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52 突然の発作
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『旅の恥は掻き捨て』という言葉はこの場合当て嵌まるのだろうか。
財前さんの聖女召喚に巻き込まれ、寄る辺もない立場にも関わらす、身柄を保護してくれる人がいて、路頭に迷わずにすんだ。
元の世界に帰る方法がみつかるまでは期限のないホームステイにも思える。
異文化交流のついでに、現地の人と付き合ってみるというのは、いささか飛躍し過ぎだろうか。
そして一番の問題
私がこれ以上の彼からの誘惑に耐える自信がない。
恋人になる前と後で、何がどう変わるのか。
「恋人って言っても…付き合いだしてすぐはね、何もないよね」
運悪く(?)レディ・シンクレアはその日訪問した先で泊まってくると連絡が入り、夕食はアドルファスさんと二人きりだった。
もちろん給仕の人たちも周りにいるので、完全には二人きりではない。
この世界に来て三度目の夕食は、少し静かだった。
レディ・シンクレアがいないせいもあるが、さっきまでふざけたりしていたのに、アドルファスさんも口数が少ない。
食事の量もお酒の量も、この二日間見てきた中では一番減りが遅かった。
「あの、どうかされましたか?」
次のひと口をどうするか悩んでいる様子で、じっとしているのを見て声をかけた。
「何がですか?」
「今日は食べるのが遅いので…」
「ちょっと…考え事をしていました」
指摘されて慌てて肉を口に運んだが、それを咀嚼して飲み込むのに時間がかかっている。
「申し訳ありませんが、先に失礼してよろしいですか」
「あ、はい」
そう言ってアドルファスさんは、珍しく食事を残して先に食堂を出て行った。
心配ごとでもあるのか、それとも具合でも悪いのだろうか。馬車の中では普通だった。
とは言え、彼の状態を判断できるほどの情報は私にはない。
「アドルファスさん、大丈夫ですか?」
ディーターさんに訊ねる。
よりによって今夜はレディ・シンクレアがいない。具合が悪いならお医者様を呼んでもらったりしないと。本気
「後で様子を見て参りますが…もしかしたら」
「もしかしたら?」
ディーターさんの表情が険しくなり、不安が過る。
「お話していいものか…」
彼は心当たりがあるようだが、それを私に言っていいか迷っている。
「言い難いなら無理には訊きません」
「申し訳ございません」
「気にしないでください。被雇用人と雇用主の信頼関係に踏み込むつもりはありません」
私は今はここの居候でしかない。ディーターさんはレインズフォード家の被雇用人で、アドルファスさんのプライベートについて洩らすのは倫理違反だろう。
「ディーターさんの立場もわかります」
「ディーターさん、大変です!」
その時、メイドの一人が駆け込んできた。
「フィーナ、どうした? はしたないぞ、そのように走って」
「す、すみません…ディーターさん…で、でも、アドルファス様が、」
「旦那様がどうした?」
彼女からアドルファスさんの名前が出てディーターさんの顔が一気に強張る。
「お、お倒れに」
「なんだって!」「え!」
二人同時に叫びフィーナを驚かせた。
「ど、どちらにおられる」
「お、お部屋の前まで来られて、急に崩れるように…」
「すぐに行く!お前は男たちを何人か呼んでこい」
「は、はい」
「わ、私も行っていいですか」
走り出すディーターさんの後を追う。彼は一度振り向いて思案してから頷いた。
「構いませんが…」
ディーターさんの後ろをついて二階に行くと、廊下の先で膝をついて踞っているアドルファスさんの姿があった。
「旦那様」
「アドルファスさん」
ディーターさんと共に駆け寄ると、彼はゆっくりこちらを向いた。
「ディー…」
「まさか、発作ですか?」
「その…ようだ…」
息も荒く、寒いのかブルブルと震えている。いつも大きく堂々としているアドルファスさんからは想像ができないくらい弱々しい。彼の体の周りに靄のようなものがあり、蛇のように体に巻き付いているのが見えた。
「ディーターさん!」
そこへフィーナが数人の男性を連れて走ってきた。
「例の発作だ。お前たち旦那様を部屋へ、フィーナは神殿へ遣いを送るよう手配してくれ」
「わ、わかりました」
「旦那様、さあ」
フィーナが走っていき、男性たちが三人がかりでアドルファスさんを持ち上げて部屋へと運んだ。
体を持ち上げられぐったりと頭を傾け、運ばれていくアドルファスさんの姿に、一体何があったのかと気を揉みながら私も部屋へと入って行った。
部屋は二間続きで、入って左に寝室があった。
「カーテンを閉めろ」
ディーターさんの指示でアドルファスさんを運んだ後、皆でカーテンを閉めた。
それと同時にディーターさんが灯りを点ける。
「く…」
灯りに照らされたアドルファスさんの顔は苦痛に歪んでいる。脂汗も掻いて胎児のように体を丸め、ブルブルと震えている。
靄のようなものは更に巻き付き、それが縮まる度にアドルファスさんの口からうめき声が漏れる。
「ディーターさん、アドルファスさんに何が?」
屋敷に帰ってきた時までは元気そうだった。この短時間の間に何があったのか。
「時折こうなるんです」
彼からタオルを受け取り脂汗を拭う。
「発作なんです」
「発作?」
財前さんの聖女召喚に巻き込まれ、寄る辺もない立場にも関わらす、身柄を保護してくれる人がいて、路頭に迷わずにすんだ。
元の世界に帰る方法がみつかるまでは期限のないホームステイにも思える。
異文化交流のついでに、現地の人と付き合ってみるというのは、いささか飛躍し過ぎだろうか。
そして一番の問題
私がこれ以上の彼からの誘惑に耐える自信がない。
恋人になる前と後で、何がどう変わるのか。
「恋人って言っても…付き合いだしてすぐはね、何もないよね」
運悪く(?)レディ・シンクレアはその日訪問した先で泊まってくると連絡が入り、夕食はアドルファスさんと二人きりだった。
もちろん給仕の人たちも周りにいるので、完全には二人きりではない。
この世界に来て三度目の夕食は、少し静かだった。
レディ・シンクレアがいないせいもあるが、さっきまでふざけたりしていたのに、アドルファスさんも口数が少ない。
食事の量もお酒の量も、この二日間見てきた中では一番減りが遅かった。
「あの、どうかされましたか?」
次のひと口をどうするか悩んでいる様子で、じっとしているのを見て声をかけた。
「何がですか?」
「今日は食べるのが遅いので…」
「ちょっと…考え事をしていました」
指摘されて慌てて肉を口に運んだが、それを咀嚼して飲み込むのに時間がかかっている。
「申し訳ありませんが、先に失礼してよろしいですか」
「あ、はい」
そう言ってアドルファスさんは、珍しく食事を残して先に食堂を出て行った。
心配ごとでもあるのか、それとも具合でも悪いのだろうか。馬車の中では普通だった。
とは言え、彼の状態を判断できるほどの情報は私にはない。
「アドルファスさん、大丈夫ですか?」
ディーターさんに訊ねる。
よりによって今夜はレディ・シンクレアがいない。具合が悪いならお医者様を呼んでもらったりしないと。本気
「後で様子を見て参りますが…もしかしたら」
「もしかしたら?」
ディーターさんの表情が険しくなり、不安が過る。
「お話していいものか…」
彼は心当たりがあるようだが、それを私に言っていいか迷っている。
「言い難いなら無理には訊きません」
「申し訳ございません」
「気にしないでください。被雇用人と雇用主の信頼関係に踏み込むつもりはありません」
私は今はここの居候でしかない。ディーターさんはレインズフォード家の被雇用人で、アドルファスさんのプライベートについて洩らすのは倫理違反だろう。
「ディーターさんの立場もわかります」
「ディーターさん、大変です!」
その時、メイドの一人が駆け込んできた。
「フィーナ、どうした? はしたないぞ、そのように走って」
「す、すみません…ディーターさん…で、でも、アドルファス様が、」
「旦那様がどうした?」
彼女からアドルファスさんの名前が出てディーターさんの顔が一気に強張る。
「お、お倒れに」
「なんだって!」「え!」
二人同時に叫びフィーナを驚かせた。
「ど、どちらにおられる」
「お、お部屋の前まで来られて、急に崩れるように…」
「すぐに行く!お前は男たちを何人か呼んでこい」
「は、はい」
「わ、私も行っていいですか」
走り出すディーターさんの後を追う。彼は一度振り向いて思案してから頷いた。
「構いませんが…」
ディーターさんの後ろをついて二階に行くと、廊下の先で膝をついて踞っているアドルファスさんの姿があった。
「旦那様」
「アドルファスさん」
ディーターさんと共に駆け寄ると、彼はゆっくりこちらを向いた。
「ディー…」
「まさか、発作ですか?」
「その…ようだ…」
息も荒く、寒いのかブルブルと震えている。いつも大きく堂々としているアドルファスさんからは想像ができないくらい弱々しい。彼の体の周りに靄のようなものがあり、蛇のように体に巻き付いているのが見えた。
「ディーターさん!」
そこへフィーナが数人の男性を連れて走ってきた。
「例の発作だ。お前たち旦那様を部屋へ、フィーナは神殿へ遣いを送るよう手配してくれ」
「わ、わかりました」
「旦那様、さあ」
フィーナが走っていき、男性たちが三人がかりでアドルファスさんを持ち上げて部屋へと運んだ。
体を持ち上げられぐったりと頭を傾け、運ばれていくアドルファスさんの姿に、一体何があったのかと気を揉みながら私も部屋へと入って行った。
部屋は二間続きで、入って左に寝室があった。
「カーテンを閉めろ」
ディーターさんの指示でアドルファスさんを運んだ後、皆でカーテンを閉めた。
それと同時にディーターさんが灯りを点ける。
「く…」
灯りに照らされたアドルファスさんの顔は苦痛に歪んでいる。脂汗も掻いて胎児のように体を丸め、ブルブルと震えている。
靄のようなものは更に巻き付き、それが縮まる度にアドルファスさんの口からうめき声が漏れる。
「ディーターさん、アドルファスさんに何が?」
屋敷に帰ってきた時までは元気そうだった。この短時間の間に何があったのか。
「時折こうなるんです」
彼からタオルを受け取り脂汗を拭う。
「発作なんです」
「発作?」
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