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40 あっという間に
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「私の恋人になる人は幸せだとあなたは言った。なら、あなたがなるのはどうですか? 試してみます?」
「それ…本気…ですか?」
「先程言ったでしょ、ここで何か役割をと…『私の恋人』役というのはどうですか?」
恋人 こいびと コイビト koibito
色々な表記が頭に浮かぶ。
いきなりのことに思考が停止してうまく言葉が出てこない。
これは異世界のジョークか、本気か、アドルファスさんの表情からは判断できない。
もしかしたら「太陽」が「ホロン」、「月」が「ソル」というように、「こいびと」と読む別の言葉かもと一瞬思った。
でも、私が先に「恋人」について話した時は、私の知る意味で会話が成り立っていた。
だから意味は同じはず。
「戸惑うのもわかるが、冗談とか冷やかしではない。若干思いつきのところはあるが、本気だ」
身を屈め耳元で囁かれ、息が耳にかかる。
「念の為に訊くけど、出会った女性みんなを口説いたり…」
「口説く相手は選んでいます。誰でもいいわけではない。それに時間も関係ありません」
まだ出会ったばかりだという牽制も先に封じられてしまった。
真っ直ぐ見つめるアイスブルーの目にはからかっている気配もない。
異世界に召喚されるという非現実的な経験をして、目にするもの聞くもの何もかも驚きの連続だけど、これは別格。
「時間のことを言えば、本当ならもっとゆっくり時間をかける。でも、今回はそうもいかない」
「私が、いつか元の世界に帰るから?」
いつか元の世界へ帰れる方法か見つかったら、私はいなくなる。
「それがわかっていて、それでも恋人? きゅ…急にそんなこと言われても…」
「ここで今応える必要はない。でもあなたが『恋人』について話題にしたから、言うなら今だと思った。それに、そう思っているのは私だけではなさそうだから」
「どういう意味ですか?」
「アドキンス…彼はあなたに興味を持って花を贈ってきた。意味がわかりますか?」
詫びだと思っていたけど、そう訊かれると違う意味も考えられる。
「えっと…自惚れだと思われるかも知れませんが…え、まさか…」
「真意はわからない。でも可能性はある。しかし、彼が考えていることは今は重要ではない」
今ここにいない人の考えについて論じても仕方がない。
それにそこまで考える余裕も正直ない。目の前のことでいっぱいいっぱいだ。
混乱する頭でどうすればいいのか必死で考える。彼は恋人になろうとは言ったが、好きだとは言っていない。
「誤解しないでほしい。陛下から託されたあなたの保護とこのことは別だ。どんな答えでもあなたのことはレインズフォード家で最後まで責任を取ります」
もし私が断っても気まずい思いをしないように、今後の保障についても気を配ってくれる。
「誰でもいいわけではないと仰りましたが、なぜ」
なぜ、私なのか。
「理由は色々あります。私が男であなたが女だということ。それからあなたの容姿も…それについては先程も言いましたよね。でもそれは後付けです。最初に聖女と共に現れたあなたを見た時から気になっていました」
では、最初に声をかけてくれた時には聖女の連れとか異世界人ということ以外に私に関心があったということ?
俄に信じられない。
「その顔は信じられないという感じだ」
顔に出ていたみたいで、考えを見透かされた。
「あなたは私の仮面にも顔を背けなかった。そして話してみて、あなたとの会話が存外楽しく、私の直感が正しいことを実感しました」
「私も…アドルファスさんやレディ・シンクレアとお話しするのは楽しいです。でもそれは物珍しいからで」
「確かにそれは否定しません。こことあなたのいた世界との類似性や違いについて知るのは、面白い。でもそれだけではない」
さらに身を寄せ目と鼻の先まで詰め寄ってくる。仮面に覆われたその顔を、初めて会った時から怖いとか気味が悪いと思ったことはない。
その仮面の下にある傷のことを聞いてからは特に。
見える顔半分だけでも素敵なのだから、傷を負う前は女性が放っておかなかったとレディ・シンクレアも言っていた。たとえ残り半分にどれだけの傷が隠れていようと、その立ち居振る舞いや人柄があれば、それは関係ないと思う人もいるだろう。
「少し…考えさせてください」
断ってもいいのに、私の口から出たのはその言葉だった。
「良かった。すぐに断られないということは、少しは望みがあるということですね」
私の答えを彼は前向きに受け取る。実際そうだけど。
「さっきも言いましたが、嫌いではありません。でも、今の関係のままいるのと、恋人になることは違います」
「もちろんわかっています。だから、あなたに考える時間も差し上げますし、あなたが望まないことはしません。でも…」
「でも?」
「私と恋人関係になったら、どういうことになるか、少し情報がないと、判断できませんよね」
「え…あ、」
元々手を伸ばせばすぐに触れる位置に立っていた。
それでも彼は素早く私に手を伸ばして顎に触れると、あっという間に唇を奪った。
「それ…本気…ですか?」
「先程言ったでしょ、ここで何か役割をと…『私の恋人』役というのはどうですか?」
恋人 こいびと コイビト koibito
色々な表記が頭に浮かぶ。
いきなりのことに思考が停止してうまく言葉が出てこない。
これは異世界のジョークか、本気か、アドルファスさんの表情からは判断できない。
もしかしたら「太陽」が「ホロン」、「月」が「ソル」というように、「こいびと」と読む別の言葉かもと一瞬思った。
でも、私が先に「恋人」について話した時は、私の知る意味で会話が成り立っていた。
だから意味は同じはず。
「戸惑うのもわかるが、冗談とか冷やかしではない。若干思いつきのところはあるが、本気だ」
身を屈め耳元で囁かれ、息が耳にかかる。
「念の為に訊くけど、出会った女性みんなを口説いたり…」
「口説く相手は選んでいます。誰でもいいわけではない。それに時間も関係ありません」
まだ出会ったばかりだという牽制も先に封じられてしまった。
真っ直ぐ見つめるアイスブルーの目にはからかっている気配もない。
異世界に召喚されるという非現実的な経験をして、目にするもの聞くもの何もかも驚きの連続だけど、これは別格。
「時間のことを言えば、本当ならもっとゆっくり時間をかける。でも、今回はそうもいかない」
「私が、いつか元の世界に帰るから?」
いつか元の世界へ帰れる方法か見つかったら、私はいなくなる。
「それがわかっていて、それでも恋人? きゅ…急にそんなこと言われても…」
「ここで今応える必要はない。でもあなたが『恋人』について話題にしたから、言うなら今だと思った。それに、そう思っているのは私だけではなさそうだから」
「どういう意味ですか?」
「アドキンス…彼はあなたに興味を持って花を贈ってきた。意味がわかりますか?」
詫びだと思っていたけど、そう訊かれると違う意味も考えられる。
「えっと…自惚れだと思われるかも知れませんが…え、まさか…」
「真意はわからない。でも可能性はある。しかし、彼が考えていることは今は重要ではない」
今ここにいない人の考えについて論じても仕方がない。
それにそこまで考える余裕も正直ない。目の前のことでいっぱいいっぱいだ。
混乱する頭でどうすればいいのか必死で考える。彼は恋人になろうとは言ったが、好きだとは言っていない。
「誤解しないでほしい。陛下から託されたあなたの保護とこのことは別だ。どんな答えでもあなたのことはレインズフォード家で最後まで責任を取ります」
もし私が断っても気まずい思いをしないように、今後の保障についても気を配ってくれる。
「誰でもいいわけではないと仰りましたが、なぜ」
なぜ、私なのか。
「理由は色々あります。私が男であなたが女だということ。それからあなたの容姿も…それについては先程も言いましたよね。でもそれは後付けです。最初に聖女と共に現れたあなたを見た時から気になっていました」
では、最初に声をかけてくれた時には聖女の連れとか異世界人ということ以外に私に関心があったということ?
俄に信じられない。
「その顔は信じられないという感じだ」
顔に出ていたみたいで、考えを見透かされた。
「あなたは私の仮面にも顔を背けなかった。そして話してみて、あなたとの会話が存外楽しく、私の直感が正しいことを実感しました」
「私も…アドルファスさんやレディ・シンクレアとお話しするのは楽しいです。でもそれは物珍しいからで」
「確かにそれは否定しません。こことあなたのいた世界との類似性や違いについて知るのは、面白い。でもそれだけではない」
さらに身を寄せ目と鼻の先まで詰め寄ってくる。仮面に覆われたその顔を、初めて会った時から怖いとか気味が悪いと思ったことはない。
その仮面の下にある傷のことを聞いてからは特に。
見える顔半分だけでも素敵なのだから、傷を負う前は女性が放っておかなかったとレディ・シンクレアも言っていた。たとえ残り半分にどれだけの傷が隠れていようと、その立ち居振る舞いや人柄があれば、それは関係ないと思う人もいるだろう。
「少し…考えさせてください」
断ってもいいのに、私の口から出たのはその言葉だった。
「良かった。すぐに断られないということは、少しは望みがあるということですね」
私の答えを彼は前向きに受け取る。実際そうだけど。
「さっきも言いましたが、嫌いではありません。でも、今の関係のままいるのと、恋人になることは違います」
「もちろんわかっています。だから、あなたに考える時間も差し上げますし、あなたが望まないことはしません。でも…」
「でも?」
「私と恋人関係になったら、どういうことになるか、少し情報がないと、判断できませんよね」
「え…あ、」
元々手を伸ばせばすぐに触れる位置に立っていた。
それでも彼は素早く私に手を伸ばして顎に触れると、あっという間に唇を奪った。
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