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第十章
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「子どもたちに人気があるんですね」
その後食堂や調理場、休憩室、外庭を案内して診療所に戻った。
「みんな良い子達です。愛情を持って接してあげれば、ちゃんと愛情で返してくれます」
「愛情を持って……厳しくするのは間違っていると思いますか?」
「甘やかすのが正しいとは限りません。好きなことをしてばかりではダメですから。悪いことは悪いと叱ることも必要ですし……それよりアーサー……さっきの男の子への対応……驚きました。もっとおろおろするかと思ったのに、ちゃんと子どもの目線になって、わかるように説明してあげて」
「そうですか……内心泣かれたらどうしようかとヒヤヒヤだったが」
「そんな風には見えませんでした」
落ち着いて見えたのに、そんな気持ちだったと聞いて驚いた。
「私の案内はこれで終わりですが、何か質問はありますか?」
「いえ、保育所のことは特に……あなたは大丈夫ですか?」
「私………ですか?どうして?」
「旦那様は戦争から無事お戻りになられたんですよね」
「はい……」
「長い間離れていて、いかがですか?その……戦争が終わったと聞いた時はあまり浮かない顔をされていましたので」
会って三回目の人にまで心配されてしまった。
「ありがとうございます。少し不安でしたが、何とか……案ずるより生むが易し……でしょうか」
うまくいっていると言っていいのか……詳しくは話せないが、心配をかけたみたいなので正直に話した。
「それを聞いて安心しました」
「ご心配をおかけしてすいませんでした。ニールセンさんも奥さまとは?」
「私は……うまくやれている…やっていきたいと思っていますが、女性の考えていることがよくわかりませんので、色々と無理強いさせているのではと不安です」
「もともと他人同士が家族になるのですから……血が繋がっているからと言ってもわかり合えるとは限りません」
自分に言い聞かせるように言う。
「奥さまのことを大切に思われているならきちんと伝わっていますよ」
「そうだといいのですが……」
「大丈夫ですよ。私も頑張りますからルーティアスさんも頑張ってください。それより興味を持っていただけて嬉しかったです」
「私こそ、貴重な体験でした。是非支援させていただきたいと思います。次の予定があるので、ここで失礼しても構いませんか?」
診療所の入り口まで二人で戻ってきた。
「先生には会っていかれなくていいのですか?」
「お忙しそうですし、あなたも早くお話ししたいでしょう。先生にはこちらからまた連絡しますとお伝えください」
「わかりました。今日はお越しいただきありがとうございました」
「こちらこそ。大変勉強になりました」
帰りかけてルーティアスさんが私を心配そうに見る。
前髪で良くわからないが、瞳は緑色をしている。
「心配ごとがあるなら、遠慮なくご主人に躊躇いなくお話した方がいいですよ。夫の立場からすれば、そうして欲しい筈です」
同じように新婚の彼が気遣って言ってくれる。
「でも、彼にも大事な仕事がありますし……」
「それでも、何も相談してくれないと、頼りないと思われていると勘違いしますよ。好きな人が思い悩んでいるのに、気づかなかったと逆に傷つきます」
男の矜持というものだろうか。これが職務なら何でも相談しただろうが、彼は侯爵であり軍の副官。今は本来休暇中にも関わらず忙しくしている。
私が更に彼を悩ませることはしたくなかった。
「出過ぎたことを言いました。あなたたちご夫婦の問題でしたね。私がもしご主人の立場なら……自分の妻がそうなら、そうして欲しいと思ったもので」
黙っている私が怒っていると思ったのか謝られてしまった。
「そんな……心配して言ってくださったのに……でも、そうですね。ありがとうございます」
「良かった……それでは先生によろしくお伝えください。近い内にご連絡します」
「はい。よろしくお願いします」
彼が出ていくと、私はその場で彼の言ったことを考えた。
ルイスレーンは私に優しい。
私が勝手に彼がどんな人か決めつけて暴走した時も、怒りはしたが最後は優しかった。
『愛理』だという告白も受け止めてくれたが、クリスティアーヌの身内、特に叔父のことはどう決着をつけるつもりなのだろうか。
踵を返し先生の部屋へと向かった。
その後食堂や調理場、休憩室、外庭を案内して診療所に戻った。
「みんな良い子達です。愛情を持って接してあげれば、ちゃんと愛情で返してくれます」
「愛情を持って……厳しくするのは間違っていると思いますか?」
「甘やかすのが正しいとは限りません。好きなことをしてばかりではダメですから。悪いことは悪いと叱ることも必要ですし……それよりアーサー……さっきの男の子への対応……驚きました。もっとおろおろするかと思ったのに、ちゃんと子どもの目線になって、わかるように説明してあげて」
「そうですか……内心泣かれたらどうしようかとヒヤヒヤだったが」
「そんな風には見えませんでした」
落ち着いて見えたのに、そんな気持ちだったと聞いて驚いた。
「私の案内はこれで終わりですが、何か質問はありますか?」
「いえ、保育所のことは特に……あなたは大丈夫ですか?」
「私………ですか?どうして?」
「旦那様は戦争から無事お戻りになられたんですよね」
「はい……」
「長い間離れていて、いかがですか?その……戦争が終わったと聞いた時はあまり浮かない顔をされていましたので」
会って三回目の人にまで心配されてしまった。
「ありがとうございます。少し不安でしたが、何とか……案ずるより生むが易し……でしょうか」
うまくいっていると言っていいのか……詳しくは話せないが、心配をかけたみたいなので正直に話した。
「それを聞いて安心しました」
「ご心配をおかけしてすいませんでした。ニールセンさんも奥さまとは?」
「私は……うまくやれている…やっていきたいと思っていますが、女性の考えていることがよくわかりませんので、色々と無理強いさせているのではと不安です」
「もともと他人同士が家族になるのですから……血が繋がっているからと言ってもわかり合えるとは限りません」
自分に言い聞かせるように言う。
「奥さまのことを大切に思われているならきちんと伝わっていますよ」
「そうだといいのですが……」
「大丈夫ですよ。私も頑張りますからルーティアスさんも頑張ってください。それより興味を持っていただけて嬉しかったです」
「私こそ、貴重な体験でした。是非支援させていただきたいと思います。次の予定があるので、ここで失礼しても構いませんか?」
診療所の入り口まで二人で戻ってきた。
「先生には会っていかれなくていいのですか?」
「お忙しそうですし、あなたも早くお話ししたいでしょう。先生にはこちらからまた連絡しますとお伝えください」
「わかりました。今日はお越しいただきありがとうございました」
「こちらこそ。大変勉強になりました」
帰りかけてルーティアスさんが私を心配そうに見る。
前髪で良くわからないが、瞳は緑色をしている。
「心配ごとがあるなら、遠慮なくご主人に躊躇いなくお話した方がいいですよ。夫の立場からすれば、そうして欲しい筈です」
同じように新婚の彼が気遣って言ってくれる。
「でも、彼にも大事な仕事がありますし……」
「それでも、何も相談してくれないと、頼りないと思われていると勘違いしますよ。好きな人が思い悩んでいるのに、気づかなかったと逆に傷つきます」
男の矜持というものだろうか。これが職務なら何でも相談しただろうが、彼は侯爵であり軍の副官。今は本来休暇中にも関わらず忙しくしている。
私が更に彼を悩ませることはしたくなかった。
「出過ぎたことを言いました。あなたたちご夫婦の問題でしたね。私がもしご主人の立場なら……自分の妻がそうなら、そうして欲しいと思ったもので」
黙っている私が怒っていると思ったのか謝られてしまった。
「そんな……心配して言ってくださったのに……でも、そうですね。ありがとうございます」
「良かった……それでは先生によろしくお伝えください。近い内にご連絡します」
「はい。よろしくお願いします」
彼が出ていくと、私はその場で彼の言ったことを考えた。
ルイスレーンは私に優しい。
私が勝手に彼がどんな人か決めつけて暴走した時も、怒りはしたが最後は優しかった。
『愛理』だという告白も受け止めてくれたが、クリスティアーヌの身内、特に叔父のことはどう決着をつけるつもりなのだろうか。
踵を返し先生の部屋へと向かった。
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