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12 驚きの連続
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「ユイナ殿こそ、そうやって人の良いところを見つけて言葉にできるのは素晴らしいことだと思います」
褒めたら逆に褒め返された。
「私は学問を教えるわけではないので、成績がどうとかで生徒たちを評価しません。私のところに来る生徒たちの中には、そういう評価をされることに疲れている子も多いので、出来るだけその子の良いところを見つけてあげようと思っています」
立派すぎる両親。出来過ぎる兄と姉。成績もそこそこだった私は常に家族の中で劣等感を味わっていた。
そんな時に癒やしの場だったのが保健室だった。
「素晴らしい心がけです。ユイナ殿のようになれるでしょうか」
「そう言えば、どこかで指導されているとか」
「今は士官学校で指導をしています。私が教えるのは主に実技なのですが。傷を負い、それまで目指して歩いてきた道を閉ざされた気持ちになりましたが、陛下が新しい道を与えてくださいました」
目指していた道を閉ざされ、新しい生き方を選ばなければならなくなった。それでも人は生きていかなければならない。死の淵を彷徨った上に人生を一からやり直すのは大変だったろう。
「そのような顔をしないでください。騎士としての人生に未練はありますが、怪我をしたことを後悔していません」
「あ、すみません」
顔に出ていたのか、かえって気を遣わせてしまった。
「謝らないでください。でもあなたに心配してもらえるなら怪我もいいものですね。優しくて思いやりがあって、素敵な方だ。我が家にあなたを迎えられて光栄です」
「はあ…」
一体この人は私をどうしたいんだろう。涼しい顔をして、こうストレートに褒められると反応に困ってしまう。聖女である財前さんとたまたま一緒にいて、異世界召喚に巻き込まれたのを気の毒に思ってくれているのはわかる。でも彼の言葉の端々からそれ以外の気持ちがあるように窺える。
色々と文化も風習も常識も違うから、彼の言動をどう受け止めていいのかわからない。
ただの親切心からの態度かもしれないのに。きっとそうに違いないのに、口説かれているように思える。
「そろそろ屋敷に着きます。事前に連絡を入れて、あなたを迎え入れる準備をするよう伝えてありますが、気に入っていただけるでしょうか」
レインズフォード卿がカーテンをちらりと開けて外の様子を見て言った。
彼の家が近づくと急に今まで思い当たらなかった疑問が湧いた。
「いきなり私のような者を滞在させることになって、奥様は何もおっしゃらなかったですか?」
夫が見ず知らずの異世界人、しかも女を客だと言って連れてきたら、あまりいい顔をしないのではないだろうか。
「誰が?」
外を見ていた彼が驚いて振り向き聞き返してきた。
「奥様…えっと、レディ・シンシアでしたっけ」
陛下がそんな名前を言っていた。
「ああ…レディ・シンクレアのことですか。彼女は私の妻ではありません。祖母です。私には妻も結婚を約束している女性もいません」
口角を僅かに上げて彼が微笑んだ。
「妻がいるように見えましたか?」
「いえ、そう言うわけではなく…」
「療養する母に付き添って父が領地に住むことを決め、ついでに私に家督を譲って当主も引退しました。私が独身で頼りないと祖母が女主人の役を買って出てくれているのです」
と言うことは、家には彼と彼の祖母しかいない?
そんな所に私が厄介になっていいんだろうか。
この世界にどれくらいいるかわからないけれど、少しでも早く出ていった方がいいかも知れない。
馬車が止まり扉が開いて、先にレインズフォード卿が降りた。
「おかえりなさいませ」
「ただいま、ディーター、指示したことは手配できたか?」
レインズフォード卿を出迎える男性の声が聞こえた。彼と祖母以外にも人がいるみたいだ。
「はい、抜かりなく」
「ご苦労。さあ、ユイナ殿。今度はちゃんと私の手を取ってください」
外からレインズフォード卿が私に右手を伸ばした。
「あ…」
さっき馬車に乗るときも彼が手を差し出してくれていた。私はそれを無視して一人で馬車に乗り込んでしまった。
「すみません。こういう扱いは慣れていなくて…さっきも決して無視したわけでは」
「わかっていますよ。ですが、ここにいる間は慣れてください」
更に前に彼が手を伸ばし、少し躊躇ってその上に手を置いた。
「え!ここ?」
降り立った先にあったのは高く広いポーチを兼ね備えた重厚な両開きの扉の玄関。そして見上げるのにひっくり返りそうになるくらい大きな屋敷が聳え立つ。
ちょっとお金持ちの家くらいに思っていたけど、これは想像より大きい。部屋数もいくつあるのか。玄関ポーチだけで私の住んでいた部屋がすっぽり収まりそうだ。
「ディーター、こちらがユイナ殿だ。ユイナ殿、こちらは我が家の優秀な筆頭執事のディーターだ」
「こんばんは」
「いらっしゃいませ、ユイナ様」
レインズフォード卿が紹介してくれて互いに会釈し合う。
「それから、大奥様が居間でお待ちです。お帰りになられたらお客様と一緒にお連れするよう申し使っております」
ディーターさんがそう告げると、レインズフォード卿がため息を吐いた。
「逃げても仕方ない。明日まで待ってくれるわけがないか。わかった。今から行くと伝えてくれ」
「畏まりました」
ディーターさんが先に中へと戻り、それを見送ってからレインズフォード卿が私の方を向いた。
「今から祖母に会いに行きます。疲れているでしょうが、もう少しお付き合いください。彼女は厳しいところもあるが、あなたのことを気にいるでしょう」
『淑女の手本』と言われていた人物に会うのかと思うと緊張が走る。
「どうしてわかるのですか」
「私の勘です」
「勘…ですか」
「私の勘は当たるんです。その勘で幾度もの修羅場を乗り越えてきたんですから。さあ、行きましょう。祖母は待たされるのが嫌いなんです」
彼は掴んだ私の手を軽く引き寄せ自分の肘に絡めさせた。
褒めたら逆に褒め返された。
「私は学問を教えるわけではないので、成績がどうとかで生徒たちを評価しません。私のところに来る生徒たちの中には、そういう評価をされることに疲れている子も多いので、出来るだけその子の良いところを見つけてあげようと思っています」
立派すぎる両親。出来過ぎる兄と姉。成績もそこそこだった私は常に家族の中で劣等感を味わっていた。
そんな時に癒やしの場だったのが保健室だった。
「素晴らしい心がけです。ユイナ殿のようになれるでしょうか」
「そう言えば、どこかで指導されているとか」
「今は士官学校で指導をしています。私が教えるのは主に実技なのですが。傷を負い、それまで目指して歩いてきた道を閉ざされた気持ちになりましたが、陛下が新しい道を与えてくださいました」
目指していた道を閉ざされ、新しい生き方を選ばなければならなくなった。それでも人は生きていかなければならない。死の淵を彷徨った上に人生を一からやり直すのは大変だったろう。
「そのような顔をしないでください。騎士としての人生に未練はありますが、怪我をしたことを後悔していません」
「あ、すみません」
顔に出ていたのか、かえって気を遣わせてしまった。
「謝らないでください。でもあなたに心配してもらえるなら怪我もいいものですね。優しくて思いやりがあって、素敵な方だ。我が家にあなたを迎えられて光栄です」
「はあ…」
一体この人は私をどうしたいんだろう。涼しい顔をして、こうストレートに褒められると反応に困ってしまう。聖女である財前さんとたまたま一緒にいて、異世界召喚に巻き込まれたのを気の毒に思ってくれているのはわかる。でも彼の言葉の端々からそれ以外の気持ちがあるように窺える。
色々と文化も風習も常識も違うから、彼の言動をどう受け止めていいのかわからない。
ただの親切心からの態度かもしれないのに。きっとそうに違いないのに、口説かれているように思える。
「そろそろ屋敷に着きます。事前に連絡を入れて、あなたを迎え入れる準備をするよう伝えてありますが、気に入っていただけるでしょうか」
レインズフォード卿がカーテンをちらりと開けて外の様子を見て言った。
彼の家が近づくと急に今まで思い当たらなかった疑問が湧いた。
「いきなり私のような者を滞在させることになって、奥様は何もおっしゃらなかったですか?」
夫が見ず知らずの異世界人、しかも女を客だと言って連れてきたら、あまりいい顔をしないのではないだろうか。
「誰が?」
外を見ていた彼が驚いて振り向き聞き返してきた。
「奥様…えっと、レディ・シンシアでしたっけ」
陛下がそんな名前を言っていた。
「ああ…レディ・シンクレアのことですか。彼女は私の妻ではありません。祖母です。私には妻も結婚を約束している女性もいません」
口角を僅かに上げて彼が微笑んだ。
「妻がいるように見えましたか?」
「いえ、そう言うわけではなく…」
「療養する母に付き添って父が領地に住むことを決め、ついでに私に家督を譲って当主も引退しました。私が独身で頼りないと祖母が女主人の役を買って出てくれているのです」
と言うことは、家には彼と彼の祖母しかいない?
そんな所に私が厄介になっていいんだろうか。
この世界にどれくらいいるかわからないけれど、少しでも早く出ていった方がいいかも知れない。
馬車が止まり扉が開いて、先にレインズフォード卿が降りた。
「おかえりなさいませ」
「ただいま、ディーター、指示したことは手配できたか?」
レインズフォード卿を出迎える男性の声が聞こえた。彼と祖母以外にも人がいるみたいだ。
「はい、抜かりなく」
「ご苦労。さあ、ユイナ殿。今度はちゃんと私の手を取ってください」
外からレインズフォード卿が私に右手を伸ばした。
「あ…」
さっき馬車に乗るときも彼が手を差し出してくれていた。私はそれを無視して一人で馬車に乗り込んでしまった。
「すみません。こういう扱いは慣れていなくて…さっきも決して無視したわけでは」
「わかっていますよ。ですが、ここにいる間は慣れてください」
更に前に彼が手を伸ばし、少し躊躇ってその上に手を置いた。
「え!ここ?」
降り立った先にあったのは高く広いポーチを兼ね備えた重厚な両開きの扉の玄関。そして見上げるのにひっくり返りそうになるくらい大きな屋敷が聳え立つ。
ちょっとお金持ちの家くらいに思っていたけど、これは想像より大きい。部屋数もいくつあるのか。玄関ポーチだけで私の住んでいた部屋がすっぽり収まりそうだ。
「ディーター、こちらがユイナ殿だ。ユイナ殿、こちらは我が家の優秀な筆頭執事のディーターだ」
「こんばんは」
「いらっしゃいませ、ユイナ様」
レインズフォード卿が紹介してくれて互いに会釈し合う。
「それから、大奥様が居間でお待ちです。お帰りになられたらお客様と一緒にお連れするよう申し使っております」
ディーターさんがそう告げると、レインズフォード卿がため息を吐いた。
「逃げても仕方ない。明日まで待ってくれるわけがないか。わかった。今から行くと伝えてくれ」
「畏まりました」
ディーターさんが先に中へと戻り、それを見送ってからレインズフォード卿が私の方を向いた。
「今から祖母に会いに行きます。疲れているでしょうが、もう少しお付き合いください。彼女は厳しいところもあるが、あなたのことを気にいるでしょう」
『淑女の手本』と言われていた人物に会うのかと思うと緊張が走る。
「どうしてわかるのですか」
「私の勘です」
「勘…ですか」
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彼は掴んだ私の手を軽く引き寄せ自分の肘に絡めさせた。
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