26 / 118
26 厨房の秘めた宝
しおりを挟む
「ここが厨房です」
ベラさんに案内してもらい、やってきたのはこの家の厨房。
レストランの厨房を想像していたが、それよりはずっと広く、大きな竈と石窯、中央には石造りの調理台とぶ厚い天板の木のテーブルがあり、片側の壁には鉄の鍋やフライパンが掛かっていた。
奥には木の枝で編んだ籠にたくさんの食材が積まれている。
私達が入っていくとみんなの視線がこちらに向いた。
私が聖女と同じ異世界から来た人間だと言うことは、昨夜のうちに伝わっているそうだ。
私の見かけもさることながら、言動がこの世界の常識と異なっても、理解し受け入れるようにというアドルファスさんとレディ・シンクレアからお達しがあったらしい。
故に私がすることには自然と注目が集まる。
「ルディク」
ベラさんが名を呼ぶと、一番奥にいる男性がのそのそとやってきた。
背も高いが恰幅のいいグレイヘアの彼は、ベラさんの隣にいる私を胡散臭げに見下ろした。
「彼がここの責任者です。ルディク、この方が先程お話したユイナ様です」
「こんにちは、ユイナです。よろしくお願いします」
「どういう了見でここを見学されたいのですか? ここはお客様が出入りするような場所ではありませんよ」
挨拶もそこそこに疑問をぶつけて来た。
自分の領域に土足で踏み込まれると警戒しているんだろう。
「ルディク、失礼な物言いは控えなさい。旦那様と大奥様が許可されたのだから黙って従うまでです」
そんな彼の態度をベラさんが窘めた。
「見学…させていただいても構いませんか?」
「坊ちゃ…旦那様と大奥様が許可されたのを雇われ人の私が拒むことはできません」
「あの、誤解しないでください。私は文句を言いに来たのでも、あなたの仕事ぶりを監視に来たのでもありません。ただ、ここの食に興味があっただけなのです。私のいた所と同じなのか、違うならどんなものがあるのか知りたいだけです」
彼が警戒するのは、昨夜の食事を食べ切れなかった話が伝わっているからかも知れない。決して不満を伝えに来たのでも、彼の腕が悪いと言いたいのでもないと、先にことわった。
「興味…自分で調理するんですか?」
「もちろんです。アドルファスさん…こちらのご当主様に客人として迎えていただきましたが、元の世界では何の身分もない一般人でした。自分の食べるものは自分で作ってきました」
「イッパン? よくわかりませんが、つまり貴族ではないと言うことですか」
身分社会のここでは、一般人という言葉はここにはないらしい。でも私が高貴な身分でないことは伝わったのか、彼の警戒も少し緩んだ気がする。
「見て楽しいかどうかわかりませんが、こちらへどうぞ」
そう言って私をカウンターの内側へ案内してくれた。
竈には大小色々な魔石が付けられていて、それぞれ強火、中火、弱火で場所を使い分けている。
大きな肉の塊を焼く用に串刺しのロータリーオーブンのような場所もある。
水はお風呂場と同じように魔石が取り付けられた蛇口から出てくるが、井戸で汲んだのを水瓶に貯めてもいる。
「ここが肉の貯蔵庫だ」
奥の扉には魔石が埋め込まれた扉があって、その中は冷蔵庫のようになっていて、たくさんの肉が吊り下げられていた。
牛、豚、鶏以外にも鹿や鳩、ウサギもある。
狩猟時期ではないが、魔法の効果で腐敗を止めているので、いつでも食べられるのだとか。
そして中には私の知らない動物の肉もあった。
コカトリス、ビッグホーンブル、ジャイアントオークはよく知る鶏や牛、豚を更に大きくしたものらしく、味は少し劣るが主にここで働く人たちの賄いに使われるそうだ。
調味料は塩とコショウ、砂糖もあった。予想していたとおり醤油や味噌、味醂と言ったものは見当たらない。
「これはなんですか?」
麻袋に入れられた袋を開ける。
「それは市場で進められて買ったが、いまいち使い方がわからなくて…」
「トウガラシ?」
赤くて細いそれは、私の知るトウガラシに似ていた。
「そんな名前だったか…やたらと辛くて食べられたものじゃない。使い方わかるんですか」
「私の知っているものと同じなら、そのまま食べるのはきついかも」
香り付につかったり、刻んで薬味や漬けだれに使ったりアクセントとして使うにはちょうどいい。
「私の世界にも同じものがあります」
「ちょっとこっちへ来てくれ」
ルディクさんが貯蔵庫の奥へと私を連れて行った。
「おれは珍しいものを見るとつい売り子の口車に乗って色々買ってしまうんだが、どうも通り一遍の使い方しかできなくて、余ってしまって扱いに困ってる」
保存魔法がかけられているので鮮度はそのままの食材などがそこには納められていた。
そこにあったのはトマトやピーマン、なすにキャベツ、玉ねぎにじゃがいもと言った野菜類や、味噌や醤油などの調味料が格納されていた。
それは異世界にはないと思っていたものだった。
ベラさんに案内してもらい、やってきたのはこの家の厨房。
レストランの厨房を想像していたが、それよりはずっと広く、大きな竈と石窯、中央には石造りの調理台とぶ厚い天板の木のテーブルがあり、片側の壁には鉄の鍋やフライパンが掛かっていた。
奥には木の枝で編んだ籠にたくさんの食材が積まれている。
私達が入っていくとみんなの視線がこちらに向いた。
私が聖女と同じ異世界から来た人間だと言うことは、昨夜のうちに伝わっているそうだ。
私の見かけもさることながら、言動がこの世界の常識と異なっても、理解し受け入れるようにというアドルファスさんとレディ・シンクレアからお達しがあったらしい。
故に私がすることには自然と注目が集まる。
「ルディク」
ベラさんが名を呼ぶと、一番奥にいる男性がのそのそとやってきた。
背も高いが恰幅のいいグレイヘアの彼は、ベラさんの隣にいる私を胡散臭げに見下ろした。
「彼がここの責任者です。ルディク、この方が先程お話したユイナ様です」
「こんにちは、ユイナです。よろしくお願いします」
「どういう了見でここを見学されたいのですか? ここはお客様が出入りするような場所ではありませんよ」
挨拶もそこそこに疑問をぶつけて来た。
自分の領域に土足で踏み込まれると警戒しているんだろう。
「ルディク、失礼な物言いは控えなさい。旦那様と大奥様が許可されたのだから黙って従うまでです」
そんな彼の態度をベラさんが窘めた。
「見学…させていただいても構いませんか?」
「坊ちゃ…旦那様と大奥様が許可されたのを雇われ人の私が拒むことはできません」
「あの、誤解しないでください。私は文句を言いに来たのでも、あなたの仕事ぶりを監視に来たのでもありません。ただ、ここの食に興味があっただけなのです。私のいた所と同じなのか、違うならどんなものがあるのか知りたいだけです」
彼が警戒するのは、昨夜の食事を食べ切れなかった話が伝わっているからかも知れない。決して不満を伝えに来たのでも、彼の腕が悪いと言いたいのでもないと、先にことわった。
「興味…自分で調理するんですか?」
「もちろんです。アドルファスさん…こちらのご当主様に客人として迎えていただきましたが、元の世界では何の身分もない一般人でした。自分の食べるものは自分で作ってきました」
「イッパン? よくわかりませんが、つまり貴族ではないと言うことですか」
身分社会のここでは、一般人という言葉はここにはないらしい。でも私が高貴な身分でないことは伝わったのか、彼の警戒も少し緩んだ気がする。
「見て楽しいかどうかわかりませんが、こちらへどうぞ」
そう言って私をカウンターの内側へ案内してくれた。
竈には大小色々な魔石が付けられていて、それぞれ強火、中火、弱火で場所を使い分けている。
大きな肉の塊を焼く用に串刺しのロータリーオーブンのような場所もある。
水はお風呂場と同じように魔石が取り付けられた蛇口から出てくるが、井戸で汲んだのを水瓶に貯めてもいる。
「ここが肉の貯蔵庫だ」
奥の扉には魔石が埋め込まれた扉があって、その中は冷蔵庫のようになっていて、たくさんの肉が吊り下げられていた。
牛、豚、鶏以外にも鹿や鳩、ウサギもある。
狩猟時期ではないが、魔法の効果で腐敗を止めているので、いつでも食べられるのだとか。
そして中には私の知らない動物の肉もあった。
コカトリス、ビッグホーンブル、ジャイアントオークはよく知る鶏や牛、豚を更に大きくしたものらしく、味は少し劣るが主にここで働く人たちの賄いに使われるそうだ。
調味料は塩とコショウ、砂糖もあった。予想していたとおり醤油や味噌、味醂と言ったものは見当たらない。
「これはなんですか?」
麻袋に入れられた袋を開ける。
「それは市場で進められて買ったが、いまいち使い方がわからなくて…」
「トウガラシ?」
赤くて細いそれは、私の知るトウガラシに似ていた。
「そんな名前だったか…やたらと辛くて食べられたものじゃない。使い方わかるんですか」
「私の知っているものと同じなら、そのまま食べるのはきついかも」
香り付につかったり、刻んで薬味や漬けだれに使ったりアクセントとして使うにはちょうどいい。
「私の世界にも同じものがあります」
「ちょっとこっちへ来てくれ」
ルディクさんが貯蔵庫の奥へと私を連れて行った。
「おれは珍しいものを見るとつい売り子の口車に乗って色々買ってしまうんだが、どうも通り一遍の使い方しかできなくて、余ってしまって扱いに困ってる」
保存魔法がかけられているので鮮度はそのままの食材などがそこには納められていた。
そこにあったのはトマトやピーマン、なすにキャベツ、玉ねぎにじゃがいもと言った野菜類や、味噌や醤油などの調味料が格納されていた。
それは異世界にはないと思っていたものだった。
7
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】
日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
料理がマズいと言われ続けて限界がきたので、もっとマズいものを作って差し上げたら旦那様に泣かれてしまいました
九条 雛
恋愛
和平の証として魔族の元へと嫁がされたエルネットは、作った料理が不味いと毎日なじられ続けていた。
それでも魔族の慣わしとして、家族の口へと入る料理は彼女が作らねばならないらしい。
侯爵家の令嬢で、料理をしたことがなかった自分が悪いのだと努力を続けるエルネットだったが、それでも夫は彼女の料理を不味いと言い捨て、愛人の元へ通いに行くと公言する。
ほとんど限界を迎えていた彼女の中で、ついに何かがプツリと切れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる