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4 壊れた玉
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「彼女をどこに連れて行くつもりなんですか?」
睨まれたが、さっきまで具合の悪かった彼女を、よくわからない場所で知らない人に連れて行かせるわけにはいかない。
さっと彼が手を離したすきに財前さんを私の方に引き寄せた。
「彼女は私の生徒です。しかも初対面で馴れ馴れしく体に触れるなんて失礼でしょ」
「な、き、貴様っ、私を誰だと! 私はこの国の王子だぞ」
「王子だからって何でもしていいことにはなりません。この国は初対面の女性の腰を抱くのが礼儀なのですか?」
「な、何だと」
「第一、聖女の認定? 光ったら聖女だとか、何か仕掛けがあるのでは?」
王子が脇に抱える珠に何かトリックがあるなら確かめようと、手を伸ばした。
「や、やめろ! あっ!」
ガシャーンッ
一瞬触れたが、すぐに王子が体を捻り私から珠を遠ざけた拍子に腕から落ちて呆気なく割れてしまった。
大きく二つに割れて細かい破片が辺りに飛び散った。
「珠が!」
「な、なんてこと」
私と王子のやり取りを傍観していた周りが一気に騒然とした。
「お、お前…なんてことを…痴れ者が」
王子が怒りで我を忘れて私に向かって…腕を振りかざした。
殴られる!そう思って目を瞑って身を固くした。
「待て!」
「お待ち下さい!」
二つの声が聞こえ、飛んでこない拳に恐る恐る目を開けると、私の目の前に広い背中と流れる銀色の髪が見えた。
「え…」
「邪魔をするか、アドルファス。父上、お離しください」
「落ち着け、エルウィン」
「しかし…」
「陛下の仰るとおりです」
どうやら『待て』と言ったのは国王で、私の前に背中を向けているのがアドルファスという人らしい。
彼は足元に手をかざして何やら呟いた。
割れて飛び散った破片が掃除機に吸い込まれるように集まっていく。
「マルシャル…後で復元の呪文を」
「は、はい」
集めた欠片を魔塔主に渡す。
「怪我はありませんか?」
「え、あ、は、はい…」
「きゃっ」
振り返った男性を見て、私は息を呑んだだけだが、財前さんが小さく驚いて声を出した。
振り向いた男性は顔面の左側を仮面で覆っていた。
しかし彼は財前さんの方をちらりと見て優しく微笑んだ。仮面を見て驚かれるのは慣れているのかもしれない。
仮面の下に何があるかわからないが、見えている片方の顔だけを見てもかなりの男前だ。アイスブルーの瞳が私の頭から足元へと視線を巡らせる。
「だ、大丈夫…です」
じっと見られて照れくさい気持ちになる。
「アドルファス、どうだ?」
国王が怪我の有無を訊ねる。大丈夫だと言ったのが信用されていない。
「どうやら怪我はなさそうですね」
上から下、下から上に二往復し怪我がないことを確信すると、もう一度優しく微笑む。
「それは重畳」
「父上、何が重畳ですか、この女は私に意見し貴重な『判定の玉』を壊したのですよ」
「短気なのはそなたの悪い所だ。確かに『判定の玉』は貴重だが、あくまで道具。壊れるのは必然。破片も集めたのでマルシャルが復元する」
国王に言われて魔塔の主も頷く。
「形は何とかなりますが、再び『判定の玉』として使えるようになるのは少しかかるでしょう」
時間はかかっても、割れた珠が元に戻ると聞いて少しほっとした。
「元に戻ると言っても、この女が余計な口出しをしなければ、壊れることもなかった」
引き下がれず、王子はまた私を責めた。
私に笑顔を向けていた仮面の男性の顔つきが険しくなった。王子の態度が気に入らないのだろう。
「そもそもいきなり腰を抱いて連れ去ろうとしたのは、こちらの女性…失礼、お名前は何とおっしゃいますか?」
丁寧な物腰で軽く会釈すると、さらりと白銀の髪が流れた。
「向先…唯奈…姓が向先で名前が唯奈です」
王子と違い私にも丁寧に接してくれる彼には好感が持てる。
「厶…ムコサー…難しいですね。ユイナ殿とお呼びしてもよろしいですか?」
「は、はあ…」
初対面で名前を呼ばれるのは抵抗があるが、王子がいきなり財前さんを名前で呼んだのと違い、先に確認を取ろうとしたことで、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
でも財前さんの名も私の名も彼らには発音し難いのかも知れない。
「向先が言い難いなら仕方ありませんね」
「ありがとうございます。あなたもレイ殿とお呼びさせていただいて構いませんか」
「…あ、はい」
財前さんがぎこちない返事をした。
「私のことはアドルファスとお呼びください」
「アドルファス…さん、じゃなくて…アドルファス…殿…」
「ただのアドルファス…呼び捨てでも」
「いえ、そういうわけにはいきません」
いくら優しくされても、よく知りもしないうちから呼び捨てはできないと、きっぱりと提案を断った。
「そうですか…まあ、そのうちに…ところで、先程の質問ですが…」
「質問?」
「レイ殿をどこに連れて行くのか…お訊ねの内容はそのことでしたね」
睨まれたが、さっきまで具合の悪かった彼女を、よくわからない場所で知らない人に連れて行かせるわけにはいかない。
さっと彼が手を離したすきに財前さんを私の方に引き寄せた。
「彼女は私の生徒です。しかも初対面で馴れ馴れしく体に触れるなんて失礼でしょ」
「な、き、貴様っ、私を誰だと! 私はこの国の王子だぞ」
「王子だからって何でもしていいことにはなりません。この国は初対面の女性の腰を抱くのが礼儀なのですか?」
「な、何だと」
「第一、聖女の認定? 光ったら聖女だとか、何か仕掛けがあるのでは?」
王子が脇に抱える珠に何かトリックがあるなら確かめようと、手を伸ばした。
「や、やめろ! あっ!」
ガシャーンッ
一瞬触れたが、すぐに王子が体を捻り私から珠を遠ざけた拍子に腕から落ちて呆気なく割れてしまった。
大きく二つに割れて細かい破片が辺りに飛び散った。
「珠が!」
「な、なんてこと」
私と王子のやり取りを傍観していた周りが一気に騒然とした。
「お、お前…なんてことを…痴れ者が」
王子が怒りで我を忘れて私に向かって…腕を振りかざした。
殴られる!そう思って目を瞑って身を固くした。
「待て!」
「お待ち下さい!」
二つの声が聞こえ、飛んでこない拳に恐る恐る目を開けると、私の目の前に広い背中と流れる銀色の髪が見えた。
「え…」
「邪魔をするか、アドルファス。父上、お離しください」
「落ち着け、エルウィン」
「しかし…」
「陛下の仰るとおりです」
どうやら『待て』と言ったのは国王で、私の前に背中を向けているのがアドルファスという人らしい。
彼は足元に手をかざして何やら呟いた。
割れて飛び散った破片が掃除機に吸い込まれるように集まっていく。
「マルシャル…後で復元の呪文を」
「は、はい」
集めた欠片を魔塔主に渡す。
「怪我はありませんか?」
「え、あ、は、はい…」
「きゃっ」
振り返った男性を見て、私は息を呑んだだけだが、財前さんが小さく驚いて声を出した。
振り向いた男性は顔面の左側を仮面で覆っていた。
しかし彼は財前さんの方をちらりと見て優しく微笑んだ。仮面を見て驚かれるのは慣れているのかもしれない。
仮面の下に何があるかわからないが、見えている片方の顔だけを見てもかなりの男前だ。アイスブルーの瞳が私の頭から足元へと視線を巡らせる。
「だ、大丈夫…です」
じっと見られて照れくさい気持ちになる。
「アドルファス、どうだ?」
国王が怪我の有無を訊ねる。大丈夫だと言ったのが信用されていない。
「どうやら怪我はなさそうですね」
上から下、下から上に二往復し怪我がないことを確信すると、もう一度優しく微笑む。
「それは重畳」
「父上、何が重畳ですか、この女は私に意見し貴重な『判定の玉』を壊したのですよ」
「短気なのはそなたの悪い所だ。確かに『判定の玉』は貴重だが、あくまで道具。壊れるのは必然。破片も集めたのでマルシャルが復元する」
国王に言われて魔塔の主も頷く。
「形は何とかなりますが、再び『判定の玉』として使えるようになるのは少しかかるでしょう」
時間はかかっても、割れた珠が元に戻ると聞いて少しほっとした。
「元に戻ると言っても、この女が余計な口出しをしなければ、壊れることもなかった」
引き下がれず、王子はまた私を責めた。
私に笑顔を向けていた仮面の男性の顔つきが険しくなった。王子の態度が気に入らないのだろう。
「そもそもいきなり腰を抱いて連れ去ろうとしたのは、こちらの女性…失礼、お名前は何とおっしゃいますか?」
丁寧な物腰で軽く会釈すると、さらりと白銀の髪が流れた。
「向先…唯奈…姓が向先で名前が唯奈です」
王子と違い私にも丁寧に接してくれる彼には好感が持てる。
「厶…ムコサー…難しいですね。ユイナ殿とお呼びしてもよろしいですか?」
「は、はあ…」
初対面で名前を呼ばれるのは抵抗があるが、王子がいきなり財前さんを名前で呼んだのと違い、先に確認を取ろうとしたことで、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
でも財前さんの名も私の名も彼らには発音し難いのかも知れない。
「向先が言い難いなら仕方ありませんね」
「ありがとうございます。あなたもレイ殿とお呼びさせていただいて構いませんか」
「…あ、はい」
財前さんがぎこちない返事をした。
「私のことはアドルファスとお呼びください」
「アドルファス…さん、じゃなくて…アドルファス…殿…」
「ただのアドルファス…呼び捨てでも」
「いえ、そういうわけにはいきません」
いくら優しくされても、よく知りもしないうちから呼び捨てはできないと、きっぱりと提案を断った。
「そうですか…まあ、そのうちに…ところで、先程の質問ですが…」
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