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11 気になること
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「お訊きしてもいいですか?」
馬車が動き出し、何か話題をと思って話を切り出す。同じ高さの座席に座っていても前に伸ばした足の長さも座高の高さも違う。
「何でしょう」
彼はさっきの私のように身構える。何を聞いてくるのかと口元が引き締まり、緊張しているのがわかる。
「ここの方たちは皆さん背が高いのですね。髪も長いですし」
「………」
変なことを言ってしまったのか、レインズフォード卿は微妙な表情をした。保健室や体育のこと同様、こっちの世界ではあたり前のこと過ぎて、馬鹿な質問に聞こえたのかも。でも聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言う。目にするものすべてが物珍しく、私の好奇心が疼く。それに、何となく彼は私を馬鹿にしたりしないと感じる。
「ユイナ殿から見たら奇妙なことなのですね。お国の方は皆ユイナ殿くらいの背丈なのですか? 聖女殿はあなたより背が高いようでしたが」
「彼女は私より背は高いのは事実ですが、民族的には低い方かも…でも世代が違うと体格も変わってきていて、昔はもっと背が低い人が多かったと思います」
「髪が長いのは、少しでも多く魔力を溜めるためです。髪も体の一部ですから」
髪の長さにそんな理由があるとは思わなかった。
「おもしろいですね。でも髪がいつまでもあるとは限らないのでは? 抜けたりしてなくなることもあると…」
髪が細くなったり剥げたりと、変わらない人もいるが、年齢や環境のせいで望むと望むまいと髪質は変わり、抜け落ちる。
「魔力のない者なら量が少なくなる者はいますが、魔力がある限り髪が減ることはありません」
つまり、魔力があればいつまでも剥げない。強力な育毛剤のようなもの。
「私の世界では髪をわざわざ植えたりカツラを被る人もいるんです。髪を生やすために薬を使ったり努力している人が大勢います。そんな話を聞いたらきっと羨ましがります」
「まだまだ知らないことがあるものだ。髪は我々にとっては魔力の象徴。しかし異なる世界では魔力とはまったく関係がないもの」
掬い上げた彼の髪がさらりと手から流れ落ちる。銀色が馬車の中を照らす灯りを受けて輝く。その美しさに目を奪われた。
見惚れていると彼が顔をこちらに向けた。
左顔面を覆う黒に近い紫色のビロードの仮面が目に入った。
「てっきり私の仮面のことを訊かれるのかと思いました」
それであんな風に緊張したのか。
「あ…その…事情はあるとは思いましたが、訊いてもいいのかわかりませんし、個人的なことなら踏み込んでお訊ねするのもどうかと思いましたから」
「いずれ話題に上るでしょうし、先にお伝えしておきます。これは任務中に負った怪我ですから。お見せすることははばかられますが、左半身に重度の火傷のような痕と獣の爪と牙で噛まれた傷があります。時折足が痙攣するので、杖も持ち歩いています」
「それは、大変だったのでしょうね」
それ以上のことは言えなかった。私には彼の痛みは想像しかできない。獣に襲われた人のニュースを見たことはあるが、傷までは見たことがない。
「もう五年になります。最初は周りも気を遣っていましたが、慣れてしまえばなんてことはありません」
「それでも、その怪我を負った時の痛みや恐怖は記憶に残っているのではありませんか」
体の傷は時間と共によくなっても、心の痛みは案外しぶとく残る。それがトラウマというものだ。どんなに屈強な人でも耐え難い苦しみというものはある。PTSDという症状もある。
「魔法では治らなかったのですか」
ここでは魔法が使えるんだった。魔法はよくわからないが、高度な治癒魔法で失った腕などが戻るようなイメージがあるが、そこまではないのだろうか。
「回復魔法で小さな怪我や軽い病なら治せます。それ以上に大きな怪我は神官の神力でなければ無理です。ですが大量に出血した場合、失われた血を取り戻すことはできません。また、病も生まれた時からの持病や、悪性腫瘍、老化はどうすることもできません」
医学というものがこの世界でどんな位置づけなのか、そもそも存在するのかもわからない。
どんなに医療技術や薬が発達しても、助からない命はある。それはこの世界でも同じ。
「私の怪我は魔巣窟の影響を受けた魔物によるもの。私が退けば後ろにいる仲間たちが危なかった。怪我を負った時に直ぐ側に神官がいなかったこともありますが、状態が思ったより酷く、神官の神力では命を繋ぎ止めるので精一杯でした」
「魔法も万能ではないんですね」
「何事にも限界はあります。仲間の被害が最小限で済み、こうして命が助かっただけでも運が良かったと思わなければ。それに、」
「そんな大怪我を負われて、そう考えられるなんて、尊敬します」
「尊敬?」
「仲間を護る為に身を呈して矢面に立つなんて、とても勇気がいることです。それにそれ程の怪我を負ったら、どうして自分がこんな辛い目にと、恨むこともあります。なのに、悲観せずそう言い切れる強い心をお持ちなんですね」
自分の境遇を後ろ向きではなく前向きに考える人は尊敬する。
ともすれば逆の思考に陥りがちな自分とは違う強さに、感銘を覚えた。
「なんだか…照れますね。この年齢になって人に褒められることなどなかなかないので」
体は大きいのに、少し頬を染めてはにかむ。イケメンのそんな表情が間近で見られて得した気分になった。
馬車が動き出し、何か話題をと思って話を切り出す。同じ高さの座席に座っていても前に伸ばした足の長さも座高の高さも違う。
「何でしょう」
彼はさっきの私のように身構える。何を聞いてくるのかと口元が引き締まり、緊張しているのがわかる。
「ここの方たちは皆さん背が高いのですね。髪も長いですし」
「………」
変なことを言ってしまったのか、レインズフォード卿は微妙な表情をした。保健室や体育のこと同様、こっちの世界ではあたり前のこと過ぎて、馬鹿な質問に聞こえたのかも。でも聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言う。目にするものすべてが物珍しく、私の好奇心が疼く。それに、何となく彼は私を馬鹿にしたりしないと感じる。
「ユイナ殿から見たら奇妙なことなのですね。お国の方は皆ユイナ殿くらいの背丈なのですか? 聖女殿はあなたより背が高いようでしたが」
「彼女は私より背は高いのは事実ですが、民族的には低い方かも…でも世代が違うと体格も変わってきていて、昔はもっと背が低い人が多かったと思います」
「髪が長いのは、少しでも多く魔力を溜めるためです。髪も体の一部ですから」
髪の長さにそんな理由があるとは思わなかった。
「おもしろいですね。でも髪がいつまでもあるとは限らないのでは? 抜けたりしてなくなることもあると…」
髪が細くなったり剥げたりと、変わらない人もいるが、年齢や環境のせいで望むと望むまいと髪質は変わり、抜け落ちる。
「魔力のない者なら量が少なくなる者はいますが、魔力がある限り髪が減ることはありません」
つまり、魔力があればいつまでも剥げない。強力な育毛剤のようなもの。
「私の世界では髪をわざわざ植えたりカツラを被る人もいるんです。髪を生やすために薬を使ったり努力している人が大勢います。そんな話を聞いたらきっと羨ましがります」
「まだまだ知らないことがあるものだ。髪は我々にとっては魔力の象徴。しかし異なる世界では魔力とはまったく関係がないもの」
掬い上げた彼の髪がさらりと手から流れ落ちる。銀色が馬車の中を照らす灯りを受けて輝く。その美しさに目を奪われた。
見惚れていると彼が顔をこちらに向けた。
左顔面を覆う黒に近い紫色のビロードの仮面が目に入った。
「てっきり私の仮面のことを訊かれるのかと思いました」
それであんな風に緊張したのか。
「あ…その…事情はあるとは思いましたが、訊いてもいいのかわかりませんし、個人的なことなら踏み込んでお訊ねするのもどうかと思いましたから」
「いずれ話題に上るでしょうし、先にお伝えしておきます。これは任務中に負った怪我ですから。お見せすることははばかられますが、左半身に重度の火傷のような痕と獣の爪と牙で噛まれた傷があります。時折足が痙攣するので、杖も持ち歩いています」
「それは、大変だったのでしょうね」
それ以上のことは言えなかった。私には彼の痛みは想像しかできない。獣に襲われた人のニュースを見たことはあるが、傷までは見たことがない。
「もう五年になります。最初は周りも気を遣っていましたが、慣れてしまえばなんてことはありません」
「それでも、その怪我を負った時の痛みや恐怖は記憶に残っているのではありませんか」
体の傷は時間と共によくなっても、心の痛みは案外しぶとく残る。それがトラウマというものだ。どんなに屈強な人でも耐え難い苦しみというものはある。PTSDという症状もある。
「魔法では治らなかったのですか」
ここでは魔法が使えるんだった。魔法はよくわからないが、高度な治癒魔法で失った腕などが戻るようなイメージがあるが、そこまではないのだろうか。
「回復魔法で小さな怪我や軽い病なら治せます。それ以上に大きな怪我は神官の神力でなければ無理です。ですが大量に出血した場合、失われた血を取り戻すことはできません。また、病も生まれた時からの持病や、悪性腫瘍、老化はどうすることもできません」
医学というものがこの世界でどんな位置づけなのか、そもそも存在するのかもわからない。
どんなに医療技術や薬が発達しても、助からない命はある。それはこの世界でも同じ。
「私の怪我は魔巣窟の影響を受けた魔物によるもの。私が退けば後ろにいる仲間たちが危なかった。怪我を負った時に直ぐ側に神官がいなかったこともありますが、状態が思ったより酷く、神官の神力では命を繋ぎ止めるので精一杯でした」
「魔法も万能ではないんですね」
「何事にも限界はあります。仲間の被害が最小限で済み、こうして命が助かっただけでも運が良かったと思わなければ。それに、」
「そんな大怪我を負われて、そう考えられるなんて、尊敬します」
「尊敬?」
「仲間を護る為に身を呈して矢面に立つなんて、とても勇気がいることです。それにそれ程の怪我を負ったら、どうして自分がこんな辛い目にと、恨むこともあります。なのに、悲観せずそう言い切れる強い心をお持ちなんですね」
自分の境遇を後ろ向きではなく前向きに考える人は尊敬する。
ともすれば逆の思考に陥りがちな自分とは違う強さに、感銘を覚えた。
「なんだか…照れますね。この年齢になって人に褒められることなどなかなかないので」
体は大きいのに、少し頬を染めてはにかむ。イケメンのそんな表情が間近で見られて得した気分になった。
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