嫉妬している、それは伝えてしまってもいいと思った。
「あの、僕……とても考えが浅かったみたいで……その……これまで、ラセア殿下に、僕以外の、その、お話がある、だとかそういうのを、考えたこともなかったので……それを知って、少しショックには思いました」
考えの浅い自分が信じられなかったし、そんな当たり前のことに、衝撃を受けている自分というのにも、僕自身びっくりしてしまったのは本当だった。
多分この感情は、嫉妬、であっているはずだ。
「それは……だが、……やはり、彼女は……」
今回は避けた方がよかったか。
僕の言っているのが誰のことなのかはすぐに分かったのだろう、眉を寄せたラセア殿下に僕は慌てて否定の言葉を続けていた。
「いえ! むしろ、その……知れて、よかった、と、思います……知らないままでもいられないお話だったでしょうし、実際にはそういったお話が持ち上がっただけだったのだとも教えて頂きました。ただ、そのようなことを面白くないと思う自分には、やはり皆さまから頂く称賛のお言葉は過分だとも思ってしまって……」
結局何処までも、僕自身の気持ちの話に過ぎなかった。
これは本当に誰が悪いわけでもないのだ。
「フィーヴィ……」
殿下の顔は晴れない。
それはまた、僕の顔も同じだった。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる