9 / 118
9 保健室の先生
しおりを挟む
国王の言うように互いのことを少しでも知るためには、訊かれたことは出来るだけ答えるのは構わない。
一体どんなことを訊かれるのか身構えた。
「先程から聖女殿があなたのことを『先生』と呼ばれていますが、お二人は師弟関係なのですか?」
どんなことを訊かれるのかと身構えたが、思っていたのとは違った。視線が合った財前さんも同じように思ったらしい。
「師弟関係かと言われれば違うと思います。一応私も教員免許…教師の資格を取っていますが、学問を教えているわけではありません」
「向先先生は保健室の先生です」
「ほけ…?」
それも説明が必要なんだと思った。日本では学校に保健室があるのが当たり前なので、わかりきったことを説明するのは難しい。
「保健室は、えっと…学校にあって…」
「学校を作る時には設置しなくてはいけない設備があり、保健室もそのひとつです。保健室は生徒やそこに勤める教員の健康管理や健康相談などを行い、怪我の手当をしたり休養が必要な人を休ませることもあります」
財前さんの説明を引き継ぐ。
「先生は聴き上手なので、皆色々相談に来てましたよね」
「大抵は勉強がいやだの夏の体育は暑すぎるだの愚痴だったけどね」
「たい…何とかがわからないですが、楽しそうですね」
「そうだな。怪我や体の不調を治すだけでなく、話も聞いてくれるのか」
「体育は授業の科目のひとつで、座って勉強するだけでなく、運動の仕方を教えます」
「剣術の鍛錬のようなものか」
質問したアドキンスさんだけでなく、国王やその場にいる皆がそんな場所があるのかと、自分たちと世界にないことに興味深く聞いていた。
「いえ、戦い方は教えません。普通に健康な体を作るためです」
こっちは当たり前のように戦い方を教えるんだ。異世界にいるのだと実感する。
話をしているうちに、さっきの剣呑さが消えて和んだ雰囲気になっていた。
私がお世話になることになったレインズフォードさんと、このアドキンスさんはあまり関係が良好とは言えないのだろう。
「一番皆が盛り上がるのが恋愛相談ですよね。この前も先生が合コンに行った話で…」
「ちょ、ちょっと財前さん、それはここでは…」
合コンの話になりそうになって慌てて財前さんの口を塞いだ。
一週間前、皆に問い詰められて最近参加した合コンの話をした。大学時代の友人に無理矢理欠員が出たからと誘われたが、その時知り合った人と何回かデートしていることを白状させられた。
いくらなんでもこの場で合コンの話はまずい。
「どうかされたか?」
「あ、い、いえ…まあ、私の仕事の内容はそんなところです」
「では、ユイナ殿は仕事に就かれていたのですね」
アドキンスさんはまだ何か訊ねたそうな様子を見せた。
「もうそのくらいでよろしいのではありませんか? 陛下、そろそろお二人も解放してさしあげてはいかがでしょう」
「うむ、そうだな。異世界の話はかなり興味深いが、いつまでも拘束するのも申し訳ない」
国王は今度はレインズフォード卿の意見を受け入れた。
「では、聖女殿は神殿に、ユイナ殿はレインズフォード卿の屋敷で過ごすということで、今後魔巣窟の本格的な消滅に向けて各自それぞれの任に当たれ」
「はっ」
「御意」
国王の下知にそれぞれが応え、その場は解散になった。
「それじゃあ、先生、また」
「財前さんも、無理しないでね」
巻き込まれた私と違い財前さんはここで与えられた役割がある。いずれ元の世界に戻れる方法が見つかった時、もし聖女の役割が終わっていたなら一緒に戻れたらいいなと思う。
「聖女殿、神官長をご紹介します。こちらへ」
「あ、はい、また会いに来てください」
財前さんが離れていく姿を見送る。
若いのに自分の使命を自覚した姿に、ちょっと感動してしまう。
「先程は失礼しました」
声をかけられ振り向くと、アドキンスさんがすぐ側にいた。
遠くでわからなかったが、その瞳はきれいな琥珀色で、猫の目のようだ。顔立ちも整っていて、この世界にはイケメンしかいないのかと思ってしまう。
「いえ…」
「ユイナ殿」
また呼ばれて反対側を向くと、レインズフォード卿が歩いて来るところだった。
左手に魔法使いの人が持っていたのとは違う杖を突きながら歩いてくる。さっきは持っていなかったけど、足が悪いのだろうか。
「レインズフォード卿」
「馬車を用意しています。我が家へご案内しましょう」
杖は突いているが足が長く、俊敏な動きであっという間に目の前にたどり着いた。
彼もアドキンスさんも背が高く、身長百六十そこそこの私はかなり上を見上げなければならない。
「レインズフォード卿、もう少し…」
「アドキンス、マルシャル殿があちらで待っています。主を待たせてはいけませんね」
話しかけようとしたアドキンスさんを遮り、レインズフォード卿は私に更に一歩近づいた。
「さあ、我々もまいりましょう。お疲れになったのではありませんか、早く戻って我が家でゆっくりしてください」
確かに今朝は職員会議があって出勤もいつもより早く、夏の暑さで保健室を訪れる生徒も多かった。極めつけは異世界召喚だ。パンストを脱いだ裸足の足でパンプスも痛い。
「あの、これから色々とお世話になります。どれくらいの間お邪魔することになるかわかりませんが、ふつつか者ですがよろしくお願いします」
社会人としてこれからお世話になる方に深々とお辞儀をした。
「それから…」
レインズフォード卿が何か言う前に、今度はアドキンスさんの方を向いてまたお辞儀する。
「私を元の世界に戻す方法について、ご協力感謝いたします。大変だとは思いますがよろしくお願いします」
頭を上げると二人は共にポカンとした顔をしていた。
あれ、何か変なことを言ったかな?
一体どんなことを訊かれるのか身構えた。
「先程から聖女殿があなたのことを『先生』と呼ばれていますが、お二人は師弟関係なのですか?」
どんなことを訊かれるのかと身構えたが、思っていたのとは違った。視線が合った財前さんも同じように思ったらしい。
「師弟関係かと言われれば違うと思います。一応私も教員免許…教師の資格を取っていますが、学問を教えているわけではありません」
「向先先生は保健室の先生です」
「ほけ…?」
それも説明が必要なんだと思った。日本では学校に保健室があるのが当たり前なので、わかりきったことを説明するのは難しい。
「保健室は、えっと…学校にあって…」
「学校を作る時には設置しなくてはいけない設備があり、保健室もそのひとつです。保健室は生徒やそこに勤める教員の健康管理や健康相談などを行い、怪我の手当をしたり休養が必要な人を休ませることもあります」
財前さんの説明を引き継ぐ。
「先生は聴き上手なので、皆色々相談に来てましたよね」
「大抵は勉強がいやだの夏の体育は暑すぎるだの愚痴だったけどね」
「たい…何とかがわからないですが、楽しそうですね」
「そうだな。怪我や体の不調を治すだけでなく、話も聞いてくれるのか」
「体育は授業の科目のひとつで、座って勉強するだけでなく、運動の仕方を教えます」
「剣術の鍛錬のようなものか」
質問したアドキンスさんだけでなく、国王やその場にいる皆がそんな場所があるのかと、自分たちと世界にないことに興味深く聞いていた。
「いえ、戦い方は教えません。普通に健康な体を作るためです」
こっちは当たり前のように戦い方を教えるんだ。異世界にいるのだと実感する。
話をしているうちに、さっきの剣呑さが消えて和んだ雰囲気になっていた。
私がお世話になることになったレインズフォードさんと、このアドキンスさんはあまり関係が良好とは言えないのだろう。
「一番皆が盛り上がるのが恋愛相談ですよね。この前も先生が合コンに行った話で…」
「ちょ、ちょっと財前さん、それはここでは…」
合コンの話になりそうになって慌てて財前さんの口を塞いだ。
一週間前、皆に問い詰められて最近参加した合コンの話をした。大学時代の友人に無理矢理欠員が出たからと誘われたが、その時知り合った人と何回かデートしていることを白状させられた。
いくらなんでもこの場で合コンの話はまずい。
「どうかされたか?」
「あ、い、いえ…まあ、私の仕事の内容はそんなところです」
「では、ユイナ殿は仕事に就かれていたのですね」
アドキンスさんはまだ何か訊ねたそうな様子を見せた。
「もうそのくらいでよろしいのではありませんか? 陛下、そろそろお二人も解放してさしあげてはいかがでしょう」
「うむ、そうだな。異世界の話はかなり興味深いが、いつまでも拘束するのも申し訳ない」
国王は今度はレインズフォード卿の意見を受け入れた。
「では、聖女殿は神殿に、ユイナ殿はレインズフォード卿の屋敷で過ごすということで、今後魔巣窟の本格的な消滅に向けて各自それぞれの任に当たれ」
「はっ」
「御意」
国王の下知にそれぞれが応え、その場は解散になった。
「それじゃあ、先生、また」
「財前さんも、無理しないでね」
巻き込まれた私と違い財前さんはここで与えられた役割がある。いずれ元の世界に戻れる方法が見つかった時、もし聖女の役割が終わっていたなら一緒に戻れたらいいなと思う。
「聖女殿、神官長をご紹介します。こちらへ」
「あ、はい、また会いに来てください」
財前さんが離れていく姿を見送る。
若いのに自分の使命を自覚した姿に、ちょっと感動してしまう。
「先程は失礼しました」
声をかけられ振り向くと、アドキンスさんがすぐ側にいた。
遠くでわからなかったが、その瞳はきれいな琥珀色で、猫の目のようだ。顔立ちも整っていて、この世界にはイケメンしかいないのかと思ってしまう。
「いえ…」
「ユイナ殿」
また呼ばれて反対側を向くと、レインズフォード卿が歩いて来るところだった。
左手に魔法使いの人が持っていたのとは違う杖を突きながら歩いてくる。さっきは持っていなかったけど、足が悪いのだろうか。
「レインズフォード卿」
「馬車を用意しています。我が家へご案内しましょう」
杖は突いているが足が長く、俊敏な動きであっという間に目の前にたどり着いた。
彼もアドキンスさんも背が高く、身長百六十そこそこの私はかなり上を見上げなければならない。
「レインズフォード卿、もう少し…」
「アドキンス、マルシャル殿があちらで待っています。主を待たせてはいけませんね」
話しかけようとしたアドキンスさんを遮り、レインズフォード卿は私に更に一歩近づいた。
「さあ、我々もまいりましょう。お疲れになったのではありませんか、早く戻って我が家でゆっくりしてください」
確かに今朝は職員会議があって出勤もいつもより早く、夏の暑さで保健室を訪れる生徒も多かった。極めつけは異世界召喚だ。パンストを脱いだ裸足の足でパンプスも痛い。
「あの、これから色々とお世話になります。どれくらいの間お邪魔することになるかわかりませんが、ふつつか者ですがよろしくお願いします」
社会人としてこれからお世話になる方に深々とお辞儀をした。
「それから…」
レインズフォード卿が何か言う前に、今度はアドキンスさんの方を向いてまたお辞儀する。
「私を元の世界に戻す方法について、ご協力感謝いたします。大変だとは思いますがよろしくお願いします」
頭を上げると二人は共にポカンとした顔をしていた。
あれ、何か変なことを言ったかな?
17
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】
日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
料理がマズいと言われ続けて限界がきたので、もっとマズいものを作って差し上げたら旦那様に泣かれてしまいました
九条 雛
恋愛
和平の証として魔族の元へと嫁がされたエルネットは、作った料理が不味いと毎日なじられ続けていた。
それでも魔族の慣わしとして、家族の口へと入る料理は彼女が作らねばならないらしい。
侯爵家の令嬢で、料理をしたことがなかった自分が悪いのだと努力を続けるエルネットだったが、それでも夫は彼女の料理を不味いと言い捨て、愛人の元へ通いに行くと公言する。
ほとんど限界を迎えていた彼女の中で、ついに何かがプツリと切れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる