41 / 118
41 眩しい朝
しおりを挟む
「お、おはようございます」
「おはよう」
次の日の朝、昨日と同じ部屋に行くとレディ・シンクレアが一人座っていた。
テーブルには昨日私が座っていた席に一人分の食器があるだけだった。
「アドルファスは、朝早くから会議があるとかで、もう出掛けました」
「そうなのですね」
私が問う前に察したレディ・シンクレアが教えてくれた。
朝会ったらどんな顔をしようかと思っていただけにホッとした。でもいないとわかると物足りない気もする。
突然の口づけ。
驚いて息を吸い込んだのが悪かったのか、アドルファスさんの舌が私の口の中に滑り込んで、引っ込めかけた舌に絡みついた。
魂まで吸われるのではと思うくらい強く吸い上げられ、一瞬のうちに膝の力が抜けた。
「ん、んんん…」
崩折れそうになるところを背中から抱きとめられ、そのまま抱え込まれた。
巧みに口腔内を動く舌が見えているのかと思うくらい、私の舌の動きを追ってきて、合間に舌先が歯列や上顎を刺激する。
「……っ…は、あ…」
溢れた唾液を飲み込んで、ようやく彼が唇を離してくれ、私は涙を流して力なく彼に寄りかかった。
「今夜はここまで」
ペロリと舌舐めずりしたアドルファスさんからは男の色気が漂っていた。
流れた涙も口から溢れた唾液も、彼が掌を顔に翳すと一瞬で乾いた。
ただ瞼は痛いし唇もジンジンするのは治らなかった。
「ユイナさん? 聞いている?」
「え、あ、はい」
夕べのことを思い起こしていてレディ・シンクレアの話が聞こえていなかった。
「す、すみません。少しぼーっとしていました」
「寝不足? 夕べはアドルファスと長い間庭にいたみたいだけど、夜更しもほどほどにね」
「あ、はい」
庭にいたことはレディ・シンクレアも知っているようだが、部屋でのことは言えない。
「それから、アドルファスから昼前には神殿に行けるように馬車の手配を頼まれていますから、そのつもりでね」
レディ・シンクレアがアドルファスさんの名前を口にする度にドキリとする。
彼女に不審がられないかと何でもない体を装っているつもりでも、彼女の目にどう写っているのか気になる。
例えて言うなら高校生が親の目を盗んで、自分の部屋でいけないことをしたような後ろめたさがある。
「ところで、聖女様ってどんな方なのかしら」
「そうですね。背は私より高くて、生粋のお嬢様です。とても美人で生徒会…生徒会はわかりますか?」
「生徒で組織した運営機関ね。この世界にもあります」
「その生徒会の役員もしていて、責任感のある子です」
「だから聖女の任も快諾したのね」
「そうだと思います。それに、私たちの世界では、異世界に召喚されて勇者や聖女として活躍する創作物もあって、だから今回のことも抵抗なく受け入れられたのではないでしょうか」
「そんな創作があるのね」
「はい。架空世界の物語は昔からありましたが、ここ最近はそれがとても多くなっていました。もし、先の聖女様がもう少し聖女の役割について基礎知識があったら、少しは違っていたかもしれませんね」
「そうね。そうだったら良かったわね。でも、過去は変えられない」
「おっしゃるとおりです」
「それで、ユイナさんの場合はどうなのかしら、少しはここでの生活に馴染めそう?」
「はい。皆さんのお陰です。ア、アドルファスさんにも、色々貴重な体験をさせていただきました」
夜光香の花や空に浮かんで見た都の夜景は美しかった。
その後のことは、まだどう応えるべきか答えは見つかっていない。
「私達も貴重な体験ができて楽しいわ。私とアドルファスだけだった生活に新しい風を吹き込んでくれたようです」
「そう言ってもらえて嬉しいです。少しは役に立ちましたか」
「あなたはもう少し人から世話を焼かれることに慣れたほうがいいわ。傲慢な態度はよろしくありませんが、そう何でもお礼ばかり言っていてはきりがありません」
生まれてからずっと仕えられる側にいる彼女たちと違い、こちらは庶民の出で、自分の世話をしてもらうとか、ここまで他人に面倒を見てもらうことにはなかなか慣れない。
「まあ、謙虚なところもあなたの美徳なのでしょうけどね」
苦笑いする私の様子を見て彼女もすぐには無理だと悟ったらしい。
「ところで、聖女様のおられる神殿についてだけど…」
これから訪れる神殿とこの国の信仰についてレディ・シンクレアが私に基礎知識を話してくれた。
「おはよう」
次の日の朝、昨日と同じ部屋に行くとレディ・シンクレアが一人座っていた。
テーブルには昨日私が座っていた席に一人分の食器があるだけだった。
「アドルファスは、朝早くから会議があるとかで、もう出掛けました」
「そうなのですね」
私が問う前に察したレディ・シンクレアが教えてくれた。
朝会ったらどんな顔をしようかと思っていただけにホッとした。でもいないとわかると物足りない気もする。
突然の口づけ。
驚いて息を吸い込んだのが悪かったのか、アドルファスさんの舌が私の口の中に滑り込んで、引っ込めかけた舌に絡みついた。
魂まで吸われるのではと思うくらい強く吸い上げられ、一瞬のうちに膝の力が抜けた。
「ん、んんん…」
崩折れそうになるところを背中から抱きとめられ、そのまま抱え込まれた。
巧みに口腔内を動く舌が見えているのかと思うくらい、私の舌の動きを追ってきて、合間に舌先が歯列や上顎を刺激する。
「……っ…は、あ…」
溢れた唾液を飲み込んで、ようやく彼が唇を離してくれ、私は涙を流して力なく彼に寄りかかった。
「今夜はここまで」
ペロリと舌舐めずりしたアドルファスさんからは男の色気が漂っていた。
流れた涙も口から溢れた唾液も、彼が掌を顔に翳すと一瞬で乾いた。
ただ瞼は痛いし唇もジンジンするのは治らなかった。
「ユイナさん? 聞いている?」
「え、あ、はい」
夕べのことを思い起こしていてレディ・シンクレアの話が聞こえていなかった。
「す、すみません。少しぼーっとしていました」
「寝不足? 夕べはアドルファスと長い間庭にいたみたいだけど、夜更しもほどほどにね」
「あ、はい」
庭にいたことはレディ・シンクレアも知っているようだが、部屋でのことは言えない。
「それから、アドルファスから昼前には神殿に行けるように馬車の手配を頼まれていますから、そのつもりでね」
レディ・シンクレアがアドルファスさんの名前を口にする度にドキリとする。
彼女に不審がられないかと何でもない体を装っているつもりでも、彼女の目にどう写っているのか気になる。
例えて言うなら高校生が親の目を盗んで、自分の部屋でいけないことをしたような後ろめたさがある。
「ところで、聖女様ってどんな方なのかしら」
「そうですね。背は私より高くて、生粋のお嬢様です。とても美人で生徒会…生徒会はわかりますか?」
「生徒で組織した運営機関ね。この世界にもあります」
「その生徒会の役員もしていて、責任感のある子です」
「だから聖女の任も快諾したのね」
「そうだと思います。それに、私たちの世界では、異世界に召喚されて勇者や聖女として活躍する創作物もあって、だから今回のことも抵抗なく受け入れられたのではないでしょうか」
「そんな創作があるのね」
「はい。架空世界の物語は昔からありましたが、ここ最近はそれがとても多くなっていました。もし、先の聖女様がもう少し聖女の役割について基礎知識があったら、少しは違っていたかもしれませんね」
「そうね。そうだったら良かったわね。でも、過去は変えられない」
「おっしゃるとおりです」
「それで、ユイナさんの場合はどうなのかしら、少しはここでの生活に馴染めそう?」
「はい。皆さんのお陰です。ア、アドルファスさんにも、色々貴重な体験をさせていただきました」
夜光香の花や空に浮かんで見た都の夜景は美しかった。
その後のことは、まだどう応えるべきか答えは見つかっていない。
「私達も貴重な体験ができて楽しいわ。私とアドルファスだけだった生活に新しい風を吹き込んでくれたようです」
「そう言ってもらえて嬉しいです。少しは役に立ちましたか」
「あなたはもう少し人から世話を焼かれることに慣れたほうがいいわ。傲慢な態度はよろしくありませんが、そう何でもお礼ばかり言っていてはきりがありません」
生まれてからずっと仕えられる側にいる彼女たちと違い、こちらは庶民の出で、自分の世話をしてもらうとか、ここまで他人に面倒を見てもらうことにはなかなか慣れない。
「まあ、謙虚なところもあなたの美徳なのでしょうけどね」
苦笑いする私の様子を見て彼女もすぐには無理だと悟ったらしい。
「ところで、聖女様のおられる神殿についてだけど…」
これから訪れる神殿とこの国の信仰についてレディ・シンクレアが私に基礎知識を話してくれた。
17
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】
日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
料理がマズいと言われ続けて限界がきたので、もっとマズいものを作って差し上げたら旦那様に泣かれてしまいました
九条 雛
恋愛
和平の証として魔族の元へと嫁がされたエルネットは、作った料理が不味いと毎日なじられ続けていた。
それでも魔族の慣わしとして、家族の口へと入る料理は彼女が作らねばならないらしい。
侯爵家の令嬢で、料理をしたことがなかった自分が悪いのだと努力を続けるエルネットだったが、それでも夫は彼女の料理を不味いと言い捨て、愛人の元へ通いに行くと公言する。
ほとんど限界を迎えていた彼女の中で、ついに何かがプツリと切れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる