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20 残り香(アドルファス)
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「けれど彼女はいつかあなたからも、この世界からもいなくなるかも知れないのよ。彼女の大事にしてきたものが詰まった元の世界に戻ることを彼女が望めば、あなたは帰さなくてはいけない。ずっとあなたが言ってきたことでしょ」
「わかっています」
聖女召喚。
突然異世界に連れてこられ、否が応でも使命を果たせと迫られることの理不尽さを訴えてきた自分であれば、彼女の望みは第一に優先すべきこと。たとえ彼女と二度と会えなくなるとしても、どこまで彼女と親密になっていようと、それは覆せない。
「それに、彼女が仮面のあなたを恐れなかったとしても、いずれその全てを晒した時に彼女があなたを拒んだら、あなたはどうする? もし彼女が帰れるとなった時に、あなたは手放せるの? あなたにいくらか恩義は感じているだろうけど、彼女があなたを好きになる保証などないわ」
彼女は厳しい現実を突きつけてくる。
「あなたが街の娼館で抱く娼婦たちのように扱うなら話は別だけど、それで満足する程度なら彼女のことは諦めなさい」
「そんなつもりはありません」
仮面と服の下にこんな醜い姿が隠れていることを知ったら、彼女はどう思うだろうか。
もし、彼女と閨を共にする機会が訪れたら…服を全部脱がなくても、体を繋げることは出来る。必ずしも全てを見せる必要はない。
実際、怪我をしてから訪れた娼館ではそうしていた。
女達には目隠しをさせ、体を触らせることもせず、ただ女の下半身に自分のものをぶち込んだ。
しかし、彼女とはそれで満足出来るだろうか。
繋がる時は、あの左右で違う目と視線を交わしたい。あのきめ細かく柔らかそうな肌の温もりを直接感じたい。
「あなたの苦しむ姿を私は見たくないの。あなたが彼女に全力の思いをぶつけて、それが実を結ばなかったとしても、それでもあなたは彼女を側に置くのね」
「もし彼女が元の世界に戻ることを選んでも、その時もっとああすればよかった、こうしたかったと後悔はしたくないんです」
しなかったことの後悔はしたくない。部下を護って怪我をしたことも、もしあそこで躊躇ったことにより、あれ以上の犠牲が出たら、きっとそのことを後悔しただろう。
「わかりました。私はあなたがすることに口は出しません。ただし、彼女が本気で拒んだら、その時はあなたも諦めなさい」
「ありがとうございます」
「お礼を言われることではありません。私は彼女があなたを選ぶように仕向けるような協力はしません。ただ、我が家の大切な客人として対応するだけです」
それでも、レディ・シンクレアが力強い味方になることは間違いないないだろう。
レディ・シンクレアの部屋を出て自分の部屋へ戻った。
「後は自分でするから、もう下がれ」
「はい」
脱いだ服を片付けさせてから、侍従を下がらせた。
入浴もその後の寝仕度も人の手を煩わせる程ではない。
怪我をしてからは特に、自分で湯浴みから着替えまでしていた。
我が家で働く者たちは自分のこの傷を忌避はしない。しかしそれを痛ましく見つめる視線もまた見ていて辛い。
仮面を取り、鏡の前に立った。裸になった自分の姿を鏡で見ることは殆ど無くなった。
久しぶりに見る己の姿に、自分自身でも眉をひそめる。
目の周りは咄嗟に庇ったため、失明は免れたが、額と左側の頬から顎には火傷のように皮膚が引つれた痕が残った。左半身、鎖骨から肩、二の腕、肘、上腕から指先、胸から脇腹、腰、それから左肩甲骨にも同じような痕に加え、前からは見えないが大きな鉤爪で抉られた傷が背中全体に走っている。
傷と共に入り込んだ魔巣窟の瘴気が今でも体に残り、ふとした時に体の内側から蝕み発作を起こす。
そんな時は冷や汗が出て、一瞬息が出来なくなる。
大概は疲れが溜まった時や、魔力を使い過ぎで体力が落ちた時なので、五年も経てば発生を上手く抑え、調整出来るようになっていた。
ふと思い出し、先程空間魔法で格納した彼女の落とし物を取り出した。
掌に丸まって現れたそれを、風魔法で浮かして広げた。
不思議な未知の素材で出来たそれは広げると人の脚型になった。髪の毛より細い糸とキメ細かい網目が、彼の地の技術力を窺わせる。魔法が存在しない分、人の技術が発展したのだと想像出来る。
二つに別れた一方に穴が空き、網目が梯子のようになり広がっている。だから彼女はこれを脱いだのだろう。
二股に別れた先の付け根に視線を向ける。
女性の裸など何度も何人も見た。だからその部分が彼女のどの部分に触れていたのか容易に想像がつく。
僅かに残った香りをかき集め、それをぎゅっと丸めて濃縮する。
女のあそこの香りも嫌というほど嗅いできた。
彼女から薫ってきた匂いに混じり、女性のそれに似た匂いもする。まるで目の前に彼女がいるような気がして、体が反応した。
「まるで十代のガキだな」
女の持ち物で妄想して勃起するなど、信じられない。
今も昔も抱きたいと思えば女はいつでも手に入った。
彼女が今すぐ手に入らないなら、この高まりを別の誰かに収めてもらうことも出来る。
だがまだ彼女とどうなるかわからなくても、身も心も裏切りたくはない。過去は仕方ないにせよ、傍にいる限りは彼の人一筋であろうと心に決めた。それが彼女への礼儀であり己なりのケジメだ。
「名残惜しいが、これは返さないとな」
綻びを復元魔法で修復し手で丁寧に畳む。無機質な物なら修復は可能だ。判定の玉のように特殊なものはすぐにはいかないが、これくらいなら自分にとって造作はない。
異世界から彼女が持ち込むことが出来た数少ない物。これは彼女の手元にあるべきだ。
自分にはこの薫りだけで今は充分だ。
「わかっています」
聖女召喚。
突然異世界に連れてこられ、否が応でも使命を果たせと迫られることの理不尽さを訴えてきた自分であれば、彼女の望みは第一に優先すべきこと。たとえ彼女と二度と会えなくなるとしても、どこまで彼女と親密になっていようと、それは覆せない。
「それに、彼女が仮面のあなたを恐れなかったとしても、いずれその全てを晒した時に彼女があなたを拒んだら、あなたはどうする? もし彼女が帰れるとなった時に、あなたは手放せるの? あなたにいくらか恩義は感じているだろうけど、彼女があなたを好きになる保証などないわ」
彼女は厳しい現実を突きつけてくる。
「あなたが街の娼館で抱く娼婦たちのように扱うなら話は別だけど、それで満足する程度なら彼女のことは諦めなさい」
「そんなつもりはありません」
仮面と服の下にこんな醜い姿が隠れていることを知ったら、彼女はどう思うだろうか。
もし、彼女と閨を共にする機会が訪れたら…服を全部脱がなくても、体を繋げることは出来る。必ずしも全てを見せる必要はない。
実際、怪我をしてから訪れた娼館ではそうしていた。
女達には目隠しをさせ、体を触らせることもせず、ただ女の下半身に自分のものをぶち込んだ。
しかし、彼女とはそれで満足出来るだろうか。
繋がる時は、あの左右で違う目と視線を交わしたい。あのきめ細かく柔らかそうな肌の温もりを直接感じたい。
「あなたの苦しむ姿を私は見たくないの。あなたが彼女に全力の思いをぶつけて、それが実を結ばなかったとしても、それでもあなたは彼女を側に置くのね」
「もし彼女が元の世界に戻ることを選んでも、その時もっとああすればよかった、こうしたかったと後悔はしたくないんです」
しなかったことの後悔はしたくない。部下を護って怪我をしたことも、もしあそこで躊躇ったことにより、あれ以上の犠牲が出たら、きっとそのことを後悔しただろう。
「わかりました。私はあなたがすることに口は出しません。ただし、彼女が本気で拒んだら、その時はあなたも諦めなさい」
「ありがとうございます」
「お礼を言われることではありません。私は彼女があなたを選ぶように仕向けるような協力はしません。ただ、我が家の大切な客人として対応するだけです」
それでも、レディ・シンクレアが力強い味方になることは間違いないないだろう。
レディ・シンクレアの部屋を出て自分の部屋へ戻った。
「後は自分でするから、もう下がれ」
「はい」
脱いだ服を片付けさせてから、侍従を下がらせた。
入浴もその後の寝仕度も人の手を煩わせる程ではない。
怪我をしてからは特に、自分で湯浴みから着替えまでしていた。
我が家で働く者たちは自分のこの傷を忌避はしない。しかしそれを痛ましく見つめる視線もまた見ていて辛い。
仮面を取り、鏡の前に立った。裸になった自分の姿を鏡で見ることは殆ど無くなった。
久しぶりに見る己の姿に、自分自身でも眉をひそめる。
目の周りは咄嗟に庇ったため、失明は免れたが、額と左側の頬から顎には火傷のように皮膚が引つれた痕が残った。左半身、鎖骨から肩、二の腕、肘、上腕から指先、胸から脇腹、腰、それから左肩甲骨にも同じような痕に加え、前からは見えないが大きな鉤爪で抉られた傷が背中全体に走っている。
傷と共に入り込んだ魔巣窟の瘴気が今でも体に残り、ふとした時に体の内側から蝕み発作を起こす。
そんな時は冷や汗が出て、一瞬息が出来なくなる。
大概は疲れが溜まった時や、魔力を使い過ぎで体力が落ちた時なので、五年も経てば発生を上手く抑え、調整出来るようになっていた。
ふと思い出し、先程空間魔法で格納した彼女の落とし物を取り出した。
掌に丸まって現れたそれを、風魔法で浮かして広げた。
不思議な未知の素材で出来たそれは広げると人の脚型になった。髪の毛より細い糸とキメ細かい網目が、彼の地の技術力を窺わせる。魔法が存在しない分、人の技術が発展したのだと想像出来る。
二つに別れた一方に穴が空き、網目が梯子のようになり広がっている。だから彼女はこれを脱いだのだろう。
二股に別れた先の付け根に視線を向ける。
女性の裸など何度も何人も見た。だからその部分が彼女のどの部分に触れていたのか容易に想像がつく。
僅かに残った香りをかき集め、それをぎゅっと丸めて濃縮する。
女のあそこの香りも嫌というほど嗅いできた。
彼女から薫ってきた匂いに混じり、女性のそれに似た匂いもする。まるで目の前に彼女がいるような気がして、体が反応した。
「まるで十代のガキだな」
女の持ち物で妄想して勃起するなど、信じられない。
今も昔も抱きたいと思えば女はいつでも手に入った。
彼女が今すぐ手に入らないなら、この高まりを別の誰かに収めてもらうことも出来る。
だがまだ彼女とどうなるかわからなくても、身も心も裏切りたくはない。過去は仕方ないにせよ、傍にいる限りは彼の人一筋であろうと心に決めた。それが彼女への礼儀であり己なりのケジメだ。
「名残惜しいが、これは返さないとな」
綻びを復元魔法で修復し手で丁寧に畳む。無機質な物なら修復は可能だ。判定の玉のように特殊なものはすぐにはいかないが、これくらいなら自分にとって造作はない。
異世界から彼女が持ち込むことが出来た数少ない物。これは彼女の手元にあるべきだ。
自分にはこの薫りだけで今は充分だ。
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