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08.一番のお勧めは
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昨夜は二話更新しております。
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「次は森ね。何が見たいかしら? 木苺の茂み? 百合がたくさん咲いている所?」
お勧めの場所を思い浮かべながらアルテミスは問うたが、オライオンの表情は芳しくない。不満を抱いているというよりも、戸惑っているようだ。
「女の子だもんな」
なぜか思い出したように、しみじみと呟くオライオン。
小首を傾げて考え込んでいたアルテミスは耳には届いたものの、何を分かりきったことを言っているのだろうと不思議に思っただけで、特に気にすることはなかった。
「一番のお勧めは、あの木の所なんだけど、ここからあそこまで行っていたら、川に戻ってお魚を焼いている間に日が暮れてしまうと思うの」
アルテミスが指さす方向には、森の中でも一際大きな木が、こんもりとした頭を見せていた。
太い幹とそこから伸びるたくさんの枝に付いた葉を見上げるだけでも圧倒されるが、幹を登って高い枝から見える景色は、アルテミスの一番のお気に入りだった。
今まで誰も連れて行ったことはないが、オライオンには見てほしいと思ったのだ。
「あの木は俺も気になっていたから、いつか案内してもらえると嬉しいな」
「じゃあ、次に会ったときには、あの木の所に行きましょう」
「ああ」
約束を交わした二人は、森の中に入る。目的地は決めずに、小枝を拾いながら散歩をした。
「オライオンは王都で暮らしているの?」
「ああ。父上が王城に務めているから」
「王都はお祭りみたいに人が大勢いるのでしょう?」
兄のアポロンから聞いていた話をすると、オライオンは考え込むように首を傾げる。
「祭りのときは、歩けないくらいぎゅうぎゅう詰めになる。いつもはそこまで酷くない」
「まあ!」
歩けないほど人がいるなんて、どんな状態なのだろうと、想像しようと挑戦したアルテミスだったが上手くいかなかった。
「アルテミスが王都に出てきたときは、俺が案内してやるよ。人並みに飲まれて迷子になりそうだ」
「私は迷子になったりしないわ」
むきになって抗議するアルテミスに、オライオンは白い歯を見せて楽しそうに笑う。その笑顔を見ていると怒っている気持が消えていき、アルテミスは悔しそうにオライオンを見上げるのだった。
一抱えにも満たない小枝を拾って川原に戻ると、罠を川から上げる。網目から水が抜けていき、小さな魚も落ちていく。
慌てて捕まえようとしたオライオンの手を、小魚はするりと抜けて泳いでいった。
「その子は小さいから、逃がしても大丈夫よ? 小さな魚を捕まえると川から魚が減ってしまうから、大人になっている魚しか食べてはいけないの」
悔しそうに川の中央を睨んでいるオライオンに、アルテミスは領民から教わった知識を披露した。
素直に納得して頷いたオライオンは、改めて罠の中を見ると、嬉しそうに口角を上げる。
「二匹入ってる」
「ちゃんと獲れてて良かったわ。先端の石を崩しておいてくれるかしら? 魚が取り残されてしまうかもしれないから」
「分かった」
足の裏で石を崩してから戻ってきたオライオンと共に戦果を確認したアルテミスも、にっこりと笑う。
森から拾って来た枯れた針葉樹に黒い紙片を置くと、持ってきていたレンズをかざして火を着ける。火が枯れた針葉樹の葉に移ると、すかさず枝ごと持ち上げて立てらし、火の勢いを強めた。
慣れた手つきで火を熾すアルテミスの手元を、オライオンは真剣な表情で睨みつけるように凝視していた。
「そんなに睨んでも、火の勢いは変わらないわよ?」
「知ってる」
怪訝に思ったアルテミスが声を掛ければ、素っ気なく返される。
小枝の山から赤い火が昇ると、別に置いていた細く硬い枝を川の水で洗い、獲れた魚の口に突っ込んで、尾まで貫通させる。
それを焚き火の近くに刺して焼けるのを待つ。
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「次は森ね。何が見たいかしら? 木苺の茂み? 百合がたくさん咲いている所?」
お勧めの場所を思い浮かべながらアルテミスは問うたが、オライオンの表情は芳しくない。不満を抱いているというよりも、戸惑っているようだ。
「女の子だもんな」
なぜか思い出したように、しみじみと呟くオライオン。
小首を傾げて考え込んでいたアルテミスは耳には届いたものの、何を分かりきったことを言っているのだろうと不思議に思っただけで、特に気にすることはなかった。
「一番のお勧めは、あの木の所なんだけど、ここからあそこまで行っていたら、川に戻ってお魚を焼いている間に日が暮れてしまうと思うの」
アルテミスが指さす方向には、森の中でも一際大きな木が、こんもりとした頭を見せていた。
太い幹とそこから伸びるたくさんの枝に付いた葉を見上げるだけでも圧倒されるが、幹を登って高い枝から見える景色は、アルテミスの一番のお気に入りだった。
今まで誰も連れて行ったことはないが、オライオンには見てほしいと思ったのだ。
「あの木は俺も気になっていたから、いつか案内してもらえると嬉しいな」
「じゃあ、次に会ったときには、あの木の所に行きましょう」
「ああ」
約束を交わした二人は、森の中に入る。目的地は決めずに、小枝を拾いながら散歩をした。
「オライオンは王都で暮らしているの?」
「ああ。父上が王城に務めているから」
「王都はお祭りみたいに人が大勢いるのでしょう?」
兄のアポロンから聞いていた話をすると、オライオンは考え込むように首を傾げる。
「祭りのときは、歩けないくらいぎゅうぎゅう詰めになる。いつもはそこまで酷くない」
「まあ!」
歩けないほど人がいるなんて、どんな状態なのだろうと、想像しようと挑戦したアルテミスだったが上手くいかなかった。
「アルテミスが王都に出てきたときは、俺が案内してやるよ。人並みに飲まれて迷子になりそうだ」
「私は迷子になったりしないわ」
むきになって抗議するアルテミスに、オライオンは白い歯を見せて楽しそうに笑う。その笑顔を見ていると怒っている気持が消えていき、アルテミスは悔しそうにオライオンを見上げるのだった。
一抱えにも満たない小枝を拾って川原に戻ると、罠を川から上げる。網目から水が抜けていき、小さな魚も落ちていく。
慌てて捕まえようとしたオライオンの手を、小魚はするりと抜けて泳いでいった。
「その子は小さいから、逃がしても大丈夫よ? 小さな魚を捕まえると川から魚が減ってしまうから、大人になっている魚しか食べてはいけないの」
悔しそうに川の中央を睨んでいるオライオンに、アルテミスは領民から教わった知識を披露した。
素直に納得して頷いたオライオンは、改めて罠の中を見ると、嬉しそうに口角を上げる。
「二匹入ってる」
「ちゃんと獲れてて良かったわ。先端の石を崩しておいてくれるかしら? 魚が取り残されてしまうかもしれないから」
「分かった」
足の裏で石を崩してから戻ってきたオライオンと共に戦果を確認したアルテミスも、にっこりと笑う。
森から拾って来た枯れた針葉樹に黒い紙片を置くと、持ってきていたレンズをかざして火を着ける。火が枯れた針葉樹の葉に移ると、すかさず枝ごと持ち上げて立てらし、火の勢いを強めた。
慣れた手つきで火を熾すアルテミスの手元を、オライオンは真剣な表情で睨みつけるように凝視していた。
「そんなに睨んでも、火の勢いは変わらないわよ?」
「知ってる」
怪訝に思ったアルテミスが声を掛ければ、素っ気なく返される。
小枝の山から赤い火が昇ると、別に置いていた細く硬い枝を川の水で洗い、獲れた魚の口に突っ込んで、尾まで貫通させる。
それを焚き火の近くに刺して焼けるのを待つ。
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