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09.アルテミスは凄いな
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「アルテミスは凄いな」
炎を見ながら感嘆するオライオンを、アルテミスは不思議そうに見上げた。分かっていないアルテミスに、オライオンは苦笑をこぼす。
「川で魚を獲ったり、火を熾したり。俺はやり方は聞いていたから、自分でもできると思っていたけれど、今日アルテミスに教えてもらいながらやってみて、自分だけだったら、できなかっただろうと気付いた」
どこか悔しそうに顔を歪めたオライオンは、膝の上でぎゅっと拳を握りしめる。
「仕方ないんじゃないかしら? 私だって最初は上手く火を着けられなかったし、魚は取れない日も多いわ」
火が着いたと思えばすぐに消えたり、煙ばかりで目も開けられなくなったり、上手く罠を編めずに魚がみんな逃げてしまったり。失敗を思い出したアルテミスは、苦く顔をしかめて天を仰ぐ。
「そうか」
「そうよ」
噛みしめるような呟きに、悔し気に返せば、青い瞳が優しく細まって笑う。アルテミスも釣られるように笑みをこぼした。
「この魚はどうやって食べるんだ?」
「そのまま齧ればいいのよ」
火が通って皮がほんのり狸色になった魚を枝ごと持ち上げて、アルテミスはお腹からかぷりと被りつく。ぱりぱりに焼けた皮がさくりと裂けて、ほくほくと湯気を立てる身が現れる。
熱い身に口を閉じることができずに息を吐いているアルテミスを、オライオンは目を丸くして見つめたまま固まっていた。
咀嚼して飲み込んだアルテミスは、オライオンにもう一匹の魚を勧める。
「オライオンも食べたら? 中までふっくらと焼けていて美味しいわよ?」
にっこりと笑いかけると、ようやくオライオンが動き出し、魚を指した枝を手に取った。ちらちらとアルテミスを窺うように見ながら、白い歯を立てて少しだけ魚の腹を齧った。
「苦い」
「それを美味しいと思えるようになったら、大人になれた証だそうよ?」
正直に言えば、アルテミスも川魚の腹は苦手だった。けれど領民たちの前で腹を避けて食べ残すと子ども扱いされるので、熱くて味がよく分からないうちに、さっさと食べてしまようにしているのだ。
腸の苦味に顔を盛大に顰めていたオライオンだったが、アルテミスの言葉を聞くなり眉間にしわを寄せて魚を睨み付け、果敢に腹を齧っては飲み込んでいった。
くすくすと笑いながら、アルテミスも魚を食べていく。
川で苔や小さな生き物たちを食べて育った獲れたての魚は、何も付けずとも川と魚の味がして充分に美味しい。
「腹はあれだけど、背中とかは美味しいな。館の食事に出てくる魚と違って、ほろほろとしているというか、口の中で解れていく。川もさくさくしてて面白い」
「そうでしょう? 気に入ってもらえてよかったわ」
一匹の川魚だけで満腹になるわけではないが、二人とも満足そうに笑い合った。
「いつまでいるの? 明日も会えるかしら?」
オライオンが貴族であることは、服の質を見れば予想が付く。
豪商の子息という可能性も捨てきれないが、それでも最近になって現れたことを考えれば、どちらにしても避暑に訪れた家の子供だろう。この領地の子供ではない。
そうであれば夏が終わる前に帰ってしまうのだろうと、少し寂しい気持ちを覚えながらアルテミスは問いかけた。
「本当は明日帰る予定だったんだけど、街道に魔獣が出たらしくて、安全が確認されるまでもう数日ここにいるって」
「魔獣が? 珍しいわね」
夜中に移動していた人でもいたのだろうかと、アルテミスは考える。活発に動く夜に馬車や人が移動していれば、気付いた魔獣が森から出て襲うこともあるのかもしれない。
それからこんな想いを抱いてはいけないと思いつつも、心の中で魔獣に感謝した。
本当ならば、オライオンと今日でお別れだったのだ。もしかすると、帰宅する準備が忙しくて、今日も会えなかったかもしれない。
炎を見ながら感嘆するオライオンを、アルテミスは不思議そうに見上げた。分かっていないアルテミスに、オライオンは苦笑をこぼす。
「川で魚を獲ったり、火を熾したり。俺はやり方は聞いていたから、自分でもできると思っていたけれど、今日アルテミスに教えてもらいながらやってみて、自分だけだったら、できなかっただろうと気付いた」
どこか悔しそうに顔を歪めたオライオンは、膝の上でぎゅっと拳を握りしめる。
「仕方ないんじゃないかしら? 私だって最初は上手く火を着けられなかったし、魚は取れない日も多いわ」
火が着いたと思えばすぐに消えたり、煙ばかりで目も開けられなくなったり、上手く罠を編めずに魚がみんな逃げてしまったり。失敗を思い出したアルテミスは、苦く顔をしかめて天を仰ぐ。
「そうか」
「そうよ」
噛みしめるような呟きに、悔し気に返せば、青い瞳が優しく細まって笑う。アルテミスも釣られるように笑みをこぼした。
「この魚はどうやって食べるんだ?」
「そのまま齧ればいいのよ」
火が通って皮がほんのり狸色になった魚を枝ごと持ち上げて、アルテミスはお腹からかぷりと被りつく。ぱりぱりに焼けた皮がさくりと裂けて、ほくほくと湯気を立てる身が現れる。
熱い身に口を閉じることができずに息を吐いているアルテミスを、オライオンは目を丸くして見つめたまま固まっていた。
咀嚼して飲み込んだアルテミスは、オライオンにもう一匹の魚を勧める。
「オライオンも食べたら? 中までふっくらと焼けていて美味しいわよ?」
にっこりと笑いかけると、ようやくオライオンが動き出し、魚を指した枝を手に取った。ちらちらとアルテミスを窺うように見ながら、白い歯を立てて少しだけ魚の腹を齧った。
「苦い」
「それを美味しいと思えるようになったら、大人になれた証だそうよ?」
正直に言えば、アルテミスも川魚の腹は苦手だった。けれど領民たちの前で腹を避けて食べ残すと子ども扱いされるので、熱くて味がよく分からないうちに、さっさと食べてしまようにしているのだ。
腸の苦味に顔を盛大に顰めていたオライオンだったが、アルテミスの言葉を聞くなり眉間にしわを寄せて魚を睨み付け、果敢に腹を齧っては飲み込んでいった。
くすくすと笑いながら、アルテミスも魚を食べていく。
川で苔や小さな生き物たちを食べて育った獲れたての魚は、何も付けずとも川と魚の味がして充分に美味しい。
「腹はあれだけど、背中とかは美味しいな。館の食事に出てくる魚と違って、ほろほろとしているというか、口の中で解れていく。川もさくさくしてて面白い」
「そうでしょう? 気に入ってもらえてよかったわ」
一匹の川魚だけで満腹になるわけではないが、二人とも満足そうに笑い合った。
「いつまでいるの? 明日も会えるかしら?」
オライオンが貴族であることは、服の質を見れば予想が付く。
豪商の子息という可能性も捨てきれないが、それでも最近になって現れたことを考えれば、どちらにしても避暑に訪れた家の子供だろう。この領地の子供ではない。
そうであれば夏が終わる前に帰ってしまうのだろうと、少し寂しい気持ちを覚えながらアルテミスは問いかけた。
「本当は明日帰る予定だったんだけど、街道に魔獣が出たらしくて、安全が確認されるまでもう数日ここにいるって」
「魔獣が? 珍しいわね」
夜中に移動していた人でもいたのだろうかと、アルテミスは考える。活発に動く夜に馬車や人が移動していれば、気付いた魔獣が森から出て襲うこともあるのかもしれない。
それからこんな想いを抱いてはいけないと思いつつも、心の中で魔獣に感謝した。
本当ならば、オライオンと今日でお別れだったのだ。もしかすると、帰宅する準備が忙しくて、今日も会えなかったかもしれない。
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